世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【大町市】仁科神明宮 ~国宝の神社建築を解説~

今回は長野県の観光地ということで、仁科神明宮(にしなしんめいぐう)について。

 

仁科神明宮は、現時点で長野県に8つある国宝(内訳は建築物5件、土偶2体、陶器1点)の1つで、神社建築で国宝指定を受けているのは県内では唯一です。

当ブログで国宝を取り上げるのもなにげに初めてですね。

 

私事になりますが、仁科神明宮は10年くらい前に、家族と共に訪れたことがあるのですが、そのときは寺社建築についての知識が皆無だったうえ予備知識もなしに見に行ったものだったので「こんなのが国宝...?」というのが率直な感想でした。善光寺や松本城みたいなのを期待して行くと確実に肩すかしを食らいます。

しかし今回は書籍やウェブで寺社建築についての知識を仕込んでから見に行ったので、その素晴らしさを存分に楽しむことができました。この記事では国宝・仁科神明宮の楽しみ方や、どこがすごいのかについて詳細に語りたいと思います。

 仁科神明宮へのアクセスは仁科神明宮下バス停が最寄りですが、本数が少ないので注意です。鉄道駅なら安曇沓掛駅が最寄りで、徒歩30分くらいの距離です。

無料駐車場は30台分くらいの広さです。

 

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境内に入ると、まずは三本杉がお出迎え。1本は風で折れてしまったようです。

流体力学的には真ん中がいちばん風を受けにくいはずなのですが、なぜ真ん中だけ折れてしまったのだろう? ちなみに、工学部生時代の私の流体力学の成績は“可”(不認定にならない最低ライン)だったことを断っておきます。

 

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手水舎。装飾はほぼ無く、シンプルなデザイン。冬季(03/15)でしたがちゃんと水が出ていました。

 

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鳥居は傘木が直線的な形状をしており、いわゆる神明鳥居です。

 

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境内には澄んだ池があり、その奥には多数の摂社・末社ががあります。祭神を見てみると、全国の一宮をはじめとする高名な神社ばかりが分祀されており、錚々たる面々といったところです。

 

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鳥居。奥に見える屋根は神門です。

 

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右側が神門、左奥が拝殿。

注目していただきたいのは右側の神門の柱が円柱であることです。近代以前、丸太から円柱を削り出すには、まず四角柱を削り出し、四角、八角、十六角、といったように円柱に成形して行くほかなく、円柱は工数がかかるため高級なものでした。そのため、神の居場所とされる本殿や内陣には円柱、俗人が礼拝する拝殿や外陣には角柱、といった使い分けをして格式の違いを示すのが神社建築のセオリーです。しかし、俗人が通行するための門にまで円柱が使われており、仁科神明宮がいかに力のある神社であったかが伺えます。

一方、拝殿(写真左の建物。下の画像では写真右側)は角柱が使われています。おそらく、種々の儀式はこちらで行われるのでしょう。とはいえ、屋根の上に千木と鰹木があるだけでなく、鞭掛(むちかけ)や舟肘木(ふなひじき)があるなど、本殿と同様の装飾が施されています。

 

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そしてこちらが国宝に指定されている中門(右)と本殿(左)です。

当然のことながら、柱は全て円柱です。側面中央には棟持柱(むなもちばしら)という一際太い円柱が屋根を支えています。千木は破風板と一体化した由緒正しい形式。そして鞭掛けがあります。これはいずれも古式の由緒正しい神明造りの形式で、伊勢神宮内宮本殿と同じ形式です。

また、千木の長方形の穴に注目して見て下さい。穴が先端にまでかかっているため、千木の先端が二股にわかれています。これも伊勢神宮内宮本殿と共通する特徴で、他の神社にはないものです。

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伊勢神宮はその格式の高さから、様式(神明造り)を真似ることを禁じられていました。しかしこの仁科神明宮の近辺は伊勢神宮の領地だったため、様式を真似た本殿を造ることを特別に許されていました。近現代では神明造りの本殿は珍しくはないですが、江戸時代以前に建立された神明造りは伊勢神宮を除くと仁科神明宮が唯一であり、本殿が造られて以来、古式の伝統的な建築様式を保ち続けているのです。

 

いつになく真面目な内容になりましたが、解説はここまで。

今までこれといった知識も無しに何となく寺社巡りをしており、ブログを始めてから寺社建築に関する書籍や文献を読み始めたのですが、やはり知識があると楽しみかたの幅が大きく広がりますね。昔はいまいちな感想しか浮かばなかった仁科神明宮ですが、今回はそのすごさと国宝指定された理由を自分なりに理解でき、大満足です。

とはいえ、まだ勉強不足なので、もっと文献を読んで知識を身につけ、何年か後に再訪して仁科神明宮で勉強の成果を試してみたいと思いました。

 

国宝というと、事前知識が無くてもすごさが伝わってしまう代物が少なくないですが、この仁科神明宮は寺社建築を少し知っているだけで何倍も楽しめます。「荘厳な雰囲気」とか「神々しい」とか言った月並みな感想だけで終わらせてしまうのは非常にもったいないです!

 

以上、仁科神明宮でした。

(訪問日2019/03/15)