甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【逗子市】神武寺

今回は神奈川県逗子市の神武寺(じんむじ)について。

 

神武寺は市北部の山中に鎮座する天台宗の寺院です。山号は医王山。

創建は不明。寺伝によると724年(神亀元年)、聖武天皇の命を受けた行基により法相宗の寺院として開かれ、857年(天安元年)に円仁によって中興され天台宗に改められたとのこと。『吾妻鏡』の1192年の記事には、源頼朝が妻の安産祈願のため「神嵩」を参拝したとあり、これが当寺の史料上の初見とされます。室町時代は後北条氏の崇敬を受けましたが、1590年の小田原征伐を受けて衰微しました。江戸時代は幕府の庇護の下で復興されましたが、1834年に火災で伽藍を焼失しています。

現在の境内伽藍は江戸初期から後期にかけて再建されたものです。境内中心部にある薬師堂は小田原征伐ののちに再建されたもので、県の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒249-0004神奈川県逗子市沼間2-1402(地図)
アクセス 東逗子駅から徒歩30分
逗子ICから車で5分
駐車場 なし
営業時間 境内は随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト 神武寺 観蔵院
所要時間 15分程度

 

境内

総門と鐘楼

神武寺の境内入口は、東逗子駅近くの住宅地にあります。

表参道である鷹取山登山口(地図)から参道をのぼると、こちらの山門に到着するようです。なお、今回は地図アプリにしたがって裏参道から徒歩で参拝しました。

 

山門は、四脚門、切妻、銅板葺。

造営年不明。案内板*1によると、もとは東逗子駅近辺にあったようですが、太平洋戦争の時期に鷹取山登山口に移築され、そののち現在地へ再移築されたとのこと。

 

右側面。

主柱は円柱、前後の控柱は角柱が使われ、柱間は貫でつながれています。

組物や妻飾りなどの意匠はありません。

破風板の拝みには猪目懸魚が下がっています。

 

山門から境内の中心部へ進むと、鐘楼があります。

入母屋、銅板葺。

 

内部に吊るされた梵鐘は「神武寺の晩鐘」として、逗子八景のひとつに数えられるようです。ただし現在の梵鐘は1950年の鋳造で、もとあった梵鐘は太平洋戦争で供出されました。

 

柱は円柱で、斜め方向に竜の木鼻がついています。

組物は出組。台輪の上の中備えにも組物があります。

桁下の支輪板には、雲や神獣の彫刻。

軒裏は放射状の二軒繁垂木。

 

破風板の拝み懸魚は、鳳凰の彫刻。

妻飾りは小さい豕扠首が使われています。

 

楼門(仁王門)

境内の中心部へ進むと、一段高い区画に楼門が南面しています。

三間一戸、楼門、入母屋、銅板葺。

1761年(宝暦十一年)造営

 

下層は正面3間。

中央の通路部分は広く取られ、左右の空間には仁王像が安置されています。

 

柱は円柱が使われ、柱間は貫でつながれています。

柱上の組物は出組。

頭貫の上の中備えは、詰組と板蟇股。

 

右手前の隅の柱。

頭貫には木鼻があり、巻斗を介して組物を受けています。

頭貫の上の中備えは、こちらも蟇股が使われています。

 

背面。

正面とほぼ同じ意匠です。

 

上層。正面の扁額は山号「醫王山」(医王山)。

いずれの面も柱間に壁や建具がなく、吹き放ちとなっています。

縁側は切目縁で、欄干は擬宝珠付き。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

上層背面。

柱は円柱で、頭貫に木鼻はありません。

柱上の組物は出組。中備えは詰組と蟇股。

 

入母屋破風。

破風板の拝みは鰭付きの猪目懸魚。

妻飾りには蟇股が使われています。

 

内部の通路部分の天井板には、白虎と朱雀が描かれていました。

 

薬師堂(本堂)

楼門の先には、当寺の本堂に相当する薬師堂が南面しています。

本尊は秘仏の薬師如来と、日光・月光菩薩。御開帳は33年に1度ですが、年末のすす払い法要で拝観できるとのこと。

 

桁行3間・梁間3間、寄棟、銅板葺。

1598年(慶長三年)造営。県指定有形文化財。

 

正面は3間。

柱間の建具は、中央が桟唐戸、左右が半蔀。

 

柱は円柱で、長押と貫で柱間を固めています。長押には釘隠しがつき、桟唐戸の軸穴が設けられています。

頭貫の上の中備えは蟇股。虎と思しき獣が彫られています。

 

隅の柱には、頭貫に拳鼻がついています。

柱上の組物は出三斗と平三斗。

左右の柱間の中備えは、撥束が使われています。

 

左側面(西面)。

側面も3間。前方の1間は舞良戸が使われ、後方の2間は縦板壁です。

 

側面中央の中備えの蟇股。

蓮華と思しき花が彫られています。正面のものとくらべると平板な造形です。

 

背面は3間いずれも縦板壁。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干はありません。

 

縁の下は縁束で支えられています。

母屋柱の床下は、八角柱に成形されていました。

 

本堂向かって右(東)には名称不明の堂。手前の石碑には「安産地蔵」とあります。

宝形、桟瓦葺。

 

柱は円柱で、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

扉は桟唐戸で、こちらも禅宗様の意匠です。

 

以上、神武寺でした。

(訪問日2024/01/27)

*1:逗子市・自然の回廊プロジェクトによる設置