今回は一年の最終日ということで、2022年の総集編となります。
ことし当ブログで紹介した約150件の寺社建築のうち、感動した、あるいは秀逸だと思ったものをノミネートし、見どころや文化的価値について短評を述べていきます。
なお、ノミネートの選考基準は私の感性による独断です。個人の偏見が多分に含まれている点と、選考対象が一部地域にかたよっている点をご了承ください。
青森県
【弘前市】誓願寺山門
一間一戸、四脚門、二重、切妻(妻入)、こけら葺。
江戸中期の造営。国指定重要文化財。
別名は鶴亀門。津軽弘前藩の繁栄をいまに伝える華やかな建築。
妻入の二重屋根は、門として異例中の異例といえる構造。軒下には干支が描かれています。地方色の極致と言える、東北屈指の珍物件です。
東京都
【台東区】東照宮(上野東照宮)
権現造、銅瓦葺。
1651年(慶安四年)造営。国指定重要文化財。
徳川家康を祀った霊廟で、江戸前期の権現造の好例。
日光や久能山と同様に、金箔や極彩色の彫刻をふんだんに使った豪華絢爛な建築。しかし拝殿部分は柱や建具に黒漆が使われ、派手さと落ち着きを兼ね備えた重厚な趣です。
長野県
【千曲市】武水別神社摂社高良社本殿
一間社流造、こけら葺。見世棚造。
室町後期の造営(推定)。長野県宝。
式内論社の参道脇に鎮座する境内社。
軒裏には垂木がなく、素朴で軽快な印象。また、禅宗様の意匠と古風な和様の意匠が混在し、古式にとらわれない野趣あふれる作風。長野県には個性的な神社建築が多いですが、その好例のひとつ。
【朝日村】光輪寺薬師堂
桁行5間・梁間4間、入母屋、向拝1間、茅葺。
1760年(宝暦十年)造営。長野県宝。
農村の一画に鎮座。屋根に生えたコケが年月の深みを感じさせ、重厚感を高めています。
欄間には彫刻が配され、江戸中期らしい作風。内陣部分の中備えが、右側面と左側面とで不ぞろいなのはご愛嬌。
愛知県
【美浜町】野間大坊(大御堂寺)
境内伽藍全体でのノミネート。
海沿いの寺町に鎮座。伽藍は歴史的にも規模的にも特筆するほどではありませんが、周辺は木立に囲われ神社のようなのどかな趣。
当地は源義朝が非業の最期を迎えた場所とされ、源平合戦の旧跡でもあります。
【西尾市】幡頭神社本殿
桁行正面3間・背面2間・側面2間、三間社流造、向拝1間、桧皮葺。
1580年(天正八年)造営。国指定重要文化財。
海を見下ろす高台に鎮座する、大型の流造本殿。
特筆すべきは屋根のバランスで、建築の規模に対して棟が高く、屋根の反りが非常に強いです。ありふれた様式ですが、初見のインパクトは抜群。
【西尾市】金蓮寺弥陀堂
桁行3間・梁間3間、寄棟、正面庇付、右側面孫庇付、桧皮葺。
鎌倉時代中期の造営(推定)。国宝。
愛知県および東海地方で最古の建築とされます。
仏堂としては小規模な部類。右後方の突出部や、住宅風の清楚で軽快な意匠が特徴的。
大阪府
【羽曳野市】誉田八幡宮南大門
一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。
造営年不明。
八幡宮の神宮寺の遺構。
同様式の門の中でも大規模で、屋根は本瓦、各所に彫刻が配されるなど豪華な造り。とくに彫刻の造形が出色で、目立たない袖塀にも繊細かつ精緻な彫刻があります。
【大阪市】住吉大社本殿(4棟)
梁間2間・桁行4間、住吉造、檜皮葺。
1810年(文化七年)再建。国宝。
古式の建築様式「住吉造(すみよしづくり)」の貴重な現存例。
国宝の寺社建築としてはかなり時代の新しいもの。しかしながら、古来の形式がよく保たれ、建築史を考えるうえで重要な手がかりとなる物件です。
奈良県
【葛城市】當麻寺
境内伽藍全体でのノミネート。
本堂をはじめ、奈良時代~鎌倉時代の非常に古い伽藍が立ち並びます。東西の三重塔が双方とも現存する点も貴重。広々とした境内に、背後の二上山が映えます。
本堂内陣の巨大な厨子に掲げられた當麻曼荼羅は必見。古刹・巨刹ひしめく奈良県内でも、珠玉の名刹だと思います。
【奈良市】東大寺南大門
五間三戸、二重門、入母屋、本瓦葺。
1199年(正治元年)再建。国宝。
大陸から伝わった「大仏様(だいぶつよう)」の技術と意匠が採用された革命的な巨大建造物。
後世の建築に与えた影響ははかり知れず、もしこの門がなければ今日の寺社建築はちがった姿になっていたでしょう。文化史・建築史的に、卓越して高い価値があります。
以上、11件が2022年のベストセレクションとなります。