甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【天理市】石上神宮

今回は奈良県天理市の石上神宮(いそのかみ じんぐう)について。

 

石上神宮は市東部の山際に鎮座しています。

創建は不明。日本最古といえる神社のひとつで、記紀に当社の記述があります。平安時代の『延喜式』には「石上坐布留御魂神社」と記載され、名神大社に列しています。鎌倉以降は当地の氏神として信仰され、興福寺と抗争したようです。安土桃山時代には織田信長に社領を没収され、明治時代には神宮寺の内山永久寺が廃仏毀釈で廃寺になっています。当初は本殿のない神社でしたが、大正時代に現在の本殿が造営されています。

境内には鎌倉時代の楼門と拝殿が現存し、前者は国重文、後者は国宝。また、拝観はできませんが社宝として古墳時代の七支刀を所蔵していて、こちらも国宝です。

 

現地情報

所在地 〒632-0014奈良県天理市布留町384(地図)
アクセス 天理駅から徒歩30分
天理東ICから車で5分
駐車場 200台(無料)
営業時間 09:00-16:30
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 石上神宮
所要時間 30分程度

 

境内

参道

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石上神宮の境内は西向き。後述の楼門や拝殿は南向きです。

境内は市郊外の集落の中にあり、深い社叢に覆われています。

境内入口には明神鳥居。扁額は「布都御魂大神」。

 

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参道左手には社務所。

中央には向唐破風の玄関がついていて、この部分はどことなく寺院風の趣です。

 

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参道右手には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

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柱は面取りされた角柱。上端が絞られています。

虹梁の木鼻は拳鼻。

柱上は舟肘木。

 

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虹梁中備えは蟇股。妻飾りも蟇股が使われています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

軒裏は一重の吹寄せ垂木。

 

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手水舎の周辺には神使とされる鶏がいました。

上の写真は、わんぱく盛りの子供に追い回された鶏が、神域に逃げ込んだ図。縄で囲われた場所に人間が入ってこないことを、知っているようです。

 

楼門

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参道を進むと、南向きの楼門と、回廊があります。

 

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楼門は、一間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。

1318年(文保二年)造営国指定重要文化財

 

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楼門下層は正面1間・側面2間。

 

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正面の柱間には、唐草の彫られていない虹梁がわたされています。組物のあいだの中備えは、中央が蟇股、左右が間斗束。

 

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柱は円柱。上端は絞られていません。

虹梁の木鼻は大仏様木鼻が使われています。神社の社殿で大仏様木鼻が使われるのはめずらしいです。

柱上の組物は出組。持ち出した桁で、上層の縁側を受けています。

 

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楼門上層は正面3間・側面2間。扁額は「萬古猶新」。山縣有朋の揮毫とのこと。

柱間の建具は、中央が板戸、左右は連子窓。

軸部の固定には長押が多用され、頭貫木鼻はありません。

縁側は切目縁で、跳高欄が立てられています。

 

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組物は三手先。隅の組物からは尾垂木が出ています。

持ち出された桁の下には軒支輪。

 

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軒裏は二軒繁垂木。

垂木は先端がわずかに細くなっています。

 

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背面。

下層の門扉は板戸が使われています。

 

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楼門の左右の回廊。屋根は檜皮葺。

楼門は無彩色の白木だったのに対し、こちらの回廊は紅白に彩色されています。

柱は円柱。軸部は長押で固定され、木鼻は使われていません。

柱間は緑色の連子窓。

 

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内部。

組物のあいだに虹梁がわたされ、その中央に置かれた板蟇股が棟木を受けています。

内部通路には絵馬やおみくじが置かれていました。

 

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柱上は鯖尾のついた平三斗。中備えは間斗束。

 

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軒裏は二軒まばら垂木。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

拝殿と本殿

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境内の中心部には大きな拝殿が鎮座しています。

桁行7間・梁間4間、入母屋、向拝1間、檜皮葺。

鎌倉時代初期の造営国宝

 

