寺院・神社建築の屋根の様式は主に切妻、寄棟、入母屋の3つがあることについて以前の記事で書きました。今回は神社建築における切妻(きりづま)について更に詳しく分類し、"流造"とか"春日造"とか言ったメジャーな建築様式の特徴と、見分けかたのコツについて解説いたします。
社殿を見て「これはXX造だ!」と分かるようになれば、神社巡りの楽しみも大きく増えるはずです。
「そもそも切妻って何?」という方は、以下の記事を参照いただけると幸いです。
目次
切妻屋根の神社建築の見分けかた
平入と妻入に分類する
切妻は、屋根の様式としては最もシンプルな部類に入ります。そしてシンプルなだけに数多くの派生があり、"XX造"といったような建築様式がいくつか存在します。
切妻の社殿の建築様式を見分けるにあたって、まず注目していただきたいのは平入(ひらいり)か妻入(つまいり)かです。
平入・妻入というのは、屋根に対して出入口がどちらの方向についているかを区別するための建築用語です。平入・妻入を見分ける方法は簡単で、建物の正面に立って見たときに
大棟が左右に伸びているのが平入
大棟が前後に伸びているのが妻入です。
“大棟”という用語がいまいち解らない人のためにもっと簡単に言うと、正面から見たときに
屋根の面が見えるのが平入
屋根が三角形(山状)のシルエットに見えるのが妻入です。
下の写真を見比べれば、平入と妻入のちがいはなんとなく解ると思います。
平入か妻入かがわかれば、建築様式の特定まであと一息です。
次の項目では、平入だった場合と妻入だった場合とに分け、建築様式を見分けるためのポイントや格様式の特徴について解説して行きます。
平入の建築様式
平入だった場合、考えられるのは以下の2様式です。
・流造(ながれづくり)
・神明造(しんめいづくり)
この2様式は似ても似つかないので、簡単に見分けることができます。
流造(ながれづくり)
流造の特徴は、正面側の屋根が長く曲線的にのびていることと、のびた屋根が階段の庇(ひさし)を兼ねていることです。側面から見ると、屋根が「へ」の字を描いています。
流造は神社の建築様式として最もポピュラーで、神社の本殿は大半が流造です。
また、流造は複数を左右に連結させて横長な建物にすることも可能で、柱間が1つだけのミニマムなものから、柱間が11もある長大なものまで存在し、バリエーション豊かです。
流造はとにかく数が多く、ありふれているので、見かけた際は柱間がいくつあるのかも見ておくと良いでしょう。
なお、下の画像に示したような三角形の構造物がついている流造もときどきあり、これは千鳥破風(ちどりはふ)という装飾になります。他にも、唐破風(からはふ)が付いている例もあります。千鳥破風や唐破風があったからといって別の様式になるわけではないので、こういった装飾に惑わされないよう注意しましょう。
神明造(しんめいづくり)
(仁科神明宮 左側が神明造の本殿)
神明造は神社の建築様式として最も原始的なものとされ、著名な例を挙げると伊勢神宮や熱田神宮があります。雰囲気的には、高床式倉庫や神棚に似ています。具体的な特徴を列挙すると、
・直線的な屋根
・屋根に千木と鰹木が付いている
・柱が地面に直接ささっている(石立てのものもある)
・高床式
・彫刻がない
以上の点が挙げられます。他にも特徴はありますが、上に列挙した特徴が神明造の必須条件の一部になります。
余談になりますが、神明造の社殿は伊勢神宮の領地にのみ造営が許されていた歴史があり、明治よりも前の神明造は国宝かそれに順ずる価値のあるものが多いです。逆に言うと、特に文化財指定されていない神明造は、ほとんどが近現代の造営です。
妻入の建築様式
妻入だった場合、考えられるのは以下の2様式です。
・春日造(かすがづくり)
・大社造(たいしゃづくり)
この2様式も見分けは非常に簡単ですが、大社造は山陰地方以外の場所で見かける機会はほぼないでしょう。
春日造(かすがづくり)
春日造の特徴は、曲線的な屋根と、屋根と一体になった庇が正面にだけ付いていることです。よくある様式なので、妻入の神社本殿を見たらまず春日造であるかどうかを検討するといいでしょう。
慣れないうちは妻入の入母屋と混同してしまうかもしれないですが、そういうときは後ろ側から見てみると良いでしょう。春日造は、背面には庇がついていません。
なお、柱間が1つだけのもの(一間社春日造)がほとんどで、春日造はメジャーな様式ではありますがバリエーションはさほど多くないです。あったとしても柱間が3間のものや、庇の正面が唐破風になったものくらいです。
大社造(たいしゃづくり)
大社造は神明造とならんで原始的な様式とされ、出雲大社(いずもおおやしろ)が代表的です。柱が地面に直接ささっている点(石立ての場合もあり)と高床である点は神明造と共通していますが、こちらは妻入であり、構造が全くちがいます。特徴は、
・正方形の平面構造(母屋の正面と奥行の比が1:1)
・間口は2間で、向かって右側の柱間が出入口になるので左右非対称
以上が挙げられます。やはり最大の特徴は出入口で、神社本殿において左右非対称の建築様式は他にありません。
まとめ
以上、4つの建築様式を解説しましたが、切妻の神社本殿を分類するときは
・まず平入か妻入かを見分ける
・平入なら流造、妻入なら春日造の可能性が高い
この2点を検討してみましょう。切妻の神社本殿はほとんどが流造か春日造に該当します。
そして、平入では流造と神明造、妻入では春日造と大社造が切妻屋根のメジャーな建築様式になります。ただし、この4様式に該当しない神社本殿もあります。
とはいえ、住吉造(大鳥造)や貫前造のようなほとんど例のないものだったり、そうでなければ特にこれといった様式に該当しない普通の切妻造だったりするので、基本的に当記事で解説した4様式を覚えておけば問題ないでしょう。
神社建築というものは我々の寝起きする建物とは根本的に異なる造りをしており、その特異な雰囲気を楽しむのも寺社巡りの醍醐味の1つです。建築様式の見分けができるようになれば、より深く寺社を楽しむことができるようになるはずです。
以上、神社建築の「造り」の見分けかたでした。