今回は岐阜県神戸町の日吉神社(ひよし-)について。
日吉神社は町北部の住宅地に鎮座しています。
創建は社伝によると817年(弘仁八年)。最澄によって比叡山(延暦寺と日吉大社)から勧請されたのが始まりとのこと。当初は延暦寺の寺領として栄えたようです。室町後期にはたび重なる水害で荒廃しますが、江戸初期には徳川家光の命を受けた天海が当社を参拝し、以降は尾張徳川家の庇護を受けました。
現在の境内には桧皮葺の社殿が多く保存され、歴史ある古社にふさわしい風格が漂います。とくに三重塔は幾度もの災害を乗り越えて桧皮葺の美しい姿を保っており、室町後期の造営のため国重文に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒503-2305岐阜県安八郡神戸町大字神戸1(地図) |
アクセス | 広神戸駅から徒歩10分 大野神戸ICから車で10分 |
駐車場 | 50台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 金幣社 日吉神社 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
日吉神社の境内は南向き。
写真は社頭で、この数百メートル南に一の鳥居があります。
社頭には冠木門に屋根をつけた形式の門があり、扁額は「日𠮷新宮」。
右の社号標は「縣社日𠮷神社」。吉の字は「つちよし」が使われています。
門をくぐると参道左手に手水舎があります。
切妻、桟瓦葺。
柱は糸面取りの角柱。
頭貫と台輪に禅宗様の木鼻が設けられています。
手水舎と拝殿のあいだでは、大物忌神社と竃殿神社が向かい合っています。
両者とも一間社流造、檜皮葺。
三重塔
参道向かって右手には、三重塔が西向きに鎮座しています。
三間三重塔婆、檜皮葺。全高24.6メートル。
永正年間(1504-1521)の再建で、斎藤利綱による寄進。1585年に稲葉一鉄による修理を受け、江戸初期にも大修理を受けています。国指定重要文化財。
三重に縁側がなく、二重にのみ欄干がついているのが特徴。
縁側が未完成のままの三重塔は前山寺(長野県上田市)や五智国分寺(新潟県上越市)などの例がありますが、この塔は縁側の痕跡らしきものが見えないため当初からこの形態だったと思われます。
屋根とくらべて母屋が小さく見え、ほっそりしたシルエット。各重を単体で見るとアンバランスな感がなくもないですが、全体のシルエットは調和がとれていると思います。
初重正面(西面)。
柱は円柱で、中央には桟唐戸が使われています。桟唐戸の羽目板は、上には三つ巴の紋、下には格狭間が彫られています。
左側面(写真右)および背面(写真左)。
側面の中央は板戸、背面には扉がありません。
左右の柱間については横板壁が張られているだけで、窓などはありません。
縁側は切目縁。欄干なし。
頭貫木鼻は拳鼻。
柱上の組物は尾垂木三手先。持ち出された桁の下には軒支輪と小天井。
中備えは蓑束と巻斗。
二重正面。
中央の扉は板戸。縁側には跳高欄が設けられています。
三重正面。
三重には縁側がありません。このような三重塔は初めて見たので少し驚きました。
一重から三重を見上げた図。
軒裏はいずれも平行の二軒繁垂木。
拝殿
参道の先には拝殿。切妻、正面軒唐破風付、桟瓦葺。
大半の柱間が吹き放ちで、神楽殿のような構造になっています。
正面中央の拡大図。
兎毛通は桃と猿の彫刻。日吉大社では猿が神の使いとされるため、それにちなんだものと思われます。
唐破風の茨垂木を受ける大瓶束の左にも、小さい猿の彫刻が配されています。
小サイズながらも猿だとはっきり判り、愛嬌のある表情や毛並みまで造形され、良い彫刻だと思います。
柱は糸面取り角柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。
柱上の組物は出三斗。
妻壁は梁を3段に組んだ構成になっています。
写真中央、大虹梁の上には大きな蟇股。
破風の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
本殿(日吉大宮)
境内の最奥部には5棟もの本殿が並立しています。
いずれも檜皮葺の立派な本殿ですが、様式はそれぞれ微妙に異なります。
まずは中央に鎮座する日吉大宮から。
桁行3間・梁間2間、三間社切妻、向拝1間、檜皮葺。
様式は、岐阜県公式サイトの当該ページには“向拝1間付、屋根切妻造”とあります。流造のようにも見えますが、「切妻屋根に向拝が付いたもの」と解釈するのが正確です。
棟札より1630年(寛永七年)の造営と考えられていますが、後世に改造されたと思われる個所がいくつかあるとのこと(岐阜県公式サイトの当該ページより)。県重要文化財。
祭神は大国主。
向拝柱は角面取り。C面がやや大きめに取られています。
柱上は舟肘木を介して軒桁を受けています。
組物どころか水引虹梁もなく、きわめてシンプルな造り。ちなみに、日吉大社(滋賀県大津市)の本殿もこのような造りをしています。
母屋の正面には黒い蔀が設けられています。
母屋柱は円柱。柱上は、隅にのみ舟肘木が使われています。
軸部は長押で固定され、頭貫木鼻は使われていません。純和様の古風な意匠。
妻飾りには豕扠首が使われています。
破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。
壁面は横板壁。
縁側はくれ縁が3面にまわされています。跳高欄が設けられ、背面側は脇障子でふさがれています。
当初は背面にも縁側がまわされており、後世の改造で取り除かれたとのこと。背面には改造の痕跡が残っているらしいですが、不覚にも背面の確認を失念していました...
その他の本殿
日吉大宮の向かって左には、二宮(写真左奥)と宇佐宮(右前)。
二宮は一間社流造、檜皮葺。
各所の意匠は前述の日吉大宮とよく似ていて、同年代のものと思われます。こちらはれっきとした流造。
祭神はオオヤマツミ。
宇佐宮(うさのみや)は一間社入母屋。年代不明。祭神はタギツヒメ。
向拝の横幅が非常に広く取られているのが特徴的。というより、母屋が小さいです。また、向拝と母屋のあいだに格天井が張られているのも独特。
5棟並んだ本殿のなかで唯一の入母屋という点だけでも異色ですが、単体で見ても風変わりで野趣あふれる本殿だと思います。
日吉大宮の向かって右には、樹下宮(写真中央)と客人宮(左奥)。
樹下宮(じゅげのみや)は一間社流造、檜皮葺。年代不明。祭神は玉依姫。
向拝柱は几帳面取りで上端が絞られています。
組物は連三斗で、象鼻の上の巻斗で組物を持ち送りしています。
虹梁中備えの蟇股。
はらわたの彫刻はネズミに見えますが詳細不明。リスあるいはウサギかもしれません。
客人宮(まろうどのみや)は一間社流造、檜皮葺。年代不明。祭神は白山姫(ククリヒメ)。
向拝の木鼻や中備えに彫刻が使われています。
ほか、5棟の本殿の周辺にはいくつか境内社がありますが、すべてまわって写真を撮るだけの余裕がなかったので割愛。
以上、日吉神社でした。
(訪問日2021/06/26)