甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

寺社建築ベストセレクション【2023年総集編】

今回は一年の最終日ということで、2023年の総集編となります。

 

ことし当ブログで紹介した約150件の寺社建築のうち、感動した、あるいは秀逸だと思ったものをノミネートし、見どころや文化的価値について短評を述べていきます。

なお、ノミネートの選考基準は私の感性による独断です。個人の偏見が多分に含まれている点と、選考対象が一部地域にかたよっている点をご了承ください。

 

茨城県

【潮来市】長勝寺本堂

桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、入母屋、茅葺、裳階は瓦棒銅板葺。

元禄年間(1688~1704)の造営(推定)。県指定有形文化財。

 

典型的な禅宗様建築。同様式の建築には国宝指定されているものもありますが、この本堂は比較的新しく、年代も判然としていないため県の文化財にとどまっています。

この本堂も印象的でしたが、周辺の水郷や街の景色も他所にはない独特の趣があり、それもあわせて記憶に残りました。

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神奈川県

【鎌倉市】円覚寺開基廟

桁行3間・梁間3間、寄棟、茅葺。

造営年不明。1811年(文化八年)改築。市指定有形文化財。

 

鎌倉幕府8代執権の北条時宗を祀った霊廟。

和様と禅宗様をバランスよく取り入れた建築。軒の出が深く気品のあるシルエットですが、直線的な茅葺屋根は素朴な印象で、両者が折衷様の意匠と合わさって調和しています。江戸時代の折衷様建築の秀作だと思います。

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富山県

【上市町】日石寺三重塔

三間三重塔婆。

江戸後期の造営。町指定有形文化財。

 

江戸後期に着工され、未完成のまま現在に至る三重塔。

壁や建具がなく、内部の軸組が丸見えになってしまっているのが特徴。外見のインパクトもさるものながら、ふつうの仏塔では見られない内部構造を詳細に観察でき、とても勉強になる物件です。

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山梨県

【山梨市】大井俣窪八幡神社

窪八幡神社本殿

境内伽藍全体でのノミネート。

2段の構成となった境内に、室町から江戸初期にかけての古い社殿がいくつも点在します。

特筆すべきは本社(窪八幡神社)の拝殿と本殿で、正面11間におよぶ長大な社殿が壁のようにそびえています。本社の周囲にはさまざまな規模様式の摂社がならび、境内は神社本殿の博物展といった趣。

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【甲州市】熊野神社本殿 2棟

一間社隅木入り春日造、桧皮葺。

鎌倉時代末期の造営(推定)。国指定重要文化財。

 

東日本でも最古級の神社本殿のひとつ。

簡素な意匠や古風な技法から、鎌倉時代の建築とされます。棟札などの史料が揃っていれば、国宝指定もありえたでしょう。また、桧皮葺の屋根が2棟並ぶ姿も美しく、東日本における春日造本殿の好例として、高い価値があります。

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長野県

【長野市】善光寺本堂

梁間5間・桁行14間、一重、裳階付、撞木造、正面向拝3間 軒唐破風付、両側面向拝1間、総檜皮葺。

1707年(宝永四年)再建。国宝。

 

長野県の象徴たる巨大建造物。

妻入の屋根に裳階がついたシルエットが印象的。正面のファサードの秀逸さもさるものながら、撞木造という独自の建築様式や、奥行きの長い平面など、仏堂として特異で興味深い点が散見されます。

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愛知県

【豊川市】三明寺三重塔

三間三重塔婆、こけら葺。

1531年(享禄四年)再建。国指定重要文化財。

 

室町後期に造られた、標準的な規模の三重塔。

初重および二重は、和様をベースとした折衷様。対して三重は禅宗様の意匠で構成されています。仏塔では部分的に禅宗様を採用することがありますが、重ごとに様式をはっきりと使い分けるのはめずらしい技法といえます。

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滋賀県

【東近江市】高木神社 2棟

日吉神社本殿(写真左)は、桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。

高木神社本殿(写真右)は、桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝3間、檜皮葺。

前者は棟札より1512年(永正九年)の造営。後者は同年の造営と推定されます。2棟で国指定重要文化財。

 

滋賀県でよく見かける、前室のある大型の流造本殿。

構造的には滋賀県の地方色が見られますが、細部意匠は古風な和様で構成され、京風の端正な造り。室町の本殿が2棟並んだ景色は壮観。

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京都府

【京都市】八坂神社本殿

桁行7間・梁間6間、入母屋、向拝3間、左右両側面および背面庇付、背面3間突出部付、檜皮葺。

1654年(承応三年)再建。国宝。

 

2棟の社殿を前後につなぎ、巨大な入母屋屋根で覆った構造となっており、祇園造(ぎおんづくり)とも八坂造(やさかづくり)とも呼ばれます。この様式は遅くとも平安後期には成立していたようで、寺社建築の発展の過程を考えるうえで、とても興味深い遺構です。

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【京都市】大報恩寺本堂

桁行5間・梁間6間、入母屋、向拝1間、桧皮葺。

1227年(安貞元年)上棟。国宝

 

洛中最古の建築。別名は千本釈迦堂。

京都市街にある古建築の大半は近世のものであり、この本堂のように応仁の乱を乗り越えて現存する例は貴重。概観は、棟が低く落ち着いたシルエット。細部は質素かつ古風な意匠で構成され、和様建築の好例といえます。

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【木津川市】海住山寺五重塔

三間五重塔婆、初重裳階付、本瓦葺。

1214年(建保二年)建立。国宝。

 

貴重な鎌倉初期の建築。

五重塔としては小規模な部類ですが、初重に裳階がつき、六重のシルエットとなっているのが大きな特徴。細部意匠は純粋な和様で、古風な優美さをただよわせます。

個人的に、かねてより見に行きたいと思っていた建築だったため、感動もひとしおでした。

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以上、11件が2023年のベストセレクションとなります。