甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲賀市】油日神社 後編(拝殿と本殿)

今回も滋賀県甲賀市の油日神社について。

 

前編では楼門、廻廊について述べました。

当記事では拝殿、本殿などについて述べます。

 

拝殿

楼門の先には拝殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、入母屋造(妻入)、正面背面軒唐破風付、檜皮葺。

慶長年間(1596-1614年)頃の造営。「油日神社拝殿」として国指定重要文化財

 

正面の入母屋破風。

木連格子が張られ、破風板の拝みに猪目懸魚が下がっています。

 

正面の軒下。扁額は「鎮護」。

柱間は3間で、建具は3間とも格子の引き戸が入っています。

 

柱は面取り角柱。柱間に長押が打たれています。

柱上は舟肘木。

 

唐破風の小壁には蟇股が置かれています。蟇股の内側には若葉状の彫刻が入っています。

唐破風の兎毛通は蕪懸魚。

 

側面も3間。

縁側は欄干のない切目縁が4面にまわされています。

 

背面。

こちらにも軒唐破風が設けられていますが、小壁の蟇股は省略されています。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

中門

拝殿と本殿とのあいだには中門が設けられ、中門と透塀で本殿を囲っています。

中門は、一間一戸、切妻造(妻入)、檜皮葺。

造営年不明。

 

門扉は桟唐戸。上方の羽目板は花狭間となっています。

 

柱は大面取り角柱。近現代の造営かと思いますが、面取りの幅が大きく古風です。

正面と側面には木鼻。若葉の意匠です。

柱上の組物は出三斗。

 

柱間には梁がわたされ、中備えは板蟇股。板蟇股の上は平三斗になっていて、上の妻虹梁を受けています。

妻虹梁は眉欠きだけが彫られたもの。妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚が下がっています。

 

中門の左右には透塀がつながっています。

切妻造、檜皮葺。

柱は角柱が使われ、柱間に連子窓が設けられています。

 

向かって右の透塀の奥には名称不明の社殿(神饌所?)があります。

切妻造、檜皮葺。

 

本殿

中門と透塀の内には本殿。主祭神は油日大神で、ミヅハノメとサルタヒコも配祀されています。

本殿は、桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。

1493年(明応二年)造営。「油日神社本殿」として国指定重要文化財*1

 

側面は3間で、前方の1間通りが前室(外陣)、後方の2間通りが母屋(内陣)です。そして、その手前に1間の向拝が設けられています。このような構成の流造本殿は滋賀県内に多く見られ*2、当サイトでは「前室付き流造」と呼んでいます。

 

中門から本殿向拝を見た図。

向拝は1間。

 

向拝柱は面取り角柱。側面には斗栱がつき、上の連三斗の肘木を持ち送りしています。

柱上は連三斗。肘木を使わず、軒桁を直接受けています。

 

向拝柱のあいだには、無地の貫が通っています。

貫の上の中備えは蟇股。唐獅子らしき彫刻が見えますが、明瞭な写真が撮れませんでした。

奥の母屋の中備えにも、唐草の彫刻が入った蟇股が見えます。

 

母屋の手前には角材の階段が7段。

階段の下には浜床が張られています。向拝柱の横には欄干(昇高欄)の親柱が立てられ、擬宝珠がついています。

 

向拝の組物の上には板状の手挟。若葉の意匠が彫られています。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

 

前室の部分。

前室の柱(写真中央)は角柱。対して母屋の柱(写真左)は円柱です。

前室の軸部は貫と長押で固められ、柱間には菱組みの引き戸が入っています。

 

柱上の組物は平三斗と連三斗。隅の柱には連三斗が使われ、側面に出た斗栱で持ち送りしています。

正面の中備えは蟇股。

 

前室と母屋とで床の高さがことなり、それにあわせて縁側と欄干にも高低差がつけられています。

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。後方は脇障子を立ててふさいでいます。縁の下は、礎石の上に据えられた縁束で支えています。

母屋と前室の柱は、亀腹と土台の上に据えられています。

 

母屋は側面2間。柱間は白壁。

軸部は貫と長押で固められ、頭貫に木鼻は使われていません。柱上の組物は出三斗と平三斗。

 

右側面(東面)。こちらは母屋に板戸が設けられています。

組物の上には無地の梁がわたされ、妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには、蕪懸魚が下がっています。

 

本殿の周辺

本殿東側の塀の外には、2棟の境内社が南面しています。

両棟とも一間社流造、銅板葺。

 

向かって左の社殿。

虹梁中備えには竜の彫刻、向拝柱の側面には獏の木鼻があります。

 

母屋柱は円柱で、頭貫には拳鼻。柱上は出三斗。

正面の中備えには、麒麟と思しき神獣の彫刻。

 

側面の中備えは、波に亀。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板には猪目懸魚が下がっています。

 

向かって右の社殿。左の社殿よりも小さく、各所の意匠も控えめな内容です。

中備えは蟇股で、向拝柱の側面には象の木鼻。

 

母屋柱は円柱で、柱上は連三斗。

頭貫の上の中備えは蟇股。妻虹梁の上の妻飾りも蟇股です。

破風板には猪目懸魚。

 

2棟の境内社の東側には、名称不明の堂が南面しています。

宝形造、銅板葺。

頂部には宝珠が乗り、神社というよりは寺院風の外観です。

 

前方の1間通りは吹き放ちの庇となっていて、鏡天井が張られています。

 

本殿の西側にも境内社があります。

塀の内側にはコウヤマキの大木。市指定天然記念物です。

 

本殿西側の境内社は、見世棚造、一間社春日造、銅板葺。

 

向拝柱と母屋柱とのあいだには虹梁がわたされています。虹梁の上には小壁と破風板があり、軒裏の直交部をさばいています。

 

向拝に水引虹梁はありませんが、桁の位置に木鼻のような部材がつき、軒裏の垂木を受けています。

 

母屋の正面は、階段のかわりに見世棚が設けられています。

柱は井桁状の土台の上に据えられています。

 

境内社の南にも、名称不明の社殿があります。

入母屋造、檜皮葺。背面1間通り庇付。

柱は細い材が使われ、柱上は舟肘木。建具は板戸や舞良戸が使われています。

 

鐘楼

楼門を出て境内西の出入口へ向かうと、西鳥居が西面しています。

木造明神鳥居。扁額はありません。

 

西鳥居の近くには鐘楼。神仏習合の時代のなごりのようです。

入母屋造、銅板葺。

内部に吊るされた梵鐘は1620年(元和六年)の寄進で、市指定有形文化財。

 

南面の入母屋破風。縦板が張られています。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

柱は円柱。虹梁の位置に木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。

 

南面。

飛貫の上には蟇股が置かれ、上の虹梁を受けています。

虹梁の上の中備えは蟇股。雲状の意匠で、実肘木を介して軒桁を受けています。

 

東面。

側面は、飛貫の上の蟇股が2つあります。

 

以上、油日神社でした。

(訪問日2025/01/18)

*1:附:棟札1枚、棟札14枚

*2:園城寺新羅善神堂(大津市)や苗村神社西本殿(竜王町)が代表的