甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【寺社の基礎知識】鰹木(かつおぎ)と千木(ちぎ)

今回は寺社の基礎知識として、鰹木と千木の概論と、それにまつわる俗説について解説いたします。

 

 

鰹木(かつおぎ)とは

鰹木

(仁科神明宮本殿 鰹木が6本)

鰹木とは、大棟(屋根のいちばん高い稜線)と直行するように設置された円柱状の部材のことをいいます。

形状は完全な円柱のものもありますが、中央が膨らんで太くなった形状のものが正式な鰹木です。

 

近現代の神社の鰹木は完全な円柱だったり、銅板で覆われていたり、両端が金具で装飾されていたり、角柱に近い形状だったりと、実用性と装飾性の都合から様々なバリエーションがあります。本数は2本から10本以上まで様々で、その本数や形状にこれといった意味があるわけではないようです。

名前の由来は膨らんだ形状が魚のカツオの体型や鰹節をイメージさせるから、という説がありますが、諸説あって判然としません。

場合によっては“勝男木”という字が当てられることもありますが、これは近代の当て字。なお、古事記では鰹木をさして“堅魚”(かつお)と書かれています。

千木(ちぎ)とは

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(仁科神明宮本殿および中門 破風板と一体の正式な千木)

千木とは、屋根の棟に立てられたX字状の部材のことをいいます。

破風板(はふいた)の端が屋根を突き抜けて出たものが正式な千木で、本来は破風板と一体になった部材でした。多くの神社では実用性(雨仕舞)の都合から、後述の「置き千木」が使われています。また、鰹木と同様に金属の板や装飾がつけられているものもあります。

破風板から派生したものなので1つの棟に1組(2つ)だけ設置されるのが正式と言えますが、歴史ある社殿でも3つ以上の千木が設置されている場合が珍しくないです。

名前の由来は不明。古事記では“氷木”(ひぎ)と書かれているようですが、発音しづらいからか“千木”(ちぎ)という現代の表記と読みになっています。

 

置き千木

置き千木

(妙義神社旧本殿 波己曽社)

置き千木とは、破風板と別の部材になった千木のことを指し、正式な千木と区別するための呼称です。棟に置くようにして設置されるのでこのような名前があります。

正式な千木は屋根を突き抜けていて雨仕舞いが悪くなるため、その対策として置き千木が登場したと言われています。

また、「時代が下るにつれて破風板の幅や反りが大きくなったせいで、破風板と一体の千木を造るのが難しくなった」という理由もあります。

 

別の部材になったとはいえ、やはり木材のままだと雨で腐敗してしまうので、現代では金属板で覆われているものがほとんどです。

 

外削ぎ(そとそぎ)と内削ぎ(うちそぎ)

外削ぎ

外削ぎの例(深志天神社本殿 祭神は菅原道真とタケミナカタ)

 

内削ぎ

内削ぎの例(冨士御室浅間神社拝殿 祭神はコノハナノサクヤ)

 

千木は先端の削りかたによって外削ぎ内削ぎに分類できます。先端が垂直に削られているのが外削ぎ水平に削られているのが内削ぎです。

傾向として、外削ぎを採用した神社が多いです。

外削ぎが多い理由については「内削ぎは木材の切り口が真上を向くので雨を受けやすく、腐敗しやすいため」という説明があります。ですが、私見を述べますと内削ぎも外削ぎも腐敗の早さに大きな差があるとは思えないので、ただの偶然かと思います。

 

鰹木と同様、数や形状にとくだんの意味はないようです。

後述しますが、外削ぎを男千木、内削ぎを女千木とする呼称は使わないほうが無難でしょう。

 

風穴

千木には長方形の風穴が開けられていることがあります。伊勢神宮や仁科神明宮のように風穴が千木の端にまでかかっていて、先端が二股に割れた例もあります。

風穴が開けられる理由に「風で倒れないようにするため」という説明がありますが、本来の千木は破風板と一体だったので倒れるはずがありません。よって千木の風穴はただの装飾で、置き千木の風穴がたまたま風除けの役に立っているだけだろうと私は考えています。

 

鰹木と千木にまつわる俗説

上記でも少し述べましたが、鰹木の本数と千木の削ぎについては以下のような説があります。

  • 男神を祀った神社は、鰹木が奇数本、千木が外削ぎ
  • 女神を祀った神社は、鰹木が偶数本、千木は内削ぎ

この2説は完全な俗説です。

 

たしかに伊勢神宮の内宮・外宮では上記2説の法則にしたがって造られています。しかし、他の神社はこれに該当していない場合が珍しくありません

また、神社によっては複数の神が合祀されていることが多くあり、男神と女神が入り交じっている場合は事情が複雑になってきます。

貫先神社の大棟

(貫前神社本殿 鰹木は5本、千木はいわゆる女千木)

上記2説の反例としては、上野国の一の宮である貫前神社(群馬県富岡市)が好例です。

貫前神社は6世紀の創建とされる古社で、写真の本殿は江戸初期の造営。

鰹木は奇数本(5本)ですが千木は内削ぎ(女千木)となっており、上記2説では説明がつきません。祭神の性別については、女神だと言われていますが諸説あります。

 

「鰹木と千木を見れば祭神の性別がわかる」という俗説は伊勢神宮でよく語られるので市民権を得てしまっていますが、あくまでもこういう傾向があるだけ、といった程度の認識に留めておきましょう。

 

以上、鰹木と千木の概論と、それにまつわる俗説についてでした。

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