甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【西尾市】幡頭神社(吉良町)

今回は愛知県西尾市吉良町(きらちょう)の幡頭神社(はず-)について。

 

幡頭神社は吉良町地区の海岸の高台に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると、東征の途上で亡くなった建稲種命(当社の主祭神)の遺体が当地に流れ着き、住人がそれを弔って祀ったのが始まりとのこと。史料上の初出は平安時代の『延喜式』で、その頃には確立されていたようです。『延喜式』では「羽豆神社」という表記で式内社に列しています。その後の沿革は不明。

境内には3棟の本殿が並立し、いずれも安土桃山時代のもの。中央の幡頭神社本殿は国重文に指定されていて、その左右の2棟(熊野社と神明社)が2022年に追加指定されたため、3棟すべてが国重文となりました。

 

現地情報

所在地 〒444-0513愛知県西尾市吉良町宮崎宮前60(地図)
アクセス 三河鳥羽駅から徒歩30分
岡崎ICから車で50分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

拝殿

幡頭神社の境内は南向き。境内は海に面した高台にあり、参道の石段が海岸沿いまで伸びています。

拝殿の手前の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「正一位幡頭神社」。

 

拝殿は、入母屋、桟瓦葺。

 

正面は5間。

中央は2つ折れの桟唐戸、左右の各2間は半蔀戸。

柱はいずれも円柱。組物は舟肘木が使われ、頭貫木鼻や中備えはありません。

扁額は「正一位幡豆神社」。

 

側面は3間。柱間はいずれも半蔀戸。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

軒裏は二軒繁垂木。

 

本殿

拝殿の裏には3棟の本殿が並立しています。

右から、熊野社本殿、幡頭神社本殿、神明社本殿。

境内案内板では、熊野社と神明社の2棟について「県指定文化財」と書かれていますが、2022年(令和四年)にこの2棟も追加で重要文化財に指定されました。

 

幡頭神社本殿

中央の幡頭神社本殿は、桁行正面3間・背面2間・梁間2間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。

1580年(天正八年)造営。「幡頭神社 3棟」として国指定重要文化財*1

祭神は建稲種命(たけいなだねのみこと)、誉田別命、大国主の3柱。

 

神社本殿としては棟が高く、屋根の反りが非常に強い点が特徴的。構造や意匠は地方色が濃く、数多くある三間社流造の本殿のなかでも個性的な物件だと思います。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象鼻。

柱上の組物は平三斗。ここは出三斗や連三斗を使う例が多いため、平三斗が採用されるのはめずらしいと思います。

 

虹梁中備えは板蟇股。桁を受ける肘木は、異様に横長なものが使われています。

 

側面から向拝を見た図。

向拝柱と母屋をつなぐ梁(海老虹梁?)はわずかにカーブして、微妙な高低差をつないでいます。向拝側は虹梁の位置、母屋側は長押の下という低い位置から出ています。

 

向拝の軒下には角材の階段が5段。横幅が広く取られ、母屋の幅にあわせています。

階段の下には、浜床が正面にだけ設けられています。

 

母屋の正面は3間。中央の1間は広く取られ、扉が設けられています。

母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固定されています。

扉の上の中備えは蟇股。

 

側面は2間。柱間は横板壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子が立てられています。

 

頭貫木鼻には、小さく繰型がつけられています。

隅の柱上の組物は出三斗。

 

妻虹梁の上には大瓶束が立てられています。束の左右には、大きな木鼻がついています。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。

 

背面は2間。

母屋柱は床下が八角柱になっていました。

 

この本殿は神社本殿としてはやや大きめの部類ですが、規模の割に棟が高く造られ、それにあわせて屋根の反りが非常に強くなっています。

屋根葺きは檜皮が使われ、強く反った屋根や箕甲の曲面も美しく成形されています。

 

熊野社本殿

向かって左の熊野社本殿は、一間社入母屋(妻入)、向拝1間、檜皮葺。

1641年(寛永十八年)造営。幡頭神社本殿とともに国重文。

屋根は入母屋(妻入)で、熊野造や王子造とも呼ばれる様式です。

 

向拝柱は几帳面取り。側面には拳鼻。

柱上は実肘木。

軒桁の先端にも木鼻のような意匠があります。

 

虹梁は無地の細い材が使われています。

中備えは巻斗と実肘木。

軒裏はまばら垂木。向拝部分は二重ですが、母屋部分は一重で、幡頭神社本殿よりも明らかに格の低い造りです。

 

母屋は正面側面ともに1間。

母屋柱は円柱。柱上は実肘木。

正面と両側面には、欄干のない縁側がまわされています。

 

背面。

こちらにも軒と垂木がまわされているため、春日造ではなく入母屋であると分かります。

母屋柱は床下が角柱になっています。

 

正面の入母屋破風。

妻飾りは大瓶束。

破風板の拝みは蕪懸魚。

 

神明社本殿

向かって右の神明社本殿は、桁行3間・梁間1間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。

江戸前期、1600年代前半の造営。幡頭神社本殿、熊野社本殿とともに3棟で国重文。

様式は神明造ではなく流造。左隣の幡頭神社本殿と同じ三間社流造ですが、プロポーションはまったくの別物になっています。

 

向拝柱は角面取りされています。柱上は実肘木。

虹梁は省略されています。

 

母屋の正面には3組の扉が設けられています。

母屋柱は角柱。軒裏は一重まばら垂木。熊野社本殿よりもさらに格の落ちる造りです。

海老虹梁は母屋の頭貫の位置から出て、向拝の軒桁の位置に取り付いています。

 

側面は1間。

母屋柱の上に組物はなく、柱が桁を直接受けています。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みは蕪懸魚。桁は木口が露出しています。

 

背面。

柱間は横板壁。

縁側は正面だけに設けられています。

 

以上、幡頭神社でした。

(訪問日2022/05/02)

*1:附:棟札4枚