甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

寺社建築ベストセレクション【2025年総集編】

今回は一年の最終日ということで、2025年の総集編となります。

 

ことし当ブログで紹介した約120件の寺社建築のうち、感動した、あるいは秀逸だと思ったものをノミネートし、見どころや文化的価値について短評を述べていきます。

なお、ノミネートの選考基準は私の感性による独断です。個人の偏見が多分に含まれている点と、選考対象が一部地域にかたよっている点をご了承ください。

 

福島県

【喜多方市】新宮熊野神社長床

桁行9間・梁間4間、寄棟造、茅葺。

平安末期から鎌倉初期の造営(推定)。重要文化財。

 

拝殿に相当する大規模な社殿。

古風で力強い木割と、すべての柱間が吹き放ちとなった開放的な構造が特徴的。神社建築で寄棟造が採用されている点もめずらしいです。細部意匠は和様で、住宅風の素朴な趣。

 

神奈川県

【横浜市】三渓園

横浜市街に広がる広大な庭園。

住宅や茶室だけでなく寺院建築も多数あり、園内の小山には三重塔がランドマークとして屹立しています。また、三重塔付近から見下ろす海や工業地帯の景色も印象に残りました。

 

山梨県

【笛吹市】浅間神社摂社山宮神社本殿

梁間正面1間・背面2間・桁行2間、一間社隅木入り春日造、向拝1間、檜皮葺。

1558年(永禄元年)造営。重要文化財。

 

本社から離れた山中に鎮座する境外摂社。

様式は、関東圏ではややめずらしい春日造(隅木入り)。武田信玄の寄進で造られたもので、蟇股に兜が彫られている点が独特。社殿は細い農道や未舗装の山道の先にあり、私的にいつか見に行きたいと思っていた建築だったため、感動もひとしおでした。

 

長野県

【小諸市】釈尊寺観音堂宮殿(布引観音)

入母屋造、板葺。

1258年(正嘉二年)造営。重要文化財。

 

山奥の岩屋の内部に安置された厨子。

長野県最古とされる建築のひとつ。鎌倉時代の建築ですが細部意匠は和様で構成され、地方色のないととのった外観。

道中のけわしい参道や奇岩、懸造の観音堂など、独特なロケーションもあわせて印象に残りました。

 

【大町市】若一王子神社本殿

一間社隅木入り春日造、檜皮葺。

1556年(弘治二年)造営、1654年改修。重要文化財。

 

地方色ゆたかな春日造本殿。

仁科神明宮本殿(国宝)を造営した宮大工によって改修されており、3本の向拝軒桁や大棟の鬼面など、当地特有の意匠が見られます。ほかにも欄干の組物など、この本殿に特有の意匠もあり、野趣にあふれた作風。

 

京都府

【宇治市】宇治上神社本殿

覆屋は、桁行5間・梁間3間、五間社流造、檜皮葺。

内殿はいずれも、一間社流造。

平安後期の造営(推定)。国宝。

 

最古の神社本殿。内部には流造の内殿が3つ並びます。

神社建築の起源や発展を考えるうえで、きわめて重要であるのは疑う余地がありません。また、左右の内殿は蟇股の造形がことなり、蟇股の発展を考えるうえでも重要な物件となっています。

 

兵庫県

【神戸市】太山寺本堂

桁行7間・梁間6間、入母屋造、銅板葺。

1300年頃の再建(推定)。国宝。

 

鎌倉末期の折衷様建築。

棟が低く落ち着いたシルエットと、骨太な軸組が特徴的。正面側面と背面とで、組物の造りがわずかにちがう点も独特。折衷様建築はみな大なり小なりの個性を持っていますが、この本堂はきわだって個性的な物件です。

 

【丹波市】柏原八幡宮

町中の丘陵上に鎮座する、神仏習合の神社。

境内の中心部には、鳥居、拝殿本殿、三重塔がほぼ一直線にならび、唯一無二の景観。

拝殿本殿は桃山時代、三重塔は江戸後期のもの。神仏習合の時代の景色を、これほど良い状態で残している寺社は希少です。

 

奈良県

【斑鳩町】法起寺三重塔

三間三重塔婆、本瓦葺。

684~706年(天武十三年~慶雲三年)造営。国宝。

 

斑鳩三塔のひとつで、日本最古の三重塔。

細部意匠は法隆寺のものを踏襲しており、法隆寺五重塔の三重塔バージョンといえる造り。

法隆寺からやや離れた位置にあり、境内周辺ののどかな景色とあわせて印象に残りました。

 

【斑鳩町】法隆寺西院伽藍

日本最古の建築であり、世界最古の木造建築。

その伽藍配置は法隆寺式と呼ばれ、五重塔と金堂が左右にならぶ点が最大の特徴。各伽藍は単体で見てもきわめて秀逸で、とくに五重塔と金堂は奈良時代以降には見られない独自の技法が各所に使われ、後世の建築とは一線を画した作風。

 

以上、10件が2025年のベストセレクションとなります。