甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【富士宮市】大石寺

今回は静岡県富士宮市の大石寺(たいせきじ)について。

 

大石寺は市北部に鎮座する日蓮正宗の大本山です。山号は多宝富士大日蓮華山。

創建は1290年(正応三年)。日蓮の弟子・日興が久遠寺(山梨県身延町)を下り、南条時光の要請を受けて当地に寺を開いたのがはじまりです。明治時代には当寺が中心となって日蓮宗富士派を結成し、1912年に日蓮正宗に宗派名を改めました。

現在の伽藍は江戸前期から近現代にかけてのもので、広大な境内に大規模な伽藍が点在します。境内東側には県内で唯一の五重塔があり、国の重要文化財に指定されています。ほか、三門や御影堂が県の文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒418-0116静岡県富士宮市上条2057(地図)
アクセス 新富士ICから車で30分
駐車場 300台(無料)
営業時間 境内は随時(※見学不可の日もあるため公式サイトを要確認)
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト 総本山大石寺
所要時間 30分程度

 

境内

三門

大石寺の境内は南向き。境内の入口は何か所かありますが、三門は国道469号線に面した場所にあり、一般参拝者用の駐車場(30台程度)も三門の西側にあります。

右奥には富士山が見えます。

 

五間三戸、二重、楼門、入母屋、瓦棒銅板葺。

1717年(享保二年)建立。県指定有形文化財。

 

下層。

正面は5間で、うち3間が通路となっています(五間三戸)。

 

正面中央の柱間。

柱間は頭貫でつながれ、柱と頭貫の接続部には繰型のついた持ち送りが添えられています。柱上には台輪が通っています。

組物は二手先。中備えは、組物と撥束が置かれています。

内部は鏡天井が張られています。

 

向かって左の2間。

端の柱間は幅が狭く取られ、頭貫の下に飛貫が通っています。

 

柱はいずれも円柱。上端が絞られ、禅宗様の粽柱です。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

 

内部の様子。こちらは内部から向かって右側(東側)を見た図で、写真右が正面側です。

柱の前後方向には飛貫虹梁がわたされ、その中央に大瓶束が立てられています。

 

下層背面。

両端の柱間には壁が立てられ、火灯窓が設けられています。

下層の軒裏は、平行の二軒繁垂木。

 

上層正面。

こちらも正面5間。建具は、中央の3間が桟唐戸、左右両端の各1間が舞良戸。

 

上層も粽柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

組物は尾垂木三手先。中備えは組物と撥束。

上層の軒裏は、放射状(扇垂木)の二軒繁垂木。

縁側には欄干が立てられ、親柱に擬宝珠がついています。

 

三門をくぐって先へ進むと、何件もの塔頭が立ち並ぶ区画に入ります。

石畳の参道は掃き清められており、観光客や参拝者もほぼいない時分の訪問だったせいか、浮世離れした厳粛な趣を感じます。私は建物を見るためだけに来たので、場ちがいなところに来てしまった気がしました。

 

中門

塔頭の区画を通り過ぎて御影堂へ向かうと、途中に中門(なかもん)が南面しています。

四脚門、切妻、瓦棒銅板葺。

1638年(寛永十五年)建立、1959年再建(修理?)。文化財指定はとくにないようです。

 

柱はいずれも円柱。上端が絞られています。

正面には、眉欠きと絵様が彫られた虹梁がわたされています。組物は出組で、中備えにも詰組があります。

内部の通路上の欄間には、彩色された波の彫刻があります。

 

右側面。

前後の控柱は、頭貫の位置に木鼻があります。

中央の主柱は通し柱で、棟木の近くまで伸びており、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

主柱と控柱のあいだには、縦に長い海老虹梁がわたされています。

 

鐘楼と鼓楼

中門を進むと、参道両脇に鐘楼と鼓楼があります。

こちらは向かって右(東側)にある鐘楼。

宝形、本瓦葺。袴腰付。

1990年再建。

 

柱は几帳面取り角柱。

飛貫虹梁の中備えは板蟇股。

飛貫虹梁の位置には象鼻が付き、頭貫と台輪には禅宗様木鼻があります。

柱上は出三斗。

 

向かって左(西側)は鼓楼。

宝形、本瓦葺。袴腰付。

こちらも1990年再建です。

 

柱は円柱で、頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出三斗と平三斗。

中央の柱間の壁面には火灯窓があります。

 

