甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【麻績村】麻績神明宮

今回は長野県麻績村の麻績神明宮(おみ しんめいぐう)について。

 

麻績神明宮は麻績村の盆地の山際に鎮座しており、江戸時代に建立された神明造(しんめいづくり)の本殿を鑑賞することができます。

長野県内には神明造の本殿がいくつかありますが、その中でも麻績神明宮の本殿は規模が大きくて古いものであり、社殿は本殿を含めて5件の建造物が重要文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒399-7701長野県東筑摩郡麻績村麻4335(地図)
アクセス 聖高原駅から徒歩20分
麻績ICから車で5分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

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麻績村の中心地から少し外れると、鉄道路線がないのに踏切の警報機が立っている場所があります。そこを曲がると写真のような大鳥居があります。

神明宮なので神明鳥居(しんめいとりい)なのですが、笠木が直方体の部材で造られているのが特徴的。

 

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鳥居をくぐって進むと、水路の先に境内が広がっています。こちらの鳥居の笠木は円柱の部材です。

社叢がまばらで見通しが良く、境内は神社にしては明るい雰囲気。

 

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ご覧のとおり多数の社殿があり、充実した境内になっています。

写真右の大木は「神明宮大杉」。

舞台

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境内に入ってまず最初に目につくのが、大規模な舞台1783年の造営で、国重文(重要文化財)。

写真は入口の鳥居のほうから撮ったもので、斜め後ろからの図です。

 

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正面図。拝殿と向き合うように建っています。鉄板葺の寄棟(平入)で、正面8間・側面4間。

刈谷沢神明宮の舞台も似た構造になっていたのですが、こちらも舞台の奥が一段高くなっています。

 

神楽殿

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続いて、拝殿の斜め前に建っているのが神楽殿。鉄板葺の切妻(平入?)で、正面3間・側面3間。1698年の造営で、国重文

当初は拝殿の前にあったようですが、1783年に現在の位置に移築されたとのこと。移動距離にして数メートルなのですが、なぜこんな微妙な距離で移築したのかは謎。

 

拝殿

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拝殿は鉄板葺の切妻で、彫刻などの装飾もなく質素な雰囲気。1840年の造営で、国重文です。

右は手水舎で、瓦葺になっています。

 

本殿

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本殿は拝殿と一体化した構造になっています。1684年造営で、この神社の社殿の中でも特に古く、こちらも国重文に指定されています。

銅板葺の三間社神明造(さんけんしゃ しんめいづくり)で、正面3間・側面2間。向拝なし。神明造の社殿としては標準的な構造です。

 

神明造の代表と言えば伊勢神宮(内宮・外宮)ですが、伊勢神宮の領地でない土地では神明造の造営は禁じられていました。禁が解かれたのは明治時代で、それ以降、各地で神明造の社殿が造られていきます(名古屋市の熱田神宮が代表的)。

一方、この麻績神明宮が建つ麻績村は、伊勢神宮に神饌(貢ぎ物)を納めていたため、江戸以前でも神明造の造営が認められていました

ちなみに、パンフレットによると貢ぎ物の内容は鮭、栗、布とのこと。麻績(おみ)という難読な地名は、麻布を織って献上したことが由来のようです。

 

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本殿側面の軒下。

母屋から独立した丸柱(棟持柱という)が大棟を支えています。

神明造は神社の建築様式でも原始的な部類に入るので、組物は原始的な舟肘木しか使わないのが普通なのですが、この本殿の梁を受ける組物は斗(ます)を使った平三斗(ひらみつど)というタイプのものです。

また、組物から突き出た木鼻には渦巻き状の意匠がありますが、これは拳鼻(こぶしはな)といい、神社建築では室町時代以降のものに見られる要素です。

組物は神社建築の年代を推定するための手掛かりとして重要なので、よく観察しておきましょう。

 

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縁側と床下。

縁側は壁面と直行に板を張った切目縁(きれめえん)。縁側の終端には脇障子が立てられています。

土台は、三和土(たたき)のような土の上に礎石が置かれ、その上に柱が立てられています。本来なら、神明造の本殿の柱は掘立て柱です。

 

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背面。

母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という室町以降の神社建築に見られる手抜きがなされています。

また、長押(なげし)には釘隠しの金具がついています。

 

假殿

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拝殿と本殿の左側には、假殿(かりでん)があります。1760年の造営で国重文

本殿の修理や作り替えのとき、祭神の神体を一時的に安置しておくための社殿です。

こういった社殿が常設されている神社は少なく、県内では大町市の仁科神明宮くらいです。

 

造りは本殿をそのままサイズダウンさせた感じですが、一切の組物がなく、こちらは屋根が茅葺です。

ほか、本殿は鰹木(棟に直交して載っている部材)が6本であるのに対して假殿は3本となっています。

 

余談になりますが、「鰹木の本数で、祭神が男神か女神かがわかる」という話は半分くらいウソなので注意してください。神には性別がないものも居ます。

なお、神明宮の主祭神であるアマテラス(天照大神)は基本的に女神とされますが、男神という説や解釈もあります。

 

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最後に、境内社と假殿。

長野県は神明造の社殿が多い土地ですが、この麻績神明宮のように国重文に指定されているものはほとんどなく、文化財としての価値では仁科神明宮(国宝)に匹敵します。

派手な彫刻などはなく、はっきり言って地味な見た目をしているので、存分に楽しむには多少の知識を要するかもしれないですが、麻績村に来たならぜひとも見ていってほしい名所です。

 

以上、麻績神明宮でした。

(訪問日2019/08/11)