今回は一年の最終日ということで、2024年の総集編となります。
ことし当ブログで紹介した約100件の寺社建築のうち、感動した、あるいは秀逸だと思ったものをノミネートし、見どころや文化的価値について短評を述べていきます。
なお、ノミネートの選考基準は私の感性による独断です。個人の偏見が多分に含まれている点と、選考対象が一部地域にかたよっている点をご了承ください。
福島県
【会津若松市】会津さざえ堂(旧正宗寺三匝堂)
六角さざえ堂、向拝一間 向唐破風、銅板葺。
1797年(寛政九年)造営。国指定重要文化財。
東北地方を代表する著名な珍物件。
内部にはらせん状の回廊が伸び、昇りの回廊と降りの回廊がからまった二重らせん構造を呈しています。屋根や母屋は六角形の平面で、希少なさざえ堂のなかでもさらに希少な様式の遺構です。
東京都
【東村山市】正福寺地蔵堂
桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、銅板葺、入母屋、檜皮葺。
1407年(応永十四年)造営。国宝。
禅宗様建築の典型例。都内の国宝建築のうち、寺社はこの1件のみです。
内外の構造から細部意匠にいたるまで禅宗様で構成され、円覚寺舎利殿(鎌倉市)とともに東日本における禅宗様建築の代表的遺構です。境内は自由に出入りでき、観光地化されていないのどかな雰囲気も印象的でした。
神奈川県
【逗子市】神武寺薬師堂
桁行3間・梁間3間、寄棟、銅板葺。
1598年(慶長三年)造営。県指定有形文化財。
逗子の山中に鎮座する古刹の、中枢にあたる堂宇。
和様をベースとし、禅宗様の意匠を取り入れた折衷様建築。桃山時代にしてはやや古風で、室町風の外観。規模・意匠ともに標準的な堂といえますが、長い参道をのぼってこの堂が目に入ったときの感動が印象に残りました。
群馬県
【富岡市】貫前神社
境内社殿全体でのノミネート。
入口の総門が参道の最高地点で、階段をくだって拝殿や本殿へ向かう、いわゆる「下り宮」。
本殿は妻入の入母屋で、内部構造の特異さから「貫前造」とも呼ばれます。特異な点の目立つ神社ですが、主要な社殿は桃山~江戸初期のきらびやかな作風で、一宮にふさわしい実力と風格をそなえています。
山梨県
【甲府市】玉諸神社本殿
桁行正面3間?・背面2間・梁間2間、三間社流造?、背面向拝1間、銅板葺。
1609年(慶長十四年)再建。
甲斐国三宮の本殿。
社格に見劣りしない立派な本殿ですが、背面にある1間の向拝が異彩を放ちます。母屋部分と背面向拝とで、意匠や技法が異なる点も奇妙です。背面向拝が設けられた理由は諸説あり、判然としません。
静岡県
【富士宮市】富士山本宮浅間大社本殿
下層は、桁行5間・梁間4間、寄棟、正面1間通り庇付、檜皮葺。上層は、桁行3間、梁間2間、三間社流造、向拝3間、檜皮葺。
1604年(慶長九年)造営。国指定重要文化財。
寄棟の屋根の上に流造本殿が乗った2重の構造は、神社本殿として異例中の異例。浅間造とも呼ばれます。
構造は特殊ですが、細部意匠は端正な和様で、桃山風の華美な彩色で飾られています。桧皮葺の屋根もまた端正で、上層が富士山のように高々とそびえ立ち、空の青に映えます。
滋賀県
【近江八幡市】浄厳院本堂
桁行7間・梁間6間、入母屋、向拝3間、背面下屋付属、本瓦葺。
室町後期の造営。国指定重要文化財。
織田信長によって移築された本堂。
各所の意匠は和様がベースで、彫刻や禅宗様が部分的に使われ、時代相応の造りです。当寺は安土宗論が開かれた場所で、現在の伽藍や近接する沙沙貴神社から往時の安土城下の栄華を偲ぶのもまた一興です。
【野洲市】円光寺本堂
桁行5間・梁間5間、切妻、向拝一間、銅板葺。
1257年(康元二年)造営。国指定重要文化財。
鎌倉時代の中規模な密教建築。
屋根は寺院本堂として異例の切妻で、正面に1間の向拝がつき、神社本殿と見まごう外観。しかし内部の間取りは、典型的な密教建築の本堂のものとなっています。この奇妙な建築を一言で評するなら「神社本殿の皮をかぶった寺院本堂」でしょうか。
京都府
【京都市】本願寺唐門
一間一戸、四脚門、入母屋、正面背面軒唐破風付、檜皮葺。
桃山時代から江戸初期の造営(推定)。国宝。
日光東照宮を彷彿とさせる絢爛な色彩の門。別名は「日暮門」。
各所に配された鳥獣の彫刻は、造形・彩色ともに出色。細部の飾り金具も非常に凝っており、桃山文化の美麗の極致といえる建築です。軸部の黒漆塗りや屋根の檜皮葺きも美しく、きらびやかな彫刻や金具を引き立てています。
以上、9件が2024年のベストセレクションとなります。