甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【焼津市】焼津神社

今回は静岡県焼津市の焼津神社(やいづ-)について。

 

焼津神社は市の中心市街地に鎮座しています。

創建は不明。記紀によると、ヤマトタケルが東征の際に当地で焼き討ちに遭い、これが焼津の地名の由来になったとのこと*1。社伝によると第18代・反正天皇の時代、ヤマトタケルの火難伝説にもとづいて神社が創建され、これが当社の創建らしいです。

平安時代の『延喜式』には焼津神社の記載があり、式内社に列しています。鎌倉時代の沿革は不明ですが、室町時代は今川氏の崇敬を受け、「入江大明神」と呼ばれていました。江戸時代は幕府の崇敬を受け、徳川家康によって社殿が造営されました。

現在の境内は江戸前期から近代にかけてのもの。広々とした境内に多数の社殿が点在し、徳川家康によって造られたとされる本殿は市の文化財に指定されています。ほか、当社の祭礼が国と県の無形民俗文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒425-0026静岡県焼津市焼津2-7-2(地図)
アクセス 焼津駅から徒歩15分
焼津ICから車で10分
駐車場 40台(無料)
営業時間 境内は随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 焼津神社
所要時間 15分程度

 

境内

参道と境内社

焼津神社の境内は南向き。南側の入口は、市内の幹線となる県道に面しています。

右の社号標は「延喜式内 焼津神社」。

奥には銅板でカバーされた明神鳥居が立っています。

 

鳥居をくぐって参道を進むと、右手にヤマトタケル(日本武尊)像とさざれ石が西面しています。

 

ヤマトタケル像の向かいには邪鬼祠なる社殿があります。

こちらは拝殿で、切妻、桟瓦葺。

 

本殿は一間社神明造、銅板葺。

室外に棟持柱が立ち、破風板には鞭懸(4本の棒)、大棟は棟覆板がかぶさり、千木と鰹木が乗っています。いずれも神明造の特徴的な意匠です。

 

手水舎は参道左手にあります。

切妻、銅板葺。

 

さらに参道を進むと、左手に焼津御霊神社が東面しています。当地から出征した戦死者を祀った社殿です。

こちらは拝殿で、入母屋、桟瓦葺。

 

柱は角柱で、頭貫に木鼻が付き、柱上に台輪が通っています。

組物は出三斗と平三斗。中備えも平三斗です。

 

拝殿後方に幣殿(写真右の低い棟)が伸び、その先に本殿があります。

本殿は、一間社春日造、銅板葺。

 

焼津御霊神社の北側には天満宮。後方には梅の木と牛の像があります。

天満宮の社殿は、一間社春日造、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

 

拝殿

参道の先には拝殿があります。

入母屋、向拝1間、瓦棒銅板葺。

1944年再建。

 

向拝は1間。

無地の貫(虹梁)がわたされ、しめ縄がかかっています。虹梁中備えは蟇股。

 

向拝柱は面取り角柱。柱上は出三斗。

側面には平板な形状の木鼻があります。

 

母屋正面は5間。

中央の1間は板戸で、左右各2間は半蔀。跳ね上げた半蔀の奥はガラス戸です。

 

母屋柱は円柱。頭貫には木鼻がついています。

柱上の組物は舟肘木。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

母屋側面は4間。柱間は半蔀。

側面後方(写真左)には切妻屋根の小屋がつながっています。

 

破風板の拝みには、鰭のついた猪目懸魚が下がっています。

妻飾りは豕扠首。

 

拝殿左後方(北西)には神木のクスノキ。

樹齢は約300年とのこと。

 

本殿

拝殿後方には、透塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神はヤマトタケルなど。

桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、瓦棒銅板葺。

1603年(慶長八年)造営。徳川家康の寄進によって造営されたものですが、後世の補修や改変と思われる個所が散見され、当初の形態がどこまで残されているかは不明です。

市指定有形文化財。

 

向拝柱(写真右)は角柱。正面と側面に唐獅子の木鼻が付き、柱上の組物は連三斗。

向拝柱と母屋(写真左)は、カーブした海老虹梁でつながれています。向拝側は木鼻の位置から出て、母屋側は頭貫の位置に取り付いています。

破風板の桁隠しの懸魚には波の彫刻。

 

母屋柱は円柱。軸部は貫と長押でつながれ、頭貫の位置には唐獅子の木鼻があります。

頭貫の上の中備えは蟇股。仙人や花鳥が彫られています。

柱上の組物は出組。出組で大虹梁が持ち出され、その下の支輪板は雲状の彫刻が入っています。

 

妻飾りは二重虹梁となっており、彫刻で満たされています。これらの彫刻は江戸前期の造形には見えないので、後世の改変かと思います。

大虹梁の上には、波に竜の彫刻。二重虹梁の上では、しゃがんだポーズの力神が棟木を受けています。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

反対側(東面)。

大棟は箱棟となっており、両端に外削ぎの千木が乗っています。鰹木は5本。

彫刻の題材は西面とほぼ同じですが、竜や力神のポーズが異なります。

 

背面は3間。

こちらにも、唐獅子の木鼻や彫刻の入った蟇股があります。

 

その他の社殿

境内西側には小さな梅園があり、その奥に境内社が東面しています。

左は「銅社 諸国官幣國幣 大社巡拝記念」なる社殿。中央は稲荷社。右は浅間社などの7社を合祀した社殿。

 

拝殿西側には市杵島姫社。

一間社流造、銅板葺。

 

向拝の中備えには竜の彫刻。

柱には唐獅子と象の彫刻があります。

 

母屋の台輪の上の中備えは、紅葉に鷹の彫刻。豪快な造形です。

妻飾りは大瓶束で、その左右の妻壁は雲の彫刻。

懸魚の鰭や桁隠しには、菊の彫刻が入っています。

 

以上、焼津神社でした。

(訪問日2024/02/10)

*1:焼津の由来や、火難伝説の比定地については諸説ある