甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【野洲市】大笹原神社

今回は滋賀県野洲市の大笹原神社(おおささはら-)について。

 

大笹原神社は市東部の山際に鎮座しています。

創建は社伝によれば986年(寛和2年)。1414年に岩倉城主・馬淵定信によって社殿が再建され、これが現在の社殿となっています。

本殿は国宝に指定されています。室町幕府の最盛期といえる時期のもので、東山文化の影響を強く受け、当時としては非常に装飾性の強い華美な作風です。また、境内社の篠原神社も同時期の造営で、国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒520-2313滋賀県野洲市大篠原2375(地図)
アクセス 篠原駅から徒歩40分
竜王ICから車で15分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

参道

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大笹原神社の参道は西向き。後述の社殿は南向きとなっています。

鳥居は木造の明神鳥居。扁額は外されていました。

 

国宝の本殿があると聞いていたので、近在の苗村神社御上神社のような整然とした境内をイメージして来たのですが、どちらかと言えば村の鎮守といった趣のひなびた境内。これはこれで雰囲気があり、この先に国宝があるという意外性も素敵だと思います。

 

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参道右手には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

拝殿

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鳥居から百メートルほど進むと参道が左手に折れ、社殿が南向きに鎮座しています。

拝殿は入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間、銅板葺。

造営年は不明。

滋賀県内でよく見かける壁のない拝殿ですが、この拝殿は正面に向拝がついており、拝殿らしい造りをしています。

 

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向拝の水引虹梁にはまっすぐなしめ縄。

中備えは蟇股。はらわたの彫刻は菊の花と思しき題材で、良い造形だと思います。

 

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向拝柱は大きく面取りされいて古風。

木鼻はシダの葉のような彫りがあり、繰型もシルエットも独特。

 

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向拝柱の柱上の組物は出三斗。

組物の上では手挟が軒裏を受けています。手挟には前述の木鼻と似た繰型がついていて、凝った意匠になっています。

 

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縁側は切目縁、欄干は跳高欄。

擬宝珠のついた親柱はエンタシスのような形状で、上に向けてすぼまってゆくシルエット。

 

本殿

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拝殿の後方には本殿が鎮座しています。構造や様式は同市の御上神社本殿とほぼ同じですが、雰囲気やプロポーションはまったくの別物に仕上がっています。

桁行3間・梁間3間、三間社入母屋、向拝1間、檜皮葺。

棟札より1414年(応永二十一年)造営国宝

祭神はスサノオ、稲田姫、八柱御子神(八王子神?)など。

 

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向拝柱は角面取り。遠目に見ることしかできませんが、面取りは大きめに取られていることが確認できます。

水引虹梁の中備えは蟇股。はらわたの題材は不明。

柱上の組物は連三斗。虹梁木鼻のかわりに設けられた斗栱が、連三斗を下から持ち送りしています。

 

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母屋柱はいずれも円柱。正面の柱間は斜めの格子、側面後方の壁面はしっくい塗りになっています。

軸部は長押と頭貫で固定されています。しかし頭貫木鼻は使われておらず、この点では鎌倉以前の古風な造りをしています。

母屋柱上の組物はいずれも出三斗。

中備えは蟇股。はらわたに彫刻がありますが題材不明。ここに彫刻を入れるのは鎌倉~室町あたりに出現する比較的新しい作風です。

 

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縁側は4面にまわされ、欄干は跳高欄。縁の下は縁束。

縁側は前方の1間の床を低くしています。おそらく母屋後方の空間のほうが格上であることを示しているのだと思われますが、前室を構成する柱は角柱ではなく円柱が使われています(寺社建築では角柱より円柱のほうが格上)。

 

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反対側。

縁側の後方をふさぐ脇障子には、樹木を題材にしたと思しき彫刻が入っています。

このような意匠は安土桃山時代あたりに普及するものですが、この本殿は室町前期の造営です。後付けの可能性を疑いたくなりますが、さすがに国宝指定されている本殿でそれはないと思うので、造営当初からあったものでしょう。

表現を変えれば、寺社建築における欄間彫刻の最古の例のひとつと考えて良いかもしれません。

 

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全体図。

屋根は四隅の軒先が適度なバランスで反り返り、鎌倉期の作風を思わせる優美なシルエットではないでしょうか。いっぽう、蟇股や脇障子には当時の最先端を行く彫刻が配されていて、寺社彫刻の歴史や発展の過程を雄弁に物語っています。

 

篠原神社本殿

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大笹原神社本殿の左隣(西側)には境内社の篠原神社本殿が鎮座しています。通称は餅の宮。

一間社隅木入り春日造、檜皮葺。

棟札より1425年(応永三十二年)造営国指定重要文化財

祭神は石凝姥命比売命(いしこりどめのみこと ひめのみこと)。餅の神とのこと。

 

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遠くて詳細がわかりませんが、こちらも中備えに蟇股彫刻が配され、大笹原神社本殿と似た作風。

ただし母屋中備えの蟇股や、縁側の脇障子は省略されていました。

 

以上、大笹原神社でした。

(訪問日2021/03/12)