甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【河内長野市】長野神社

今回は大阪府河内長野市の長野神社(ながの-)について。

 

長野神社は河内長野市の中心市街地に鎮座しています。

創建は不明。長野・古野の両地域の氏神を祀った神社で、現存する本殿は室町後期に建てられたもの。江戸中期には木屋堂宮や牛頭天王社などと呼ばれ、長野戎という呼び名もあるようですが、明治期に現在の社号に改称されています。

現在の境内は規模こそ小さいですが、室町後期に造られた檜皮葺の本殿が国重文に指定されています。また、タイマツタテと呼ばれる秋祭りの神事でも著名なようです。

 

現地情報

所在地 〒586-0014大阪府河内長野市長野町8-19(地図)
アクセス 河内長野駅から徒歩5分
美原南ICまたは羽曳野ICから車で30分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

本殿

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長野神社の境内は南向き。河内長野駅のすぐ南にあり、境内の西側と東側に出入口があります。

鳥居は石造の明神鳥居。

 

長野県長野市にも同名の神社があっても良さそうですが、私の知る範囲でそのような神社はなく、検索してもそれらしいものは見つかりませんでした。

 

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長野神社には拝殿がなく、鳥居の先に本殿が鎮座しています。

 

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本殿は桁行1間・梁間2間、一間社流造、正面千鳥破風付、向拝1間・軒唐破風付、檜皮葺。

室町末期の造営で、1543年(天文十二年)頃のものと考えられています。国指定重要文化財

祭神はスサノオ(牛頭天王)。

 

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向拝は1間。

室町期の本殿にしてはめずらしく、軒唐破風が設けられています。

 

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唐破風の兎毛通には猪目懸魚が下がっています。

虹梁に掲げられた扁額は社号「長野神社」。

扁額の裏の小壁には蟇股があります。はらわたの彫刻の題材はわからず。

 

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向拝柱は角面取り。面取りの幅がやや大きめ。

柱上の組物は出三斗のようですが、写真左の虹梁が組物に食い込んできていて、イレギュラーな連三斗になっています。

木鼻は外側と内側の両方に設けられ、外側(写真右)は組物を、内側(左)は虹梁を持ち送りしています。

非常に個性的で独特な、野趣に富んだ造りだと思います。

 

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向拝と母屋をつなぐ海老虹梁は、ゆるやかにカーブして軒裏すれすれを通ります。

海老虹梁が高いところを通っているからか、手挟はありません。

 

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正面には角材の階段が5段。昇高欄の親柱は擬宝珠付き。

階段の下には浜床が設けられ、浜床にも組高欄があります。組高欄には唐草風の絵様が彫られていて、凝った造り。

 

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母屋正面には吹寄せ格子の引き戸がついています。

戸の上の張りの中備えは蟇股。蟇股には牡丹らしき花の彫刻。

戸の奥には板戸が設けられています。

 

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母屋側面は2間。後方の1間は神座があるからか、縁側が高くなっています。

縁側はくれ縁が3面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。背面側は脇障子が立てられています。

 

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妻面も非常ににぎやかでおもしろい造りになっています。

母屋柱は円柱、頭貫には象鼻。

隅の柱の組物は連三斗、中央の柱は大斗と花肘木。

妻飾りは二重虹梁で、大瓶束が立てられています。大瓶束には持ち送りを兼ねた木鼻がついていて、その上からさらに肘木を長く伸ばして軒桁を受けています。

 

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破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

細部意匠は個性的でしたが、屋根そのものは端正な造りで、箕甲の曲面が美しいです。

 

五社

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本殿向かって右側には五社。

桁行5間・梁間1間、五間社流造、正面千鳥破風付、向拝3間、正面中央軒唐破風付、銅板葺。

造営年不明。私の予想だと江戸後期のものと思われます。

右から熊野・多賀・八幡・春日・高良の5社が祀られているとのこと。

 

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前述の本殿は細部意匠が独特だったのに対し、こちらの五社は構造がかなり特殊です。

「二間社流造・向拝1間」を2棟並べ、あいだに1間おいて連結させ、中央に千鳥破風と軒唐破風をつけた形式。五間社というだけでもめずらしいのですが、正面の向拝が左から「2・1・2」の比になっているのが非常に個性的。

なお、このように向拝が左右にわかれた本殿は同市の金剛寺烏帽子形八幡神社でも見かけたので、当地ではそこまでめずらしくないのかもしれません。

 

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左右の向拝。

虹梁には唐草が彫られ、中備えは竜の彫刻。

 

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中央部分は向拝がないかわりに軒唐破風が設けられています。

向拝柱は几帳面取りで、柱上には出三斗。

向拝柱の外側には唐獅子の木鼻が設けられていて、上の写真では2つの向拝の木鼻が向かい合っています。

唐破風の軒下には鈴が吊るされ、小壁には雲の意匠の蟇股が配されています。

 

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軒唐破風と千鳥破風。

唐破風の兎毛通は鳳凰の彫刻。千鳥破風の拝みには懸魚。

 

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母屋。

神座の扉は奥まった場所に設けられています。

母屋柱は円柱で、頭貫の上には台輪がまわされています。中備えの蟇股は猿などの鳥獣が彫られていました。

 

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向かって左側面(西面)。

頭貫木鼻は象鼻、柱上の組物は出三斗、中備えは蟇股。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は波の意匠で、良い造形だと思います。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

その他の境内社

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本殿と五社の東側には天神社。

一間社流造、銅板葺。祭神は菅原道真。

こちらは至って標準的な社殿。大棟には外削ぎの千木と、3本の鰹木。

 

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向拝柱には唐獅子と獏の木鼻。

虹梁中備えの蟇股は雲状の意匠。

 

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本殿西側には恵比寿社。

こちらも標準的な一間社流造、銅板葺。

祭神は事代主。

 

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最後に境内南側にあるイチョウ。

 

以上、長野神社でした。

(訪問日2021/11/20)