甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【田原本町】鏡作坐天照御魂神社(鏡作神社)

今回は奈良県田原本町の鏡作坐天照御魂神社(かがみつくりにいます あまてるみたま-)について。

 

鏡作坐天照御魂神社は町東部の住宅地に鎮座しています。通称は鏡作神社。

創建は紀元前の10代・崇神天皇の時代とされます。三種の神器のひとつである八咫鏡が伊勢神宮に遷座される際、その形代として造られた鏡の試作品を祀ったのが由来とのこと。平安期には延喜式内社の大社に列しています。平安以降は鏡作三所大明神と呼ばれたようですが、その後は衰退し荒廃したようです。江戸期以降は鏡の職人や業界から崇敬され、昭和中期には全日本鏡工業協会の援助を受けて社殿の修理をしています。

境内は広い社叢で覆われ、古社にふさわしい雰囲気です。本殿は江戸中期あたりの造営と考えられ、3棟の本殿を左右に連結して五間社流造としためずらしい様式となっています。

 

現地情報

所在地 〒636-0311奈良県磯城郡田原本町八尾816(地図)
アクセス 田原本駅から徒歩15分
橿原北ICから車で10分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

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鏡作坐天照御魂神社の境内は南向き。平坦な住宅地の一角の、広々とした社叢の中に鎮座しています。

鳥居は丹塗りの明神鳥居。扁額は「正一位鏡作大明神」。

 

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拝殿は入母屋、本瓦葺。

 

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軒下。扁額は「鏡作大明神」。

柱上は舟肘木、軒裏は一重でまばら。ほか、とくに目立った意匠はありません。

 

本殿

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拝殿向かって右から裏手にまわると、後方の本殿へ進む通路があり、神明鳥居の奥に本殿が鎮座しています。鳥居の先は進入禁止。

 

桁行5間・梁間1間、五間社流造、千鳥破風3か所付、向拝3か所・各1間、檜皮葺。

造営年不明。江戸中期の造営と考えられています。境内記念碑によると1969年(昭和四十四年)に修理が行われたとのこと。

祭神は天火明命、イシコリドメ、天糠戸命(あめのぬかどのみこと)の3柱。社名や由緒からしてアマテラスが祀られていそうな感じがしますが、あまり聞きなれない祭神です。

 

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建築様式は五間社流造(ごけんしゃ ながれづくり)並立した3棟の本殿を、各1間の間隔を置いて連結した構造をしています。たいていの神社本殿は正面3間の三間社か、1間の一間社なので、五間社はかなりめずらしいです。また、屋根の正面に千鳥破風が3つ設けられ、複雑な構造になっています。

Wikipediaの当該ページ(2021/10/30閲覧)の本殿の様式の欄には「春日造」とありますが、側面から見ると破風がへの字になっているため、この本殿は流造。真正面から見ただけだと、たしかに春日造に見えるかもしれません。奈良県内では春日造の本殿のほうがよく見かけるので、流造でここまで凝った造りのものはめずらしいと思います。

 

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向かって右側(東側)の向拝。

向拝柱は几帳面取りで、面取り部分が黒く塗り分けられています。

虹梁中備えは蟇股で、はらわたには白い鶴が彫られています。木鼻は側面に象の彫刻が設けられています。

組物は大斗と花肘木。

 

中央と向かって左側の向拝もほぼ同様の造りをしています。

 

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母屋は、神座のある柱間は格子戸、つなぎの間や側面は白い壁板になっています。

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側には脇障子が立てられ、松が描かれています。

 

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屋根の破風と千鳥破風。

破風板の拝みと桁隠しには、朱と緑に彩色された蕪懸魚。

 

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千鳥破風の内部には小さな赤い破風板が設けられ、拝み部分に蕪懸魚が下がっています。

棟の上には、鰹木と外削ぎの千木が置かれています。鬼板の紋は五七の藤。

 

境内社

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本殿向かって右側には境内社が鎮座しています。

こちらは末社と思われる小社殿。左から天照大神、手力雄神社、住吉大社、春日大社。

 

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こちらは境内東側に鎮座する若宮神社。西向き。

一間社春日造、銅板葺。

 

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向拝柱は几帳面取り。側面に象の彫刻。

 

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虹梁の中央には白い蛇が彫られています。

蟇股のはらわたは、つがいの鳩。

 

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頭貫木鼻は、つぶれた細い形状の拳鼻。

中備えなどの意匠はありません。

 

以上、鏡作坐天照御魂神社でした。

(訪問日2021/10/14)