甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】立正寺

今回は山梨県甲州市の立正寺(りっしょうじ)について。

 

立正寺は市の南西部の集落に鎮座する日蓮宗の寺院です。山号は休息山。

創建は寺伝によると698年(文武天皇二年)で、行基によって開かれ、当初は子安山地蔵寺と号したとのこと。平安時代には真言宗に改宗し、金剛山胎蔵寺と号したようです。1274年(文永十一年)には当寺の住職が日蓮の弟子となったことで日蓮宗に改宗し、現在の山号・寺号となりました。

現在の境内の大部分は、江戸中期以降のもの。本堂は県内の日蓮宗寺院の遺構として規模が大きいことから、市の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒409-1304山梨県甲州市勝沼町休息1713(地図)
アクセス 東山梨駅から徒歩30分
勝沼ICから車で10分
駐車場 30台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト トップぺージ of 休息山立正寺
所要時間 20分程度

 

境内

山門

立正寺の境内は南向き。入口は集落の生活道路に面しています。

入口の山門は、三間一戸、楼門、入母屋、桟瓦葺。

案内板(勝沼町教育委員会)によると、18世紀後半の再建とのこと。

 

下層。

正面は3間で、うち1間が通路になっています(三間一戸)。

 

隅の柱。

柱は円柱が使われ、頭貫には拳鼻。

柱上の組物は二手先で、上層の縁側を受けています。

 

左側面(西面)。

側面は2間。柱間は横板壁。

 

内部の通路部分は棹縁天井。

主柱のあいだに梁がわたされ、大きな蟇股が置かれています。

 

内部の主柱には挿肘木が使われ、虹梁などの梁を受けています。

 

上層も正面3間。

扁額は「兜厳魁刹」。寺伝によると徳川光圀の揮毫らしいです。

欄干がかさなっていて見づらいですが、中央の柱間は板戸があります。

 

頭貫には拳鼻が付き、柱上は出組。

中備えは上層下層ともに間斗束が使われています。

縁側は切目縁で、欄干は擬宝珠付き。

 

上層の左側面。

こちらも中備えは間斗束。柱間は横板壁。

 

入母屋破風の拝みには蕪懸魚。奥の妻飾りはよく見えず。

大棟は箱棟になっていて、箱棟の上にも小さな切妻屋根が乗っています。

 

背面の全体図。

下層にくらべて上層は低く造られています。

 

鐘楼など

山門をくぐると、参道の右手に鐘楼があります。

入母屋、桟瓦葺。

 

柱は糸面取り角柱。

組物は柱上ではなく、柱の側面から出る挿肘木で、大仏様の組物です。

飛貫や頭貫に木鼻はありません。

頭貫の上の中備えは、詰組(平三斗)と蟇股。

 

破風板の拝みには蕪懸魚。三階菱の紋がついています。

妻飾りは木連格子。

 

本堂の手前まで進むと、右手に手水舎(水屋)があります。

切妻、桟瓦葺。

 

参道左手の休憩所の近くには、七面堂があります。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

内部には厨子が納められています。向唐破風、こけら葺。

扉は桟唐戸で、その両脇には昇り竜と降り竜。

組物は三手先。中備えは蟇股。

破風板の兎毛通には、松に鶴の彫刻が下がっています。

 

本堂(祖師堂)

境内の奥には本堂(公式サイトでは「祖師堂」となっている)が鎮座しています。

桁行5間・梁間6間、入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

1733年以降の再建*1。市指定有形文化財。

日蓮、子安地蔵、鬼子母神が祀られているとのこと。

 

向拝は1間。

母屋の正面は5間で、柱間は舞良戸と桟唐戸。

 

向拝の虹梁中備えは蟇股。竜の彫刻が入っています。

 

向拝柱は面取り角柱。側面には木鼻。

組物は、大斗に皿が付いた連三斗。木鼻の上に皿斗が乗って、持ち送りしています。

組物と軒桁のあいだには通肘木があり、中備えの蟇股と通肘木を共有しています。

 

向拝柱の上の手挟は、菊と思しき花の籠彫り。

海老虹梁はありません。

 

母屋の正面中央の柱間。

組物は尾垂木二手先。中備えは間斗束。

 

左手前(南西)の隅の柱。

軸部は貫と長押で固定。頭貫木鼻はありません。

持ち出された桁の下には軒支輪。

 

側面は6間。柱間は、舞良戸や火灯窓が使われています。

軒裏は二軒繁垂木。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

左側面の入母屋破風。

妻飾りは二重虹梁。虹梁の上には、蟇股や大瓶束があります。中央の蟇股には鬼面の意匠がありますが、ここに鬼面を入れる例は初めて見ました。

破風板の拝みと桁隠しには、鰭付きの三花懸魚。

 

背面は、正面と同様に5間。

柱間は桟唐戸と板壁が使われています。

 

堂内。

側面6間のうち、前方の2間通りは外陣となっていて、自由に出入りできます。

外陣には、前後方向に大きな虹梁がわたされ、中央の柱を飛ばして空間を広く取っています。

 

外陣向かって左端。

母屋の周囲1間通りは庇で、天井ではなく化粧屋根裏が設けられています。

対して、母屋の中央部の正面3間・側面4間の空間には鏡天井が張られています。

 

外陣と内陣の境界は、格子戸で隔てられています。

格子戸の上の欄間彫刻は、鳳凰などの花鳥。欄間の上には蟇股があります。

 

以上、立正寺でした。

(訪問日2023/04/22)

*1:境内案内板(勝沼町教育委員会)より