御影堂

境内の中心部には、本堂に相当する御影堂が鎮座しています。

桁行7間・梁間7間、入母屋、正面向拝3間 軒唐破風付、背面向拝1間、本瓦葺。

1632年(寛永九年)再建。県指定有形文化財。

 

正面向拝は3間。

軒唐破風が付き、軒下は多数の彫刻で飾られています。

 

唐破風の兎毛通は鳳凰の彫刻が下がっています。

唐破風の軒下の小壁には、松に鶴の彫刻。

中央の虹梁中備えには、竜の彫刻が所狭しと配されています。

 

向かって右の柱間。

向拝柱は几帳面取り角柱。柱の正面および側面には唐獅子の木鼻。

虹梁は若葉の絵様が彫られ、下面には眉欠きと錫杖彫りがあります。虹梁と柱の接続部には持ち送りが添えられ、波の彫刻となっています。

虹梁中備えは、3間とも竜の彫刻です。

柱上の組物は、出組を拡張して二手先にしたもの。

 

向拝柱の組物の上には、手挟があります。手挟は菊の籠彫り。

海老虹梁は向拝の虹梁の位置から出て、ゆるやかにカーブして、母屋柱の頭貫の位置に取り付いています。両端の下側には持ち送りが添えられ、向拝側は雲の意匠、母屋側は唐獅子の頭となっています。

 

母屋正面は7間。建具は、中央5間は桟唐戸、左右両端各1間は連子窓です。

母屋前方には3間分の階段があります。階段は角材で構成され、昇高欄の親柱は擬宝珠付き。

 

向かって右側の柱間。

母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固められていますが、頭貫に木鼻はありません。

中備えは蟇股で、彩色された彫刻が入っています。こちらの彫刻は、牡丹の花と仙人らしき人物像が彫られています。

 

組物は尾垂木二手先。

隅の柱の組物は、隅木の下に波と竜(あるいは蜃)の彫刻が添えられています。

 

右側面(東面)。

側面も7間で、柱間は連子窓と桟唐戸です。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

背面。こちらにも1間の向拝があります。

母屋背面は、中央の1間が桟唐戸で、ほかは板壁です。

 

背面の向拝。

虹梁中備えは蟇股。頭が竜になった怪鳥が彫られています。

向拝柱は面取り角柱で、正面と側面に雲状の木鼻があります。

柱上の組物は、連三斗を拡張したもの。大斗には皿がついています。

 

右側面の入母屋破風。

妻飾りは二重虹梁。蟇股や大瓶束が使われています。

破風板の飾り金具には、鶴丸の紋があります。拝みには三花懸魚、桁隠しには猪目懸魚が下がっており、懸魚の鰭は牡丹の彫刻です。

 

本殿の後方には奉安殿という巨大な建造物が鎮座しています。

施錠されており、一般の参拝者は拝観できないとのこと。

 

五重塔

奉安堂の正面から東へ進むと、墓地や納骨堂の区画へ進む橋が現れます。

橋は親柱を傾け、欄干の横木は手前に向かって開く形状にカーブさせています。絵画的なパース表現が立体物に使われているせいか、トリックアートのような独特の遠近感があります。

 

橋を渡って階段を昇った先には五重塔が西面しています。

 

三間五重塔婆、銅板葺。全高34.3メートル。

1749年(寛延二年)建立国指定重要文化財

 

初重正面。

正面側面ともに3間で、中央は桟唐戸、左右は連子窓です。

 

右側面(写真左)および背面。

柱間の意匠は正面と同様です。

縁側は切目縁。初重の縁側には欄干がありません。

 

柱はいずれも円柱。軸部の固定には長押が多用されています。頭貫木鼻はなく、和様の造りです。

柱間の中備えには、蟇股があります。

 

正面中央の蟇股には、三葉葵の紋がありました。

 

柱上の組物は尾垂木三手先。尾垂木の小口は金具でカバーされています。

隅木の直下の尾垂木には力神。力神はしゃがんだポーズで、隅木の根元をかついで支えています。

 

二重および三重。

二重より上の層は、縁側に跳高欄が立てられています。

建具などの意匠は初重と同様ですが、組物のあいだの中備えは間斗束(あるいは蓑束?)となっています。

 

四重および五重。

軒裏はいずれも二軒繁垂木。ただし五重は垂木が放射状に配され、禅宗様の扇垂木です。

 

頂部の法輪。

反花、九輪の上に小ぶりな水煙と宝珠が乗っています。全高に対して法輪が占める割合が、やや短めに造られているように感じました。

 

以上、大石寺でした。

(訪問日2024/02/10)