甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【斑鳩町】法隆寺 その6(三経院、聖霊院)

今回も奈良県斑鳩町の法隆寺について。

 

当記事では三経院、聖霊院について述べます。

 

その1 南大門、西園院

その2 西院伽藍の配置、中門

その3 五重塔、金堂

その4 大講堂、鐘楼、経蔵

その5 西大門、西円堂

その6 三経院、聖霊院

その7 綱封蔵、細殿と食堂、東大門

その8 東院四脚門、夢殿

その9 伝法堂、東院鐘楼

 

三経院西室

西円堂から境内東へ向かうと、西院伽藍の西側に三経院西室(さんきょういん にしむろ)が南面しています。

梁間正面5間・背面4間・桁行19間、切妻造(妻入)、本瓦葺、正面1間通り庇付、向拝1間、檜皮葺。

1231年(寛喜三年)造営。「法隆寺三経院及び西室」1棟として国宝*1

 

正面の破風。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。

妻飾りは豕扠首。

 

向拝は1間。

軒下には角材を組んだ階段が8段。

 

頭貫の上の中備えは蟇股。蟇股の上には巻斗があり、軒桁を直接受けています。

蟇股の内側の彫刻は唐獅子。鎌倉時代の蟇股にこのような写実的な彫刻が入ることはないため、彫刻は後補のものでしょう。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は面取り角柱。鎌倉時代のもののため、面取りの幅が非常に大きいです。

側面には木鼻、柱上は出三斗。

 

向拝柱の上では、繰型のついた手挟が軒裏を受けています。

縋破風の桁隠しには、蕪懸魚らしき懸魚がついています。

軒裏は平行のまばら垂木。住宅風の軽快な軒裏です。

 

母屋前方の1間通りは吹き放ちの庇となっており、壁や建具がありません。

 

庇の柱も大面取り角柱。向拝柱と同様に、面取りが大きいです。

柱上は舟肘木。

 

向拝柱(右)と母屋柱(左)とのあいだには、虹梁がわたされています。

虹梁の上には小壁が張られ、小壁から突き出た破風板で、向拝の軒裏(右)と母屋の軒裏(左)とが直交する部分をさばいています。神社本殿の春日造(隅木入りでないもの)とよく似た軒裏です。

庇の側面にも縋破風がつき、桁隠しの猪目懸魚が下がっています。

 

縁側は切目縁が3面にまわされています。

庇の部分は、縁側の床板と欄干が一段低く、高低差を合わせるために欄干が湾曲しています。

 

母屋の正面は5間。

母屋柱は円柱で、柱間は半蔀。

 

母屋側面(桁行)は19間。庇の部分もあわせると20間で、非常に奥行きの深い長大な平面となっています。

 

軸部は長押と頭貫で固められ、柱間の建具は板戸と半蔀。和様の意匠です。

 

母屋柱の上の組物は、大斗と舟肘木を組んだもの。

中備えはありません。

 

縁側は、母屋の前方の8間目で途切れています。

欄干には閼伽棚が設けられています。

左奥の門は閉扉していて、これより奥へは進入できません。

 

西円堂の近くから、三経院西室の背面(北面)を見下ろした図。

母屋の中央に柱が立っていて、背面の柱間が偶数(4間)になっているのが確認できます。妻飾りと破風板は、正面と同様に豕扠首と猪目懸魚が使われていました。

 

聖霊院と東室

三経院西室の反対側、西院伽藍の東側には聖霊院(しょうりょういん)および東室が南面しています。

三経院西室とよく似た外観ですが、こちらは前方の部分が鎌倉時代の改造によって聖霊院となっていて、2つの棟が前後に連なった構造をしています。堂内には、国宝の聖徳太子像が祀られています。

 

聖霊院は、桁行6間・梁間4間、切妻造(妻入)、本瓦葺、正面1間通り庇付、向拝1間、檜皮葺。

1284年(弘安七年)造営国宝*2

 

正面の破風。

屋根は本瓦葺ですが、正面の庇の部分は檜皮葺です。

破風板の拝みと桁隠しは蕪懸魚。妻飾りは豕扠首。

 

向拝は1間。

虹梁は袖切と眉欠きが彫られ、中備えは蟇股。蟇股には竜の彫刻。

 

向拝柱は大面取り角柱。側面には木鼻。

柱上の組物は平三斗。実肘木を介して軒桁を受けています。

 

向拝柱の上に、手挟はありません。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

 

先述の三経院西室と同様に、前方の1間通りは吹き放ちの庇となっています。

庇の柱は大面取り角柱で、柱上は舟肘木。

庇の部分の軒裏はまばら垂木です。

 

庇の側面には、引き戸が設けられています。

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

後方の母屋部分は、床と縁側が1段高くなっています。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と貫で固められています。柱上の組物は出三斗。中備えはいずれも間斗束。

母屋部分の軒裏は二軒繁垂木。

母屋柱と庇の柱をつなぐ虹梁(写真右端)の上には、白壁が張られています。

 

母屋の側面は4間あります。建具は半蔀や板戸が使われています。

 

聖霊殿の後方(写真奥)に見える棟は東室(ひがしむろ)。進入禁止の区画にあるため、細部の観察はできません。

東室は、桁行12間・梁間4間、切妻造(妻入)、本瓦葺。

奈良時代の造営国宝

 

妻室

聖霊院向かって右側(東側)に平行する長い伽藍は妻室(つまむろ)

桁行27間・梁間2間、切妻造、本瓦葺。

1121年頃の造営国指定重要文化財

 

妻面(南面)。

柱は角柱で、軒桁を直接受けています。

妻飾りは豕扠首。破風板には蕪懸魚が1つ下がっています。

 

西面。

側面には板戸が設けられ、板戸の下に小さい縁が設けられています。

中備えなどの意匠はありません。

 

妻室(左)と東室(右)の背面。

両棟とも背面に庇などの構造物はなく、単純な切妻となっています。

 

聖霊院向かって左側には名称不明の堂。写真奥に見えるのは、西院伽藍の廻廊(東廻廊)です。

堂は、桁行3間・梁間2間、切妻造、本瓦葺。

 

柱は面取り角柱で、柱上は舟肘木。

中央の柱間には板戸。板戸の上に扁額がありますが、判読できず。

 

軸部は長押で固められています。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

正面には低い縁側が設けられています。

堂は基壇の上に建てられ、柱は礎石の上に据えられています。

 

聖霊院の手前には手水舎があります。こちらは北面。

切妻造、檜皮葺。

 

柱は几帳面取り角柱。虹梁の位置に木鼻がついています。

柱上の組物は、大斗と実肘木を組んだもの。大斗は皿付きで、皿の下の基部には格狭間のような装飾が彫られています。

 

虹梁には絵様が彫られています。中備えは蟇股。

妻虹梁の上も蟇股です。

破風板の拝みは、鰭付きの蕪懸魚。

 

三経院、聖霊院については以上。

その7では綱封蔵、細殿と食堂、東大門について述べます。

*1:附:棟札1枚

*2:附:棟札1枚