甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【富士宮市】富士山本宮浅間大社 後編 本殿

今回も静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社について。

 

前編では随神門や拝殿などについて述べました。

当記事では国重文の本殿や湧玉池周辺について述べます。

 

本殿

拝殿の後方には幣殿(写真中央右の低い棟)がつづき、その奥に独特な外観の本殿が高々とそびえ立っています。

本殿は江戸初期の造営で、徳川家康の寄進によるもの。徳川家康は関ケ原の戦いの折に当社で祈願をしており、戦勝を祝ってこの本殿が造られたと考えられています。

主祭神はコノハナノサクヤビメ(浅間大神)で、富士山の神と同一視されます。ほか、ニニギとオオヤマツミも配祀されています。

 

下層は、桁行5間・梁間4間、寄棟、正面1間通り庇付、檜皮葺。上層は、桁行3間、梁間2間、三間社流造、向拝3間、檜皮葺。*1

1604年(慶長九年)造営。「富士山本宮浅間神社本殿」の名称で国指定重要文化財*2

 

下層は寄棟、上層は流造で、神社本殿としてきわめてめずらしい二重の構造となっています。この様式の本殿はほかに例がなく、浅間造(あさまづくり、せんげんづくり)と呼ばれることもあります。

 

本殿下層(写真右)と幣殿(左端)のあいだの接続部には海老虹梁がわたされ、その下には緑色の連子が張られています。

下層の屋根の前方には縋破風が付き、桁隠しに懸魚があります。

 

下層の柱は円柱で、柱間は貫と長押で連結されています。

柱上の組物は出組。白と黒で塗り分けられ、桃山風の彩色です。組物の上は通肘木が使われています。

頭貫の上の中備えは蟇股。内側の彫刻は植物を題材としています。

 

上層は、通常の三間社流造の本殿の造りとなっています。

正面の向拝は3間で、向拝の下に浜床が設けられています。

母屋の正面は3間で、3組の板戸が設けられています。階段は、中央の1間の幅だけ造られ、欄干の親柱は擬宝珠付き。

 

反対側の右側面(東面)から見た向拝。

向拝柱は面取り角柱。

隅の柱の組物は連三斗で、柱側面の斗栱で持ち送りされています。組物の上に実肘木はなく、軒桁を直接受けています。

向拝正面の中備えは蟇股。こちらも彫刻がありますが、うまく写真が撮れず詳細まで観察できませんでした。

繋ぎ虹梁は向拝の組物のうえから出て、母屋の頭貫の位置に取り付いています。

 

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。縁の下は、縁束を立てるのが難しいためか、三手先の組物で支えられています。

母屋の側面は2間。円柱が使われ、柱間は横板壁。

 

軸部は貫と長押で固定されています。頭貫木鼻はありません。

柱上の組物は連三斗と平三斗。こちらも実肘木がなく、通肘木が使われています。

頭貫の上の中備えは蟇股。後方(写真右)の蟇股は、菊と桐の紋が彫られています。

妻虹梁は眉欠き部分だけが彫られた無地のもので、妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚が下がっています。

 

背面。

こちらも柱間は横板壁で、中備えに蟇股があります。

組物は連三斗と出三斗が使われています。

大棟には鰹木と千木。鰹木は5本置かれ、千木は外削ぎの置き千木です。

 

本殿の周囲には透塀が巡らされています。

屋根は檜皮葺、柱は角柱、柱間は連子窓。

こちらは拝殿と同年代の造営で、県指定有形文化財です。

 

境内社

本殿の左右には境内社があります。

こちらは本殿左側(西)にある摂社・三宮浅間神社。祭神は浅間第三御子神。

切妻(妻入)、正面庇付、銅板葺。

 

本殿西側の出入口の門。

切妻、銅板葺。左右は透塀に接続。

 

本殿右側(東)には摂社・七之宮浅間神社。祭神は浅間第七御子神。

切妻(妻入)、正面庇付、銅板葺。

三宮浅間神社の社殿と同様の造りです。

 

写真左端の石碑は「富士山頂境内地行政訴訟勝訴之碑」。戦後からつづく富士山頂の所有権をめぐる裁判にまつわる石碑です。

なお、富士山頂の土地は2004年に当社のものとされましたが、登記はされていません。そして、山頂付近の静岡・山梨県境は未確定のため、富士山頂は現状どちらの県のものでもないようです。

 

本殿東側の出入口にも門があります。

切妻、銅板葺。左右は透塀に接続。

 

東側の門を経て境内の外へ向かうと、県道に面した場所に湧玉池(わくたまいけ)があります。

国指定特別天然記念物。

水源は富士山の地下水で、毎秒3トン以上の勢いで水が湧き出ているとのこと。

 

湧玉池の中の島には、末社の厳島神社があります。祭神はイチキシマヒメ。

社殿は、一間社流造、銅板葺。

 

池の西側には末社・稲荷神社。祭神はウカノミタマなど。

一間社流造、銅板葺。

 

池の西側を進み、境内北東へ行くと、天神社があります。祭神は菅原道真。

一間社流造、銅板葺。

 

以上、富士山本宮浅間大社でした。

(訪問日2024/02/10)

*1:文化遺産オンライン(2024/02/07閲覧)には“桁行五間、梁間四間、二重、浅間造、檜皮葺”とある

*2:附:棟札1枚