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向拝柱は面取りされた角柱。鎌倉時代にしては面取りの幅が小さいように感じます。

柱上の組物は連三斗。

虹梁木鼻は繰型が付き、木口が黄色く塗り分けられています。木鼻の上に巻斗が置かれ、組物を持ち送りしています。

 

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向拝の左側面(西面)。

組物の上では、手挟が軒裏を受けています。向拝と母屋をつなぐ梁はありません。

縋破風には桁隠しの懸魚が下がっています。

 

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母屋柱は角柱。こちらは大きく面取りされています。

柱間はガラス戸になっていますが、扉の軸受け(藁座)が残っています。ガラス戸を入れる前は、おそらく禅宗様の桟唐戸が立てつけられていたと思われます。

柱上の組物は、出三斗と鯖尾付きの平三斗。中備えは間斗束。

 

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頭貫木鼻は大仏様木鼻。

軸部の固定には長押が使われておらず、神社の社殿にしては禅宗様・大仏様の色が濃いです。

 

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破風板の拝みには猪目懸魚。

入母屋破風の内部の妻飾りは、豕扠首。

 

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拝殿の後方には本殿が鎮座しています。

三間社流造、向拝1間、檜皮葺。

1913年(大正二年)建立。

祭神は布都御魂(ふつのみたま)で、剣が御神体とのこと。

 

出雲建雄神社

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境内南側、楼門の向かいは、一段高い区画になっていて、摂社・末社がまとまって鎮座しています。

こちらは摂社・出雲建雄神社(いずもたけお-)拝殿。中央部が土間の通路になっており、割拝殿の形式です。

社殿は西向き。正面側は立入禁止で、上の写真は背面側(東面)になります。

 

摂社出雲建雄神社拝殿は、桁行5間・梁間1間、切妻、中央通路唐破風造、檜皮葺。

1300年(正安二年)造営。当社の神宮寺だった内山永久寺の鎮守社・住吉神社の拝殿を、1914年に移築したもの。国宝

 

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中央の通路部分の屋根は唐破風になっており、内部の天井もそれにあわせたカーブを描いています。

 

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通路部分には細い梁がわたされ、その上では透かし蟇股が唐破風の棟を受けています。

蟇股のはらわたには、植物の葉をアレンジしたような意匠が彫られています。

 

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柱は角柱。柱上は舟肘木。

軸部は長押で固定され、頭貫木鼻はありません。純粋な和様の建築です。

正面および背面の柱間は、引き戸が使われています。

 

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側面は1間。柱間は板戸が使われています。

妻飾りは透かし蟇股。こちらの蟇股には彫刻が入っていません。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

軒裏は一重まばら垂木。

 

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拝殿の背面側には、明神鳥居と本殿があります。

 

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出雲建雄神社本殿は一間社春日造、檜皮葺。

造営年不明。

祭神は出雲建雄。

 

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向拝柱は細く面取りされ、柱上は舟肘木。虹梁はありません。

軒裏は二軒の吹寄せ垂木。

向拝と母屋は、まっすぐな梁でつながれています。

母屋柱は円柱。こちらも舟肘木で、中備えはありません。

 

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正面には角材の階段が7段。欄干の親柱は擬宝珠付き。

階段の下の浜床にも、斜め方向に欄干が伸びています。

 

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母屋の正面は板戸。

縁側は前面のみ設けられ、脇障子も前面に立てられています。欄干は跳高欄。

 

その他の境内社

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出雲建雄神社本殿のとなりには、末社・猿田彦神社。

一間社春日造、檜皮葺。

出雲建雄神社本殿を簡略化してスケールダウンしたような造りです。

 

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出雲建雄神社の後方には天神社と七座社。

 

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天神社は一間社春日造、檜皮葺。

 

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七座社は七間社流造、見世棚造、向拝3間、檜皮葺。

 

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最後に天神社付近から楼門と拝殿を見下ろした図。

 

以上、石上神宮でした。

(訪問日2022/02/23)