甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【鎌倉市】杉本寺

今回は神奈川県鎌倉市の杉本寺(すぎもとでら)について。

 

杉本寺は市東部の山際に鎮座する天台宗の寺院です。山号は大蔵山。

創建は寺伝によると734年(天平六年)で、光明皇后の命を受けた行基と藤原房前によって開かれたとされます。851年には円仁が当寺を訪れ、十一面観音像を彫って祀ったと伝わります。鎌倉時代には「大蔵観音」と呼ばれていたようで、源頼朝の参詣や幕府の庇護を受けました。室町時代の沿革は不明。江戸時代には現在の伽藍が再建されました。

現在の境内は山の斜面にあり、苔の石段で知られています。伽藍は本堂が江戸前期のもので、県の文化財に指定されています。本尊は円仁の作と伝わり、こちらは国の重要文化財です。また、鎌倉最古の寺院としても知られます。

 

現地情報

所在地 〒248-0002神奈川県鎌倉市二階堂903(地図)
アクセス 鎌倉駅から徒歩30分
朝比奈ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 09:00-16:00
入場料 300円
寺務所 あり
公式サイト 杉本寺 公式サイトd>
所要時間 20分程度

 

境内

仁王門

杉本寺の境内は南西向き。入口は県道204号線・金沢街道に面した場所にあります。

入口で拝観料を払って石段をのぼると、途中に仁王門があります。

仁王門は、三間一戸、八脚門、切妻、茅葺。

18世紀中期の造営。

 

正面は3間。

中央は通路で、左右の各1間には仁王像が置かれています。

 

正面中央の柱間。

柱は円柱で、前方に拳鼻がついています。

頭貫の上の中備えは蟇股。法輪が彫られています。

 

向かって左の柱間。

こちらも中備えは蟇股。蟇股と組物とで通肘木を共有し、軒桁を受けています。

 

左手前の隅の柱。

正面と側面に拳鼻が付き、柱上の組物は出三斗。

 

左側面。

側面は2間で、柱間は横板壁。

妻飾りは二重虹梁。

 

大虹梁の上には蟇股と出三斗。

二重虹梁の上では笈形付き大瓶束が棟木を受けています。大瓶束の結綿は、若葉を束ねたような意匠。笈形は渦状の波(あるいは雲?)の意匠です。

 

内部の通路部分。通路上の扁額は山号「大蔵山」。

上は鏡天井が張られています。

 

背面全体図。

こちらは頭貫などの意匠が簡略化されていました。

 

仁王門をくぐると、参道右手に弁天堂(大蔵弁財天)が東面しています。

一間社流造、銅板葺。

 

仁王門の先には苔の石段が伸び、観音堂へつづいています。ただし苔の石段は通行禁止で、向かって左にある迂回路の石段を通行して進むことになります。

 

観音堂(本堂)

石段をのぼった先には観音堂が鎮座しています。

桁行5間・梁間5間、寄棟、茅葺。

1678年(延宝六年)造営。県指定有形文化財*1

 

堂内には多数の仏像が安置され、本尊の観音像3体のうち2体が国の重要文化財となっています。本尊は秘仏ですが、定期的に開扉・公開されるとのこと。

また、本尊の前立の観音像は、伝承によると運慶の作らしいです。

 

正面は5間。

幟が立っていて見づらいですが、中央の3間は桟唐戸、左右の各1間は連子窓となっています。

 

軸部は長押と貫で固定され、頭貫には拳鼻がついています。

柱上の組物は出三斗と平三斗。中備えは板蟇股。

 

右側面(南東面)。

側面も5間で、柱間は連子窓、板戸、縦板壁が使われています。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干はありません。

 

背面。こちらは縁側がまわされていません。

柱間は縦板壁。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

観音堂の後方には、本尊を安置する堂がつながっています。

観音堂の内陣にあがることで、内部をのぞき込むことができます。なお、堂内は撮影禁止となっています。

 

本堂周辺

本堂向かって右手前(南)には鐘楼があります。

入母屋、桟瓦葺。

 

柱は円柱。

頭貫には唐獅子の木鼻、台輪には禅宗様木鼻がついています。

柱上は出組。

 

頭貫の位置には虹梁がわたされ、その上に台輪が通っています。

台輪の上の中備えは組物と蟇股。

内部は格天井が張られています。

 

本堂右奥(東)には権現堂。

手前には石造両部鳥居が立ち、扁額には「熊野大権現 白山大権現」とあります。

 

権現堂本殿は、春日造、銅板葺。

 

境内社のとなりには小さなやぐらがあり、石の社殿と丸石神らしきものが祀られていました。

 

以上、杉本寺でした。

(訪問日2024/01/27)

*1:附:棟札2枚