甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【近江八幡市】浄厳院 後編 本堂

今回も滋賀県近江八幡市の浄厳院について。

 

前編では楼門などについて述べました。

当記事では本堂などの伽藍について述べます。

 

本堂(阿弥陀堂)

楼門の先には大型の本堂が鎮座しています。別名は阿弥陀堂。

本尊の阿弥陀如来坐像は平安末期の丈六仏で、内陣の須弥壇の上に安置されています。信長の命で近江国内から移されたものと伝わりますが、どこから持ってきたものかは諸説あり判然としません。

 

本堂は、桁行7間・梁間6間、入母屋、向拝3間、背面下屋付属、本瓦葺。

多賀村(現在の近江八幡市多賀町)の興隆寺にあった弥勒堂を移築したもの。室町後期の造営と考えられます。

楼門とともに「浄厳院」2棟として国指定重要文化財*1

 

室内は畳敷きで、前方3間通りが外陣となっています。内部は化粧屋根裏となっており、2つの切妻屋根を前後につなげた双堂のような構造をしていました。

 

正面の向拝は3間。

組物は出三斗と連三斗。

 

向かって右端の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱です。

隅の柱の組物は連三斗。実肘木を使わず、軒桁を直接受けています。

側面には象鼻が付き、連三斗を持ち送りしています。

 

向拝中央の柱間の中備え。

中備えは3間いずれも蟇股です。こちらの蟇股は唐獅子が彫られています。

 

向拝を内側(母屋側)から見た図。

向拝柱の上には手挟があり、軒裏を受けています。手挟は菊(あるいは牡丹?)と渦の意匠です。

 

向拝の下にある階段は、蹴込板と蹴上板を組み合わせたもの。昇高欄は親柱に擬宝珠が付いています。

賽銭箱には織田木瓜の紋が描かれています。

 

母屋は正面7間。

柱間は、中央の5間が桟唐戸、左右両端の各1間には窓(おそらく連子窓)が使われています。

 

右側面(東面)。

母屋の側面は6間で、背面の軒下に下屋がついているため、つごう7間に見えます。

柱間の建具は、桟唐戸や舞良戸が使われています。桟唐戸は禅宗様、舞良戸は和様の意匠です。

 

左側面(西面)。

反対の右側面とほぼ同じ構成ですが、こちらは火灯窓の設けられた柱間があります。

 

左手前(南西)の隅の柱。

母屋柱はいずれも円柱で、上端は絞られていません。頭貫木鼻もありません。ここは和様の造りです。

柱上の組物は出組。桁下には軒支輪。

 

正面向かって左端の柱間。

軸部は貫と長押で固められています。

頭貫の上の中備えは間斗束。ほかの柱間も、中備えは間斗束でした。

 

入母屋破風。

拝みと桁隠しには、鰭のついた三花懸魚が下がっています。

妻飾りは二重虹梁。板蟇股や大瓶束が入っています。

 

背面は、軒下に下屋が設けられています。

下屋の柱は角柱。縁側の高さくらいの腰壁が張られ、その上は白壁や連子窓になっています。

 

勅使門

本堂向かって左(西)には勅使門が東面しています。

四脚門、切妻、本瓦葺。

 

門扉は桟唐戸。上部の羽目には、透かし彫りの格狭間が入っています。

柱の前後方向は、貫と長押でつながれています。

 

正面の軒下。

柱の左右方向は虹梁でつながれ、その上に台輪が通っています。

台輪の上の中備えには、組物が置かれています。

 

向かって右手前(北東)の控柱。

控え柱は几帳面取り角柱で、上端が絞られています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出組。

 

妻虹梁の上に大瓶束が立ち、斗と肘木を介して棟木を受けています。

破風板の拝みには鰭付きの猪目懸魚。鰭は若葉の意匠。桁隠しの懸魚はありません。

 

不動堂と釈迦堂

本堂向かって右側、境内東側の区画にも多数の堂宇が並んでいます。

こちらは本堂南東側にある不動堂。西向きです。

宝形、桟瓦葺。

1702年(元禄十六年)造営と推定されます*2。市指定有形文化財。

 

正面は1間。

扉は桟唐戸で、左右に火灯窓が設けられています。

 

扉の上には大瓶束が立てられ、頭貫と台輪を受けています。

台輪の上の中備えには、大斗と花肘木を組んだものが置かれています。

 

柱は上端が絞られた円柱で、頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は、先述の中備えと同様に大斗と花肘木が使われています。

側面は2間で、柱間に建具などはありません。中備えもありません。

軒裏は一重の繁垂木。

 

不動堂の左隣には釈迦堂が西面しています。

入母屋、桟瓦葺。

 

正面は3間。

中央は桟唐戸、左右の柱間には火灯窓が設けられています。

 

桟唐戸の上には虹梁がわたされ、中備えに蟇股を置いて頭貫を受けています。

頭貫の上に中備えはありません。

 

柱は面取り角柱。頭貫に木鼻があります。

柱上は大斗と花肘木を組んだものが使われています。

 

釈迦堂の左隣には茶所。

切妻、桟瓦葺。

 

鐘楼

本堂東側、茶所向かって左手には鐘楼があります。

入母屋、本瓦葺。袴腰付。

1742年(寛保二年)造営と推定されます*3。市指定有形文化財。

案内板*4によると、八幡の宮大工・高木家によって造られたようです。

 

下層の袴腰。下見板が使われています。

袴腰の上には長押が打たれ、釘隠しがついています。

長押の上からは腰組が出て、上層の縁側を受けています。

 

上層。

柱は上端が絞られた円柱で、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

組物は出組。台輪の上の中備えも、詰組として平三斗があります。

縁側の欄干は、親柱に禅宗様の逆蓮がついています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は菊の意匠。

見づらいですが、妻飾りは虹梁と大瓶束が使われています。

 

観音堂と裏門

本堂の北東、境内北側の区画には観音堂が南面しています。

入母屋、本瓦葺。

 

正面は3間で、中央は桟唐戸、左右は連子窓です。

 

中央の柱間。扁額は判読できず。

扉の上には長押が打たれ、長押についた藁座で扉の軸を受けています。

 

柱は面取り角柱。頭貫には禅宗様木鼻。

柱上は大斗と花肘木を組んだものが使われています。

 

右側面(東面)。

側面は3間ですが、後方の1間は狭くなっています。

縁側は背面以外の3面にまわされ、背面側には脇障子を立てています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。妻飾りは虹梁大瓶束。

 

境内の北端には裏門が北面しています。

上の写真は南面で、背面側から見た図です。

 

正面(北面)。

高麗門、切妻、本瓦葺。

 

正面の軒下。

柱は角柱で、左右の柱間に冠木がわたされています。

冠木の上からは、手前に腕木が出て、桁を介して軒裏を受けています。

 

腕木の先端には繰型が彫られています。

腕木の下は、柱から出た斗栱が添えられています。

妻飾りは蟇股が使われています。

 

以上、浄厳院でした。

(訪問日2024/02/17)

*1:附:棟札1枚

*2:隅棟鬼瓦の銘より

*3:隅棟鬼瓦の銘より

*4:安土町(現在の近江八幡市)教育委員会による設置