甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【宇治市】宇治上神社 前編(拝殿)

今回は京都府宇治市の宇治上神社(うじかみ-/うじがみ-)について。

 

宇治上神社は宇治川北岸に鎮座しています。

創建は不明。平安時代の『延喜式』に「宇治神社二座」の記載があり、これは当社と宇治神社の2社と比定されます。1052年に鳳凰堂が造られると、当社は平等院の鎮守社となったようです。中世から近世にかけての詳細な沿革は不明ですが、鎌倉時代に現在の拝殿が造られています。当初は「宇治離宮明神」の「上社」または「本宮」と呼ばれていましたが、明治時代に宇治神社と分離して現在の社号となっています。

現在の社殿は平安後期から鎌倉時代にかけての非常に古いもので、2棟が国宝、1棟が重要文化財に指定されています。とくに本殿は平安後期の造営と推定され、現存最古の神社建築としてきわめて高い価値があります。

 

当記事ではアクセス情報および拝殿について述べます。

本殿と境内社については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒611-0021京都府宇治市宇治山田59(地図)
アクセス 京阪宇治駅から徒歩10分
宇治東ICから車で5分
駐車場 10台(無料)
営業時間 09:00-16:00
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 世界文化遺産 宇治上神社公式ホームページ
所要時間 20分程度

 

境内

鳥居と参道

宇治上神社の境内は南西向き。「さわらびの道」という遊歩道に鳥居が立っています。また、鳥居から南へ50メートルほど行くと、当社と対をなす宇治神社が鎮座しています。

右の社号標は「世界文化遺産 宇治上神社」。

鳥居は木造明神鳥居。

 

鳥居の左手には名称不明の社殿。

屋根の唐破風部分は檜皮葺となっています。

 

柱は細い角柱が使われ、柱上は舟肘木。

唐破風の小壁には蟇股があります。兎毛通は猪目懸魚。

 

遊歩道から宇治上神社境内に入ると、石橋の先に正門があります。

正門は、薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

柱はいずれも角柱。

柱から前方に女梁と男梁を出し、軒桁を受けています。

 

拝殿

門の先には独特な形式の拝殿が鎮座しています。

桁行6間・梁間3間、切妻、両側面1間通り庇付、向拝1間、檜皮葺。

鎌倉時代前期の造営と推定されます。「宇治上神社拝殿」として国宝*1

 

参道に設置された案内板*2によると、現存最古の拝殿とのこと。

細部はいずれも純粋な和様で構成され、和様建築の好例といえます。また、寝殿造の技法や意匠が多く採り入れられているようで、住宅建築風の軽快な外観です。

 

向拝は1間。

柱や梁は細めの材が使われています。

 

しめ縄のかかった虹梁(頭貫)の上には蟇股。

蟇股は内側に菊らしき植物が彫られています。流麗でとても良い造形だと思いますが、鎌倉時代ではなく室町後期以降のものに見えます。

蟇股の上の斗は、軒桁を直接受けています。

 

向拝柱は大面取り角柱。非常に古い建築のため、面取りの幅が大きいです。

柱上の組物は連三斗。向拝柱の側面に斗栱がつき、連三斗の肘木を持ち送りしています。

 

向拝柱を側面から見た図。

連三斗の上にも斗栱があり、繰型のついた小さな手挟で軒裏を受けています。

破風板(縋破風)の桁隠しは猪目懸魚。

 

母屋の正面の柱間は6間ありますが、その左右に1間の庇(白壁が張られている柱間)が付いているため、つごう8間に見えます。

屋根は一見すると入母屋のような形式ですが、庇の部分は軒が折れ曲がっていて、「切妻屋根の両側面(妻面)に庇がついたもの」と解釈するのが適当です。似た形式の建築として、日吉大社(大津市)の西本宮本殿と東本宮本殿があります*3

 

庇の柱間。

母屋の柱(写真右)は円柱。対して庇の柱(写真左)は角柱です。

軒裏はまばら垂木。母屋の軒裏(写真右上)が二重であるのに対し、庇の軒裏は一重。母屋の軒裏と庇の軒裏が直交する部分には、破風板のような材を入れて仕切っています。

 

左側面。

側面の柱はすべて角柱が使われています。軸部は長押で固定され、柱上は舟肘木。

柱間は3間で、中央が舞良戸、左右は白壁。

 

反対側の右側面。

柱や組物は左側面と同様ですが、こちらは柱間に半蔀と舞良戸が使われています。

縁側はくれ縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

 

正面中央の母屋部分。

写真ではわかりづらいですが、柱間を数えると6間あり、建具は板戸や半蔀が使われています。

軒裏は、中央の向拝がある部分だけ、垂木が密に配されています。

 

母屋を構成する柱は円柱が使われています。

母屋の隅に位置する柱(写真中央右)は柱上に舟肘木がありますが、ほかの母屋柱は組物がなく、軒桁を直接受けています。

 

背面。

正面と同様に母屋部分は6間あり、その左右に各1間の庇が付きます。

母屋の中央の柱間は板戸で、その左右各2間は格子状の板材が入った窓となっています。母屋の6間のうち、背面向かって右側(北西側)の1間は建具のない小さな柱間となっていて、この拝殿は左右非対称の構造をしています。

 

側面の入母屋破風。

破風には木連格子が張られ、拝みには猪目懸魚が下がっています。

 

拝殿向かって右には、井戸と思しき社殿があります。

公式サイトには「桐原水」と書かれていました。

 

拝殿については以上。

後編では本殿と境内社について述べます。

*1:附:桟唐戸4枚、蟇股1個

*2:宇治市による設置

*3:ただし日吉大社西本宮本殿・東本宮本殿は、切妻屋根の正面と両側面に庇がついた形式で、正面の外観は宇治上神社拝殿と異なる