今回は山梨県のマイナー観光地ということで、南アルプス市西野(にしの)の八幡神社(はちまん?-)について。
今回の神社は、社殿の建築年代はおろか、社名の読みかたも不明です。ウェブで見つけられた唯一の情報だと、祭神は誉田別命(ほんだわけのみこと)、永万元年(1165年)に石清水八幡宮から勧進されたのが由来とのことです。しかし、そのほかの情報が全くと言っていいほど見つからず、本当に"はちまん"という読みで合っているかさえも確信が持てません...
謎に包まれた八幡神社ですが、社殿の造りをよく見ると非常に見所のあるおもしろい神社でした。案内板などの解説は一切なかったので、今回は私の知識と経験を総動員し、がんばって見所を紹介して行きたいと思います。
現地情報
所在地 | 〒400-0213山梨県南アルプス市西野2787(地図) |
アクセス |
中央本線塩崎駅または身延線常長駅から徒歩1.5時間 白根ICから車で約3分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
場所は県道34号線の西野交差点のすぐ近くです。交差点に面したローソンが目印になりますが、ここに迷惑駐車しないようにしましょう。
境内
境内入口
こちらが詳細不明の八幡神社の入口。
手水舎の跡と思しき石造りの鉢と、少し傷んだ感じの赤い両部鳥居があります。一方で、「八幡神社」と書かれた真新しい石碑が立てられていて、なんだかアンバランスな印象を受けます。
誠に勝手な意見を言わせてもらうと、社名を彫った石碑を置くだけのお金があるなら、鳥居を塗り直すなり案内板を設置するなりしたほうが良かったのでは...?
随神門(?)。屋根は瓦葺。高床式になっています。
拝殿
瓦葺の入母屋(平入)。正面側の半分は吹き放ちです。
拝殿の脇から裏手に回り込もうとすると、多数の摂社・末社や甲府盆地名物(?)の丸石神などが鎮座しています。
本殿
そしてこちらが首題の本殿。銅板葺の一間社春日造(いっけんしゃ かすがづくり)。正面の庇は向唐破風(むこう からはふ)になっています。
一間社春日造という様式はとくに珍しくないのですが、正面に大きく張り出した向唐破風の庇(向拝)のせいか、普通の春日造とは一線を画するシルエットになっています。
正面の庇が唐破風になった春日造を見るのは初めてなのですが、バランス的に庇が重く見えるのは私だけでしょうか?
向唐破風の庇と、屋根の妻のアップ。
鬼の面に目が行きがちですが、庇の付け根や唐破風の近辺の軟らかな曲面も見所です。
反対側から見上げた軒下。
正面側には隅木(すみき)がついており、軒下の垂木は入母屋っぽい構造になっています。
春日造のなかでも、こういった構造のものは“隅木入り春日造”と呼んで区別されます。
背面。春日造なので、背面は庇のない普通の切妻です。
隅木入り春日造は「前方は入母屋、後方は切妻」といったハイブリッドな構造になっているのが特徴です。
梁は三手先の組物で持出しされており、梁と棟の間を特大サイズの蟇股(かえるまた)が繋いでいます。蟇股には四足の動物が彫刻されていますが、虎か獅子でしょうか?
もう1つ気になった点は、本来なら柱の真上に配置される組物が梁の中間に配置されている(詰組という)ところです。詰組を使った神社本殿というと、当ブログで紹介したものだと諏訪神社(甲州市初鹿野)と中尾神社(笛吹市)がありましたが、いずれも甲府盆地近辺に鎮座している神社です。ただの偶然だと思いたいのですが、普通だったら禅宗系寺院に見られるはずの詰組を使用した本殿が1つの盆地にいくつもあると、何かしらの関連性を疑いたくなります。
側面。脇障子の彫刻は鶴と松?
最後に、別アングルからの全体図。
彫刻や蟇股、組物の構造から判断すると、造営の年代は古くとも安土桃山以降でしょうか。特に文化財指定を示すものがないところから察するに、江戸後期以降の可能性が高いかと思います。
なお、この推測は素人の知識によるものですので、参考程度に留めておいて下さい。
解説と私見は以上になります。冒頭に書いたように、この神社は案内板もなければウェブ上の情報もほぼ無いので、詳細が全くと言っていいほど分かりません。
この八幡神社について何かしらの情報を知っている人や、記事中の解説に誤りを見つけたり異論があったりする人はコメントしていただけると幸いです。
以上、八幡神社(西野)でした。
(訪問日2019/06/01)