甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【十日町市】松苧神社

今回は新潟県十日町市の松苧神社(まつお-)について。

 

松苧神社は市郊外にある松苧山の山頂に鎮座しています。

創建は平安時代にさかのぼり、坂上田村麻呂がヌナカワを祀ったのが由来とのこと。社殿については参道を登った先に茅葺の本殿だけがあり、室町期の造営のため国指定重要文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒942-1504新潟県十日町市犬伏(地図)
アクセス 六日町ICから車で40分
駐車場 2台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 1.5時間程度

 

境内

参道

松苧神社入口

こちらが松苧神社の参道入口。左は手水舎(?)で、冷たい水が出ていました。

十日町の市街からここまで車で数十分かかりましたが、松苧神社はさらに参道を登った先にあります。

 

松苧神社入口の看板

入口に立っている看板(設置者不明)には“松苧神社 徒歩20分”

しかしよく見ると“年寄りは40分”と落書きされています。

 

果たしてどちらが正しいのか...疑問に思ったので時間を測ってみたところ、本殿までゆっくりめに登って片道30分でした。

私の足でこれだけかかったことを考えると、落書きの“年寄りは40分”のほうが正確でしょう。

 

松苧神社鳥居

鳥居の扁額

参道の四分の一くらいの場所まで行くと、ようやく鳥居があります。

鳥居は石製の明神鳥居。

扁額は鳥居の脇に無造作に置かれていました。「松苧神社」と書かれています。

 

余談ですが松苧神社の「苧」は、繊維の原料であるカラムシという植物のことを指し、室町期の越後国はカラムシの一大産地だったようです。カラムシから作られる「小千谷縮・越後上布」は国の重要無形文化財とのこと(Wikipediaより)。

 

参道の鎖場

以降、参道が続きますが、送電用の鉄塔がある以外は特筆するほどのものはありません。

写真は本殿の前にあった鎖場。迂回路があるので使わなくても本殿へ行けます。

 

本殿

松苧神社本殿

参道を登った先には本殿が鎮座しています。国指定重要文化財です。

本殿は茅葺の寄棟(妻入)。正面3間・側面7間、向拝1間。

神社本殿で茅葺はあまり多くないうえ、寄棟の本殿というのも珍しいです。しかも妻入の寄棟で、とても神社本殿には見えない珍妙な造り

 

造営年については、本殿に貼られていた『重要文化財 松苧神社本殿修理記』(松苧神社代表役員 宮司)によると下記のとおり。

本殿は向拝の頭貫から墨書が発見され、明応六年(1497)に建立されたことが明らかとなった。当初は現在地より下方の台地に懸造りの形式で立てられていたが、建立後ほどなく現在地に移し、その際柱の足元を切りそろえた。

屋根の茅については2019年(令和元年)に葺きなおしたようで、それを示す札が壁面に貼られていました。

祭神はヌナカワ。タケミナカタ(諏訪大社の祭神)の母です。

 

本殿の向拝軒下

正面の軒下。

向拝の軒先を支える向拝柱は、大きくC面を取った角柱(大面取り)。

2本の向拝柱には無地の虹梁がわたされています。虹梁の上には古風な蟇股(かえるまた)がありますが、これは昭和期の大修理のときに復旧されたものとのこと。

柱上の組物は連三斗(つれみつど)。虹梁の両端の木鼻の上にのった斗(ます)も連三斗を受けています。

奥に見える両開きの扉は桟唐戸(さんからど)。

 

本殿の向拝軒下

向拝の軒下。

向拝柱(写真右)は角柱であるのに対し、母屋柱(写真左)は円柱。

2つの柱は曲線的な形状の海老虹梁(えびこうりょう)でつながれていますが、その下方では貫で連結してあります。

 

本殿向拝側面

向拝軒下を外部から見た図。

軒裏はまばら垂木。縋破風(すがるはふ)が壁から突き出ています。

屋根の茅は葺き替えからせいぜい半年しか経っていないので、丁寧に断面を切りそろえた軒先がきれいです。

 

本殿扁額

内部。桟唐戸の上の扁額は「松苧山」。まるで寺院の山号のよう。

右の騎馬武者の絵は、越後なので上杉謙信でしょうか?

 

本殿側面

本殿背面

右側面および背面。

縁側は、壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)が4面にまわされています。縁側の後方は少し床が高くなっています。

欄干はなく、縁の下の支え(縁束)を兼ねた柱が上へ伸び、軒先を支えています。ここは盛蓮寺(長野県大町市)の観音堂と似た造り。豪雪地帯に特有の工夫といえるでしょう。

軒先の柱間には、上のほうだけ板が張られていて鴨居のようになっています。

 

本殿軒下

右正面の軒下を見上げた図。

軒裏の垂木は見えず、天井を延長させて軒先まで伸ばしたような造りになっています。

 

本殿床下

母屋柱の床下を観察したところ、八角柱でした。円柱を成型する手間を惜しんだのでしょう。

母屋柱の床下を八角柱にする手抜き工作は、室町期に出現します。

 

本殿大棟

最後に、正面から見た大棟。

やはり何度見ても神社本殿とはにわかに信じられない造り。新潟県の神社は風変わりなものが多々ありますが、その極致のひとつといえるのではないでしょうか。

 

以上、松苧神社でした。

(訪問日2020/05/01)