甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【喜多方市】新宮熊野神社 前編(長床)

今回は福島県喜多方市の新宮熊野神社(しんぐう くまの-)について。

 

新宮熊野神社は市西部の住宅地に鎮座しています。

創建は伝承によると1055年(天喜三年)で、源頼義が前九年の役の戦勝を祈願して熊野堂(現在の会津若松市河東町)に熊野神社を祀ったのがはじまりとされます。現在地に移転したのは1089年(寛治三年)で、源義家が後三年の役の折に遷座したと伝わります。創建後は隆盛したようですが、平安末期に越後の城氏の攻撃を受けて荒廃し、源頼朝によって再建されたようです。鎌倉時代は新宮氏の庇護を受けましたが、室町後期は芦名氏の台頭によって新宮氏が滅び、当社も衰微しました。桃山時代から江戸初期は藩主の蒲生氏の庇護を受け、1611年の会津地震ののちに社殿が再建されています。江戸前期以降は藩主の松平氏の祈願所として存続しました。

現在の社殿は江戸前期以降のものです。拝殿に相当する長床は、再建前の建物(平安末期から鎌倉初期のものとされる)の旧材が利用されており、国の重要文化財に指定されています。本殿は県指定の文化財で、熊野三山になぞらえて3棟の本殿が並立しています。ほか、宝物殿には神仏習合の時代の社宝が多数展示されています。

 

当記事ではアクセス情報および長床などの社殿について述べます。

本殿については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒966-0923福島県喜多方市慶徳町新宮熊野2258(地図)
アクセス 会津坂下ICから車で20分、または塩川ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 08:30-16:45
入場料 300円
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 30分程度

 

境内

参道

新宮熊野神社の境内は東向き。境内入口は集落の生活道路に面しています。

入口には木造両部鳥居。扁額は「熊野神社」。

 

参道を進むと拝観受付があり、境内北側に宝物殿が南面しています。

宝形、銅板葺。頂部には仏塔のような宝輪がついています。

内部には重要文化財の銅鉢や、神仏習合の時代に当社で使われていた仏具や仏像が展示されていました。

 

参道に戻って境内の奥へ進むと、右手に手水舎があります。

切妻、銅板葺。

 

柱は面取り角柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は出組。台輪の上の中備えは蟇股。

 

妻面。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには猪目懸魚が下がっています。

 

拝殿(長床)の手前にはイチョウの大木。

樹齢600年と推定され、市の天然記念物に指定されています。

 

長床

参道の先には、当社の拝殿に相当する長床(ながとこ)が鎮座しています。

桁行9間・梁間4間、寄棟、茅葺。

造営年不明。様式や技法から、平安末期から鎌倉初期に造営されたと考えられています。1611年に地震で倒壊し、1614年(慶長十九年)に旧材を利用して再建されましたが、当初のものよりも小さく造られているとのこと。

国指定重要文化財

 

江戸初期の再建時に改造が加えられ減築されているようですが、それでも神社建築としては大規模な平面です。先述のとおり平安から鎌倉にかけての部材が再利用されていて、太くて力強い古風な木割が印象的。再建前の規模や旧観については不明ですが、平安・鎌倉の清楚で素朴な作風で再建されており、純粋な和様建築となっています。

 

正面の軒下。

柱はいずれも円柱で、軸部は貫と長押で固められています。4面すべてが吹き放ちで、いずれの柱間にも壁板や建具がなく、非常に開放的な造り。

軒裏は一重の繁垂木。

 

組物は出三斗と平三斗。平三斗は鯖尾(内部の虹梁の端部)が出たもので、古風な技法です。

頭貫の上の中備えは間斗束。組物も間斗束も、巻斗で軒桁を直接受けています。

頭貫に木鼻はありません。

 

前方の1間通りの内部の様子。写真左が正面側です。

長床の外周、すなわち前後左右の1間通りの空間は庇で、天井がなく化粧屋根裏となっています。

母屋柱(写真右)と外周の柱(写真左)とのあいだには繋ぎ虹梁がわたされています。

 

繋ぎ虹梁の母屋柱のほうは頭貫の高さに取りつき、外周の柱のほうは組物の大斗の上に取りついています。

 

中央の母屋部分。

正面(桁行)9間・側面(梁間)4間の平面のうち、外周をのぞいた中央部の正面7間・側面2間の空間が母屋です。

母屋の空間は前後方向(上の写真では左右方向)に長い梁をわたして中央の柱を省き、空間を広く取っています。虹梁の上には板張りの天井が設けられています。

 

母屋柱の柱上の様子。

こちらも柱上に出三斗や平三斗が使われていて、虹梁の端部を受ける平三斗には鯖尾がついています。

 

側面と、柱の床下。

柱は礎石の上に立てられ、床下も円柱に成形されています。

 

背面。

正面と同様の構造で、ほぼ前後対称となっています。

 

鐘楼

長床向かって左側(西側)には鐘楼。鐘楼は基本的に寺院に設けられるもので、この鐘楼は神仏習合の時代のなごりかと思います。

鐘楼は、切妻、鉄板葺。

 

内部に吊るされている銅鐘には1349年(貞和五年)の銘があり、銘のある梵鐘として県内最古とのこと。県の文化財に指定されています。

 

柱は面取り角柱。柱上は出三斗。

虹梁には木鼻がつき、中備えに透かし蟇股が配されています。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

長床などの社殿については以上。

後編では本殿について述べます。