甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【山梨市】中牧神社

今回は山梨県山梨市の中牧神社(なかまき-)について。

 

中牧神社は山梨市北東部の農園地帯に鎮座しています。

創建年については不明。社殿については随神門と拝殿および本殿があるだけで、規模・様式ともにいずれも標準的。しかし本殿は室町中期に造営されたもので、国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒404-0016山梨県山梨市牧丘町千野々宮576(地図)
アクセス 勝沼ICから車で20分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道

中牧神社の鳥居

中牧神社の境内は南向き。

日当たりの良い南向き斜面の扇状地にブドウ畑が広がっており、その中に社叢が茂っています。

鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「中牧大明神」。

 

中牧神社の入口

ただの農道と言って支障ないような参道を進むと、境内に入ります。

 

随神門

中牧神社随神門

参道の途中には随神門があります。

随神門は桟瓦葺の切妻。正面3間・側面2間。柱は角柱。三間一戸です。

屋根にオレンジ色の瓦が使われているのと、正面側の1間が吹き放ちになっているのが特徴的。

 

随神門の軒下

正面の軒下。

山梨県の神社の随神門は、正面の1間を吹き放ちにして梁間の柱を省くことが多いですが、この随神門は梁間の柱が省かれていません。また、柱と虹梁(こうりょう)の接続部に板状の持ち送りがついています。

柱はC面取りの角柱。柱上には拳鼻のついた平三斗(ひらみつど)。柱間には蟇股(かえるまた)。

軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木。

 

随神門内部

内部では、梁や貫の持ち送りに唐獅子と象の彫刻が使われています。

 

拝殿

中牧神社拝殿

境内の中心には拝殿が鎮座しています。

拝殿は桟瓦葺の入母屋(平入)。向拝1間。屋根には内削ぎの千木が5個。

 

拝殿の向拝

手前の向拝柱が角柱(C面取り)であるのに対し、奥の母屋柱は円柱。

向拝柱の上の組物は舟肘木(ふなひじき)で、向拝と母屋をつなぐ梁はこれといった意匠のないあっさりとしたもの。

扁額は「中牧神社」。

 

本殿

中牧神社本殿

拝殿の裏手には低い柵に囲われた本殿が鎮座しています。

本殿は檜皮葺の一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)。正面1間・側面1間・背面2間、向拝1間。

案内板*1によると1478年(文明十年)の造営国指定重要文化財(国重文)です。

祭神は埴安姫(ハニヤスビメ)。

 

中牧神社本殿

本殿向拝

正面の軒先を支える向拝柱は、C面が大きく取られた角柱(大面取り角柱)。

2つの向拝柱は虹梁でつながれていますが、梁の上には蟇股などの中備えがありません。梁の両端には雲状の木鼻が付けられています。

柱上の組物は連三斗(つれみつど)。虹梁の木鼻の上に乗っている皿斗(さらと)も連三斗を受けています。ここは同時代の本殿でよく見られる構造。

 

向拝柱と母屋柱をつなぐ梁はまっすぐな形状のもの。

向拝側は柱上の大斗の高さから、母屋側は頭貫の木鼻の少し下から出ています。

 

本殿床下

正面の木階(きざはし)は5段。木階の下には浜床はありません。

縁側は切目縁(きれめえん)が3面にまわされており、背面側は脇障子でふさがれています。欄干は擬宝珠付き。床下は縁束で支えられています。

 

本殿側面

右側面。

破風板からは、ハート形の穴(猪目)の開いた懸魚が垂れ下がっています。

妻壁の意匠は古風な豕扠首(いのこさす)。

 

本殿背面の軒下

背面の軒下。

正面は間口が1つでしたが、こちらは中央に円柱が立てられており、背面2間となっています。

母屋柱は円柱が使われており、柱上では連三斗が桁を受けています。側面の木鼻は皿斗を介して連三斗を受けており、前述の向拝と同じ構造です。

 

本殿背面床下

床下は板でふさがれていますが、母屋柱は床下まで円柱で成形されています。

 

中牧神社本殿

最後に左から見た図。

室町期の造営のため、彫刻のような目立つ意匠はありません。それだけに、強くカーブした屋根の檜皮の曲面の美しさが映えます。純粋で混じり気のない清楚な流造ですが、他の同様式の本殿とくらべると母屋がやや横長な感があり、どっしりとした安定感があるように見えます。

 

以上、中牧神社でした。

(訪問日2020/05/24)

*1:山梨県教育委員会と山梨市教育委員会による設置