甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【河内長野市】金剛寺 その1(南門、楼門、食堂、竜王三社)

今回は大阪府河内長野市の金剛寺(こんごうじ)について。

 

金剛寺は市西部の山間に鎮座する真言宗御室派の大本山です。山号は天野山。

創建は寺伝によると天平年間(729-749)、聖武天皇の命を受けた行基によって開基されたとのこと。平安期には後白河法皇らの帰依を受け、この頃から「女人高野」と呼ばれるようになりました。室町初期には後醍醐天皇の勅願寺として同市の観心寺とともに南朝の拠点になりましたが、南北朝の騒乱による戦火をたびたび受けたようです。江戸初期には豊臣秀頼により現在の境内が整備され、その後は幕府の庇護を受けたようです。

現在の境内伽藍は大部分が安土桃山から江戸初期、一部が鎌倉後期から室町前期のもので、非常に多くの伽藍が国重文となっています。また、大日如来坐像(本尊)や延喜式神名帳など、多数の国宝を所有しています。

 

当記事ではアクセス情報および南門、楼門、食堂、竜王三社について述べます。

多宝塔、金堂、鐘楼については「その2」

薬師堂、五仏堂、御影堂などは「その3」

摩尼院、総門、鎮守社については「その4」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒586-0086大阪府河内長野市天野町996(地図)
アクセス 天野山バス停から徒歩1分
堺ICまたは岸和田泉ICから車で25分
駐車場 50台(500円)
営業時間 09:00-16:30
入場料 入山料200円、摩尼院・宝物殿・庭園400円、共通券は500円
寺務所 あり
公式サイト 天野山金剛寺
所要時間 2時間程度

 

境内

南門

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境内南側、バス停のある方面から境内に入ると、入口には南門(みなみもん)が南面しています。

南門は一間一戸、薬医門、切妻、本瓦葺。左右の袖塀は桟瓦葺。

1700年造営「金剛寺22棟」として国指定重要文化財となっています。

 

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内部向かって右側。写真右が正面側です。

主柱(右の柱)の上に女梁を置き、正面側へ男梁を持ち出しています。標準的な薬医門の造り。

妻飾りは板蟇股。円いくぼみが彫られています。

内部に天井はなく、化粧屋根裏。軒裏は一重まばら垂木。

 

楼門

南門をくぐって進み、駐車場を通り抜けると楼門が東向きに鎮座しています。

楼門の裏には授与所と拝観受付があり、この楼門の先は有料(入山料200円)の区画となります。

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楼門は三間一戸、楼門、入母屋、本瓦葺。

鎌倉後期の造営と考えられ、当寺の中でもとくに古い伽藍。文化遺産オンラインによると1275-1332年とのこと。こちらは単体で国指定重要文化財となっています。

 

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下層。正面は3間で、うち1間が通路。

左右の柱間には二天王の立像が安置されています。向かって左が増長天、右が持国天。両者とも鎌倉後期のものとされ、2体で国重文に指定されています。

 

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柱はいずれも円柱で、組物は三手先。中備えは間斗束。

頭貫はありますが木鼻がなく、装飾の少ないシンプルな和様の意匠となっています。

 

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下層の側面はしっくい塗りの壁になっています。

左右には築地塀。こちらは1700年のもので、「金剛寺22棟」として国重文。

 

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上層。扁額は寺号「金剛寺」。

この写真では見えませんが、上層も木鼻がありませんでした。

組物は尾垂木三手先。桁下には軒支輪と格子の小天井。中備えは間斗束。

軒裏は二軒繁垂木。

 

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上層の側面。

各意匠は正面と同様。

 

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内部の通路部分、向かって右側。写真右が正面側です。

内部では組物の上に虹梁がわたされ、格天井が張られています。

 

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背面全体図。

上層の中央は板戸、左右は連子窓になっていました。

 

食堂(天野殿)

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楼門と授与所の先には食堂(じきどう)が南面しています。

梁間3間・桁行7間、入母屋(妻入)、本瓦葺、正面軒唐破風付、檜皮葺。

鎌倉後期から室町前期の造営とされます。国指定重要文化財

 

南朝の後村上天皇が1354年から1359年にわたって政治を行った政庁で、金剛寺が天野行宮(あまの あんぐう)と呼ばれる由来です。わずか数年とはいえ南北朝時代の事実上の中心地となった建造物であり、歴史の生き証人といえるでしょう。

 

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正面図。

前方の1間は壁がなく吹き放ちで、仏堂でいうところの外陣のような空間となっています。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干はありません。

 

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屋根は本瓦葺ですが、正面の一部と軒唐破風の部分だけ檜皮葺になっています。

入母屋破風と軒唐破風の拝みには猪目懸魚が下がっています。

 

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唐破風の軒下の小壁には蟇股。はらわたには牡丹と思しき花の彫刻。室町前期あたりのものにしては立体的な造形。

 

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柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。頭貫には拳鼻が設けられています。

組物は出三斗。中備えは間斗束と実肘木。

 

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吹き放ちの空間には、格天井が張られています。

母屋の正面の建具は、中央が板戸、左右が蔀。

 

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左側面(西面)。

組物や中備えは正面と同様。

側面後方の柱間は板戸になっています。

 

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背面。北西の隅は舞良戸が立てつけられています。

中央と写真左(東)は壁になっており、左右非対称の造り。

 

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背面の妻壁。

入母屋破風の内部の妻飾りは虹梁と大瓶束。虹梁の下は大斗と舟肘木。

 

竜王三社

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食堂と池をはさんで向かい合う場所には、竜王三社の3棟が横並びに北面しています。3棟いずれも1700年の造営で「金剛寺22棟」として国重文

こちらは南端に鎮座する天照皇大神社本殿(てんしょうこうたい-)

一間社春日造、見世棚造、檜皮葺。

 

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向拝は広々と取られています。

向拝柱は糸面取り。虹梁木鼻は拳鼻。組物は出三斗。

母屋正面は板戸。

 

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向拝柱と母屋はまっすぐな梁でつながれています。

母屋柱は円柱で、長押は青と緑で彩色されています。柱上は舟肘木。

 

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背面。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

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北側には八大竜王善女竜王社本殿(写真左)と弁財天社本殿(右)。

 

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八大竜王善女竜王社本殿は一間社春日造、見世棚造、檜皮葺。

母屋の屋根と、向拝(正面の庇)の屋根との接続部の折れ曲がりが印象的。

 

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向拝柱は角面取り。柱上は大斗と実肘木。虹梁はありません。

母屋正面は板戸。長押は極彩色に塗り分けられています。

 

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背面。こちらの長押は赤一色。

母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。

妻飾りは豕扠首。破風板拝みは猪目懸魚。桁の木口は黄色く塗装されています。

 

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弁財天社本殿は一間社流造、見世棚造、檜皮葺。

角面取りの向拝柱に大斗と実肘木。

長押は極彩色。妻飾りは豕扠首、破風板拝みに猪目懸魚。

隣にある八大竜王善女竜王社本殿の、流造バージョンといった感じの造り。

 

南門、楼門、食堂、竜王三社については以上。

その2では多宝塔、金堂、鐘楼について述べます。