甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【富士宮市】富士山本宮浅間大社

今回は静岡県富士宮市の富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐう せんげんたいしゃ)について。

 

富士山本宮浅間大社(以下、浅間大社)は富士宮市の中心市街に鎮座しています。

駿河国の一宮であり、全国に1000件以上ある浅間神社の総本社でもあり、富士信仰の聖地の1つ。富士山頂に鎮座する奥宮はユネスコの世界遺産の一部として登録されています。

そんな格式高い浅間大社ですが、市街に鎮座する本殿は神社建築として異色の様式である浅間造(せんげんづくり)で、建築の観点でも非常におもしろい内容となっています。

 

現地情報

所在地 〒418-0067静岡県富士宮市宮町1-1(地図)
アクセス 富士宮駅または西富士宮から徒歩10分
新富士ICから車で15分
駐車場 第一駐車場は75台(30分無料、以降は1時間200円)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 富士山本宮浅間大社:トップ
所要時間 30分程度

 

境内

参道

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浅間大社の境内は広大で、市街の各所に鳥居が立っています。

こちらは境内の正面側にある“第二大鳥居”。扁額は「富士山本宮」。境内は南向き。

写真右は富士山なのですが、晴天にもかかわらず雲が低く立ち込めていて、よく見えず。

 

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参道を進むと石鳥居と楼門が見えてきます。

 

楼門と手水舎

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楼門は檜皮葺の入母屋(平入)。正面3間・側面2間で、柱はいずれも円柱。

楼門の両脇には、拝殿・本殿を囲う回廊が建っています。

 

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楼門の1階部分。

円柱の上では三手先(みてさき)の組物が縁側を支えています。組物のあいだには間斗束(けんとづか)。ほか、彫刻の類はなく、全体的にシンプル。

門の内部の扉は、上の写真では開いていて見づらいですが桟唐戸(さんからど)でした。

 

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2階部分を見上げた図。

縁側は壁面と直交に床板を張った切目縁(きれめえん)。欄干は跳高欄(はねこうらん)。

2階の組物も三手先ですが、1階のものとは異なり尾垂木(おだるき)を突き出したタイプのものです。

屋根裏の垂木は二重。

 

楼門の左前には銅板葺の手水舎があります。 

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手水舎の束、虹梁、蟇股。

最上部で棟を受ける束はハート形(猪目という)の穴が開いているのが特徴的。その両脇には波とスイセン(?)が彫られた笈形(おいがた)が添えられています。

その下にある蟇股も、くり抜かれた上で極彩色の塗装がされており、手水舎とは思えないほどの豪華さ。

 

拝殿

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楼門をくぐった先には拝殿があります。

拝殿は檜皮葺の入母屋(妻入)。左右に伸びる平入の建物も拝殿の一部のようで、入母屋(妻入)と横長な切妻(平入)が一体化した奇妙な構成となっています。

 

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拝殿を右前方から見た図。

拝殿の壁面は跳ね上げ式の蔀(しとみ)。正面中央だけは両開きの桟唐戸になっています。

 

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拝殿の向拝の軒下。

垂木は二重ですが向拝の部分は三重になっています。

写真左の柱は几帳面取りになっており、その上方では唐獅子の彫刻と青白に塗り分けられた組物、そして波の意匠の手挟(たばさみ)が配置されています。

母屋の貫の上には、青白をベースに塗装された蟇股。扁額の字は「淺間大社」。

 

本殿

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拝殿の脇にまわると、いよいよ異色の本殿の全容が明らかになります。

本殿はご覧のように高々とそびえる2階建てになっており、1階の寄棟屋根の上に通常の神社本殿が載っています。

このような2階建ての楼門風の社殿は「浅間造」(せんげんづくり)といい、国内に4件しかない(静岡県に2件、東京都と神奈川県に各1件)とされ、きわめて特異でめずらしい建築様式です。

 

本殿は1604年(慶長9年)に徳川家康によって造営されたもので、浅間造として最古。重要文化財に指定されています。

浅間なので主祭神はコノハナノサクヤ。ほか、ニニギとオオヤマツミも合祀されているとのこと。

 

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本殿の1階部分を右側から見た図。手前の屋根は塀です。

1階部分は檜皮葺の寄棟で、正面5間・側面4間。後述しますが背面は柱間が5間だったので、正面も5間と思われます。

当然のことながら柱はいずれも円柱で、その上には青白に塗り分けられた平三斗(ひらみつど)というタイプの組物が桁を受けています。組物のあいだには蟇股が4つ並んでいます。

 

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本殿2階を左側から見た図。

2階は檜皮葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。正面3間・側面2間で、向拝3間。正面には扉が3つ設けられていました。

本殿全体で見ると浅間造という特殊な様式ですが、2階部分だけを見れば三間社流造というありきたりな様式です。彫刻の類はほぼなく、前述した1階部分と同様の組物・蟇股が見られるだけであり、細部の意匠は安土桃山あたりの時代相応な内容・作風だと思います。

由緒正しく歴史ある神社であり、こんな素晴らしい本殿があるのに国宝でなく重要文化財にとどまっている理由は、浅間造という様式が普遍的でなく他の作例があまりにも少ない点と、細部の意匠が良くも悪くも時代相応で平凡である点、この2点が原因でしょう。

 

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背面。2階の柱間は3間、1階の柱間は5間でした。

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屋根の上には鰹木が5本と、置き千木(外削ぎ)が載っています。

奇数本の鰹木と外削ぎの千木は男神の神社に使われる...と言われることもありますが、浅間神社の主祭神コノハナノサクヤは女神です。千木・鰹木と男神・女神の関係については、そういった傾向があるというだけで俗説の域を出ません。

 

主要な社殿の解説は以上。

繰り返しになりますが本殿はきわめて珍しい「浅間造」という特異な様式であり、年代は江戸初期で歴史もあります。

また、今回は割愛となりましたが広大な境内には湧玉池や多数の境内社などなど、非常に充実した内容になっており、建築好きでなくても楽しめる神社です。浅間神社の総本社であり駿河国一宮でもあるため、富士宮市に行くのなら必見、というよりあえて見逃す理由が見当たらない鉄板の名所でしょう。

 

以上、富士山本宮浅間大社でした。

(訪問日2019/11/29)