今回は滋賀県野洲市の御上神社(みかみ-)について。
御上神社は国道8号沿線の三上地区に鎮座しています。
創建は孝霊天皇(7代天皇)の時代とされ、近隣にある三上山を神体として祀ったのが始まりとされています。平安期には藤原不比等によって現在地に社殿が建立され、『延喜式』に記載された式内社となっています。
境内は広大な社叢に覆われ、多数の古建築が現存しています。とくに本殿は鎌倉時代の造営で、神社と寺院の中間的な独特の造りをしており、貴重な遺構として国宝に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒520-2323滋賀県野洲市三上838(地図) |
アクセス | 野洲駅から徒歩30分 栗東ICから車で10分 |
駐車場 | 80台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 御上神社公式ホームページ |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
御上神社の境内は南向き。
鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「御上神社」。
参道左手には手水舎。
切妻、桟瓦葺。
楼門(随神門)
鳥居の先には楼門。下層に随神像があるので随神門です。
三間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。
造営は室町時代と考えられています。国指定重要文化財。
柱はいずれも円柱。柱上の組物は二手先で、上層の縁側を受けています。
頭貫の上の中備えは、中央の通路上に蟇股、そのほかは間斗束。
左右の柱間の壁面は、しっくいで塗り固められています。
頭貫に木鼻の類は使われていません。
中備えや組物は正面と同様。
上層。
縁側は切目縁、欄干は跳高欄。
見づらいですが、こちらは頭貫に拳鼻がつけられています。
柱上の組物は三手先。中備えは間斗束と巻斗。
持ち出された軒桁の下には、格子の小天井と軒支輪。
軒裏は二軒繁垂木。母屋に対して軒の出が深く、壮観の軒裏です。
屋根は勾配が急で、軒先が反り返っています。
破風板の拝みには猪目懸魚。破風の内部は小さいうえ奥まっていて観察できず。
大棟鬼板には鬼瓦。
拝殿
拝殿は入母屋、檜皮葺。
造営は鎌倉後期と考えられています。国指定重要文化財。
旧本殿を移築・改造したものとのこと。
柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定され、頭貫に木鼻はありません。
組物は、隅の柱にのみ舟肘木が使われています。中備えはなく、しっくい塗り。
軒裏は二軒繁垂木。
本殿
境内の最奥部には本殿が鎮座しています。
桁行3間・梁間3間、三間社入母屋、向拝1間、檜皮葺。
鎌倉後期の造営と推定されています。国宝。
祭神は天之御影命(あめのみかげのみこと)。アマテラスの孫のようです。
鎌倉以前の本殿は現存例があまり多くなく貴重で、当時の本殿としてはかなり大型です。屋根の上に千木と鰹木が載っているため神社の社殿であることがはっきりと分かりますが、造りは仏堂に近く、サイズや雰囲気もあまり本殿らしくありません。また、本殿の附として厨子(仏像を納める箱)も国宝指定されています。
神社本殿に入母屋が採用された例として最古級の遺構とされ、建築史的な観点から考えてもきわめて価値の高い物件といえるでしょう。
向拝。この部分は室町初期の1337年(建武四年)の改造によるもののようです(滋賀県教育委員会の案内板より)。
虹梁中備えの蟇股ははらわた(内部の彫刻)があったようですが、欠損してしまったとのこと。
向拝柱は角面取り。面取りの幅が非常に大きく、鎌倉期らしい作風。
組物は連三斗。柱の側面から出た斗栱が、連三斗を持ち送りしています。
向拝の組物のうえで軒裏を受ける手挟は、案内板いわく“珍しい形をしている”とのこと。
たしかに“珍しい形”としか言いようがない、名状しがたい独特な形状をしています。このような手挟はほかに見たことがありません。
向拝柱と母屋をつなぐ懸架材はありません。
向拝の軒下には角材の階段が7段。階段の下には浜床。
昇高欄の親柱は擬宝珠付きで、向拝柱の後方に立てられています。
母屋正面は柱間が3つあり(桁行3間)、中央の柱間は両開きの板戸、左右の柱間はしっくい壁。
神社本殿でしっくい塗りが使われる場合、たいていは柱などが丹塗りにされますが、この本殿の柱は白木(無塗装)です。なんとなく仏堂のような雰囲気があるのは、この辺りが一因でしょう。
母屋正面および左側面(西面)。
軸部は長押で固定され、頭貫らしきものは見えません。当然ながら頭貫木鼻もなく、純和様の古風な造り。
柱上は隅の柱の上にのみ舟肘木が使われ、ほかの柱は軒桁を直接受けています。斗栱を使わないという点も非常に古風です。
側面前方の1間には簾が掛けられており、ここはおそらく通用の扉があるのでしょう。
その後方、側面中央の柱間の上部には連子窓が設けられています。連子窓は楼門や仏塔に使われる意匠で、神社本殿に使われることはあまりありません。
背面。こちらは縁側がありません。
中央には用途不明の扉が設けられています。神体の三上山を遥拝するためという説もありますが、三上山はこの本殿の東(向かって右)の方角にあり、この扉からは遥拝できないと思われます。
軒裏は二軒繁垂木。垂木のあいだに見える軒板はしっくい塗りになっており、屋根の軒反りと相まって軽快な印象。
向拝の縋破風。
とくに目立った意匠はなく、桁隠しもないため向拝軒桁の木口が露出しています。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。入母屋破風内部は観察できず。
大棟鬼板の紋は釘抜き。大棟前面には釘抜きを2つ組み合わせた「違い釘抜き」。
大棟の上部には千木と鰹木が載っています。千木は置き千木で風穴があき、外削ぎ。鰹木は3本あり、中央がわずかに膨らんだ形状。
縁側は向拝と同様に室町初期の改造とのこと。
切目縁が3面にまわされています。欄干は跳高欄。
縁束は円柱が使われており、縁束の礎石は反花という意匠が彫られています。
母屋は亀腹の上に立てられ、母屋柱は床下も円柱に成形されています。
正面図。
建築史的な価値もさるものながら、しっくい塗りの清楚な母屋と檜皮葺の優美な屋根のコントラストが美しく、名建築のひしめく滋賀県内でも傑作の物件ではないでしょうか。
まわりに囲いもなく、国宝の本殿を間近で観察できる点もとても嬉しいです。
若宮神社
本殿の左手(西)には摂社・若宮神社。
一間社流造、檜皮葺。
鎌倉後期の造営と考えられ、国指定重要文化財。
祭神はイザナキや天神など。
古いもののため向拝柱の面取りが大きいです。
虹梁中備えは蟇股で、はらわらには小さな若葉や唐草のような彫刻が入っています。
組物は連三斗。
見切れてしまっていますが、向拝柱と母屋はまっすぐな梁でつながれています。
こちらの本殿は頭貫が見えますが、やはり木鼻は使われていません。
柱上には舟肘木。斗栱はありません。
妻壁は豕扠首。
三宮神社
本殿右手(東)には末社・三宮神社。
一間社流造、檜皮葺。
室町期の造営とされ、こちらも国重文。
祭神はニニギ。
向拝柱は角面取り。御上神社本殿のものとくらべると、面取りの割合は小さめ。
組物は連三斗。
虹梁中備えは蟇股で、はらわたには菊あるいは牡丹と思しき彫刻があります。ここは室町時代らしい写実的な作風。
大まかな構造は前述の若宮神社と同様。
脇障子の蹴込板には、雲形の枠に花の蕾のような意匠が彫られていました。
以上、御上神社でした。
(訪問日2021/03/12)