甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【斑鳩町】法隆寺 その4(大講堂、鐘楼、経蔵)

今回も奈良県斑鳩町の法隆寺について。

 

当記事では、大講堂、鐘楼、経蔵について述べます。

 

その1 南大門、西園院

その2 西院伽藍の配置、中門

その3 五重塔、金堂

その4 大講堂、鐘楼、経蔵

その5 西大門、西円堂

その6 三経院、聖霊院

その7 綱封蔵、細殿と食堂、東大門

その8 東院四脚門、夢殿

その9 伝法堂、東院鐘楼

 

大講堂

五重塔と金堂のあいだを進むと、西院伽藍の中央奥に大講堂(だいこうどう)が鎮座しています。

桁行9間・梁間4間、入母屋造、本瓦葺。

990年(正暦元年)造営国宝

 

現在の大講堂は990年に再建されたものですが、後世に何度か改変を受けているようで、西側(向かって左)の庇は中世の後補とのこと。江戸時代の修理でこの庇が堂に取り込まれ、現在の構造になったようです。西側の1間通りは後世に付加された箇所のため、当初の大講堂は正面8間という風変わりな構造だったようです。

 

大講堂の手前の灯篭。

軒先の隅には蜃の彫金があります。

三葉葵の紋が見えるため、江戸時代に寄進されたものかと思います。

 

正面は9間あり、そのうち中央の7間に板戸が設けられています。

縁側はなく、堂内は土間床です。

 

柱は円柱。中門のような胴張りのついたエンタシスではありません。

軸部は頭貫と長押で固められ、柱上の組物は平三斗。中備えは間斗束。

 

向かって右。

左右両端の各1間は、扉やその上の長押が省略されています。

 

隅の柱の上には、出三斗が使われています。

軒裏は二軒繁垂木。地垂木・飛檐垂木ともに四角断面の材が使われていて、いわゆる地角飛角です。

 

右側面。

外からは解りづらいですが、側面は4間あります。

堂内については、外周の1間通りは化粧屋根裏の庇、中央の正面7間・側面2間の空間(母屋)は格天井が張られ薬師三尊像が祀られています。

 

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

大講堂の奥には上御堂(かみのみどう)がありますが、進入禁止の区画にあるため遠目に見ることしかできません。堂内には釈迦三尊像が安置され、毎年11月初頭に限定公開されるとのこと。

上御堂は、桁行7間・梁間4間、入母屋造、本瓦葺。

1318年(文保二年)造営国指定重要文化財

 

境内北西の東円堂付近から見た図。

遠くてわかりづらいですが、正面の柱間には桟唐戸が使われています。桟唐戸は鎌倉時代以降の建築に使われる、禅宗様の意匠です。ほかの意匠は大講堂と同じ和様の意匠が使われていて、和様と禅宗様を折衷した建築のようです。

 

鐘楼

大講堂の手前、向かって右側(東側)には鐘楼(しょうろう)が西面しています。

桁行3間・梁間2間、楼造、切妻造、本瓦葺。

1005~1020年の造営国宝

 

鐘楼の右には、中門から伸びる廻廊(東廻廊)がつながっています。廻廊はその2で述べたように飛鳥時代の造営ですが、鐘楼付近の折れ曲がった部分は平安時代に付加されたものです。10世紀以前の廻廊は、五重塔と金堂の北側で閉じていて、鐘楼(再建前)や大講堂は廻廊の外にあったようです。

 

下層。

正面は3間で、中央に板戸が設けられています。左右の柱間には腰貫が入り、壁面はしっくい塗り。

側面は2間。

 

柱は円柱。柱上の組物は出三斗。

中備えはありません。

上層の縁側は厚い板が使われ、すきまを開けて並べられています。

 

上層。

正面は3間。中央は壁や建具がなく、左右の柱間は連子窓が設けられています。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

軒裏は二軒まばら垂木。垂木は地角飛角です。

 

右側面(南面)。

側面は2間で、柱間は連子窓。

中央の柱は、斗1つだけで虹梁を受けています。

 

妻飾りは二重虹梁。梁の上に板蟇股が使われています。

板蟇股の上には組物(平三斗)が乗り、桁を受けています。軒桁は丸桁(がぎょう)ともいいますが、その語源のとおり、円形の断面となっています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

鐘楼の南側の廻廊内部。奥に見える壁面は、鐘楼下層の南面です。

柱間に梁がわたされ、中央に豕扠首を置いて棟木を受けています。

大部分の構造はその2で述べた飛鳥時代の部分と同じですが、こちらは割束ではなく豕扠首が使われ、強度の向上が図られています。

 

折れ曲がり部分。

豕扠首の束の位置に、梁が取り付いています。その梁の中央には間斗束が立てられ、棟木の交差する部分を支えています。

後世の建築とくらべると技術的につたない造りですが、複雑な軒裏の取り合い部分を、強度と美観を両立してきれいに仕上げようと苦心した様が見て取れます。

 

経蔵

講堂の左手前(西側)には経蔵(きょうぞう)。鐘楼と向かい合う位置に東面しています。

桁行3間・梁間2間、楼造、切妻造、本瓦葺。

飛鳥時代の造営。五重塔や金堂と同年代物のものです。

国宝

 

大まかな造りは先述の鐘楼と同じですが、こちらのほうが古い建築で、細部の意匠も異なります。

正面は3間で、中央は板戸。戸の上には長押が打たれています。

 

柱は円柱。上端が絞られていて、禅宗様の粽柱のような外観です。

柱上の組物は出三斗。中備えはありません。

 

上層。

正面3間で、中央は板戸、左右は連子窓。

切目縁が4面にまわされ、跳高欄が立てられています。

 

左側面(南面)。

上層の柱も上端が絞られています。組物は平三斗が使われ、側面中央の柱は斗で虹梁を受けています。

妻飾りは二重虹梁。鐘楼のものと似た造りですが、こちらは梁の上の蟇股のシルエットが独特で、T字を逆にしたような形状です。

軒裏は二軒まばら垂木。地角飛角です。破風板の拝みには猪目懸魚。

 

経蔵の南側の廻廊については、鐘楼のものとほぼ同じ造り。

細部については割愛いたします。

 

大講堂、鐘楼、経蔵については以上。

その5では西大門、西円堂について述べます。