兵庫県加古川市
鶴林寺(かくりんじ)
2025/05/01撮影
その2では行者堂、常行堂、本堂について述べました。
当記事では、太子堂、鐘楼、護摩堂について述べます。
太子堂

本堂向かって右手前には太子堂。
本堂を中心に、常行堂とほぼ対称になる位置に南面しています。もとは法華堂と呼ばれ、先述の常行堂と対をなす堂だったとのこと。

桁行3間・梁間3間、宝形造、正面1間通り庇付、檜皮葺。
1112年(天永三年)造営。県内最古の建築です。
鶴林寺太子堂として国宝に指定されています。

正面は3間。
柱間は半蔀で、軒裏から吊り具が下がっています。


正面の柱は大面取り角柱。古い時代のもののため、面取りの幅が非常に大きく、八角柱に近いバランスです。
柱上は舟肘木。木口から底面にかけてなだらかな曲線で造形されており、古風なシルエットです。
隅の柱の舟肘木は、左右非対称の形状をしています。このような技法は初めて見ました。

左側面(西面)。
母屋の側面は3間で、その前方(写真右)に1間通りの庇がつくため、つごう4間に見えます。
軒裏は、母屋部分(写真左)が二重であるのに対し、庇の部分は一重となっています。また、庇の部分は縁側が1段低いです。

庇の部分には、桟唐戸が設けられています。
この堂は平安時代のものですが、桟唐戸は鎌倉時代から使われる意匠のため、この桟唐戸は鎌倉以降の改造によるものと分かります。

桟唐戸の軸は、通常は藁座で受けますが、この堂では長押に穴をあけることで軸を受けています。
桟唐戸の上には長押が打たれ、その上の壁面には虹梁がわたされています。虹梁は眉欠きだけが彫られた無地のもの。


母屋部分。柱間は3間とも半蔀。
母屋柱は円柱が使われ、軸部は頭貫と長押で固めています。
柱上の組物は大斗と舟肘木。


背面は3間。
柱間は中央が桟唐戸、左右各1間が横板壁。

縁側は切目縁が4面にまわされ、縁の下は縁束で支えられています。縁束は面取り角柱。
母屋柱は礎石の上に据えられ、床下も円柱に成形されていました。

屋根の頂部の宝珠。
露盤には唐獅子らしき獣の彫金が見えます。
露盤の上には伏鉢と反花が乗り、宝珠が据えられています。
鐘楼

太子堂の北側には鐘楼。上の写真は南西から見た図。
桁行3間・梁間2間、袴腰付、入母屋造、本瓦葺。
1407年(応永十四年)造営。国指定重要文化財。

南面は2間。柱間には菱組みの格子が張られています。
柱は円柱で、軸部の固定に長押を多用しています。頭貫木鼻はありません。
柱上の組物は和様の尾垂木三手先。中備えは間斗束。
縁側は切目縁で、跳高欄が立てられています。

西面。こちらは3間あり、中央の柱間は少し広いです。
柱間、組物、中備えは南面と同様。

縁の下は三手先の腰組で支えられています。腰組の左右方向の肘木には、禅宗様木鼻のついたものがあります。腰組のあいだには間斗束。
腰組と間斗束の下は、下見板を張った袴腰になっています。

南面の入母屋破風。
破風板の拝みには鰭付きの猪目懸魚。
妻飾りは暗くてほとんど見えないですが、虹梁大瓶束らしきものが確認できます。
観音堂

太子堂と鐘楼の東側には観音堂が南面しています。堂内にはかつて浜宮天神社にあった観音像が祀られているようです。
桁行3間・梁間3間、入母屋造、向拝1間、本瓦葺。
1705年(宝永二年)造営*1。

向拝柱は几帳面取り角柱。江戸時代の新しい技法です。
向拝柱の側面には象鼻がつき、柱上は連三斗。
虹梁中備えは板蟇股。

向拝の組物の上から海老虹梁が出て、母屋の頭貫の位置に取りついています。
縋破風には桁隠しの猪目懸魚。猪目(ハート形)の穴が3つあけられています。

柱間は正面側面ともに3間で、板戸、引き戸、横板壁が使われています。
縁側は切目縁。
母屋は亀腹の上に造られています。

背面は3間。
柱間は横板壁で、長押の上はしっくい塗りの小壁。

母屋柱は面取り角柱。江戸中期のものにしては面取りの幅が大きいです。
頭貫には拳鼻。
柱上の組物は出組。頭貫の上の中備えは蓑束。

入母屋破風。
破風板には鰭付きの三花懸魚が下がっています。
妻飾りは二重虹梁。大虹梁の上に出三斗と板蟇股を置き、その上に虹梁大瓶束があります。

観音堂の南側には「法華一石一字塔」(ほっけいっせきいちじとう)なる石造物があります。
案内板によると1771年(明和八年)造立の供養塔とのこと。
基壇の上には「妙法蓮華経」と彫られた六角柱の塔身があり、その上に五輪塔のような形状の塔が据えられています。
護摩堂

境内東端の宝物館と池の近くには、護摩堂が南面しています。
桁行3間・梁間3間、入母屋造、本瓦葺。
1563年(永禄六年)造営。国指定重要文化財。

正面は3間。
中央は半蔀と格子戸、左右各1間は横板壁。中央の柱間は、上の長押が省略されています。

左側面(西面)。
側面も3間で、柱間は横板壁。
母屋柱は円柱で、柱で軒桁を直接受けています。軸部は貫と長押で固められています。
軒裏は一重まばら垂木。
縁側は切目縁が4面にまわされています。

背面。
こちらも3間で、柱間は横板壁。

入母屋破風には虹梁大瓶束が使われています。
破風板には蕪懸魚。鰭は若葉の意匠。
子院など

境内の北側には3件の子院がありますが、いずれも拝観できません。
こちらは境内北西に南面する浄心院。門より先の区画は進入禁止となっています。

浄心院の門は、薬医門、切妻造、本瓦葺。
主柱から男梁(腕木)を持ち出し、虹梁や軒桁を受けています。虹梁には雲が彫刻され、中備えは竜の彫刻。

男梁の先端や、虹梁の木鼻は、雲状の象鼻になっています。

妻虹梁の上には、雲状の蟇股らしき部材が置かれています。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しは雲の彫刻。

後方の柱間には、若葉を陰刻した虹梁がわたされています。
虹梁中備えも若葉の意匠です。

浄心院の南には、講堂が東面しています。
寄棟造、向拝1間、桟瓦葺。

向拝柱は細い角柱が使われ、側面に象鼻があります。柱上は舟肘木。
虹梁は眉欠きだけが彫られた無地のもので、中備えは板蟇股。
軒裏の垂木は丸い材が使われています。

境内北東の区画には真光院。
入口の門は、薬医門、切妻造、本瓦葺。

柱はいずれも角柱。
柱上から腕木を伸ばし、大斗と肘木で軒桁を受けています。

境内東側には宝物館。
重要文化財の仏画が多数展示されているほか、太子堂内部の須弥壇やその壁画を復元したもの(現物は煤がついていて肉眼では画を見られない)を見ることができます。

宝物館の近くの池には弁天社。
一間社流造、銅板葺。

本堂の南側、手水舎の向かいには石造宝篋印塔と句碑(写真左)があります。

石像宝篋印塔の手前(北側)にはこのような石造物が置かれています。
案内板(加古川市教育委員会)によるとこれは「石風呂」で、湯船として使われていたものらしいです。
以上、鶴林寺でした。
*1:境内案内板より