今回も滋賀県大津市の日吉大社について。
その2では摂社の宇佐宮と白山姫神社について述べました。
当記事では東本宮について述べます。
東本宮
東本宮楼門
東本宮の入口には楼門が鎮座しています。こちらも南向き。
三間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。
天正年間から永禄二年(1573~1596年)の再建。国指定重要文化財。
様式は西本宮楼門と同じですが、案内板いわく“どちらかといえば一階部分が高く、二階部分が低いので、すらりとした均整の取れた建物”とのこと。
下層。
西本宮楼門と同様に、楼門としては小さめ。紅白の配色で、和様を基調とした意匠、彫刻はワンポイントで使うだけという点も同様。
正面の柱間は、中央の通りの間が広く取られています。
正面中央の中備え。
蟇股が使われていて、彫刻の題材は蓮。
向かって左の柱間。
柱は円柱。頭貫の上の中備えは間斗束。頭貫木鼻はありません。
柱上の組物は三手先で、上層の縁の下の桁を受けています。
側面。
柱間は白い横板壁。
上層。
欄干の影になってしまっていますが、正面中央は板戸、左右の柱間は連子窓が設けられていました。
柱上の組物は尾垂木三手先。持ち出された桁の下には軒支輪と格子の小天井。
西本宮楼門は隅の組物の尾垂木の上に神猿の彫刻がありましたが、こちらは束が立てられているだけで、ちょっとさみしい感がなきにしもあらず。
軒裏は二軒繁垂木。
上層側面。
下層と同じく、壁面は白い横板壁。頭貫木鼻もありません。
縁側の欄干は跳高欄。
樹下神社拝殿・本殿
楼門の先には、東本宮拝殿ではなく摂社の樹下神社(じゅげ-)の拝殿があります。
桁行3間・梁間3間、入母屋(妻入)、檜皮葺。
1595年(文禄四年)再建。国指定重要文化財。
様式は入母屋(妻入)のため、上の写真は向かって左側面であり、写真右奥の東面が正面になります。
正面の写真は摂り忘れてしまったため割愛。
柱は角柱で、柱上には舟肘木。軒裏は二軒まばら垂木。
拝殿の西側には、樹下神社本殿が拝殿のほう(東)を向いて鎮座しています。
桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。
墨書銘より1595年再建。国指定重要文化財。
祭神は玉依姫。
側面2間の母屋の前に、1段低い前室を設けたタイプの流造。神社本殿としては大型の部類になります。
苗村神社西本殿をはじめ、滋賀県内でよく見られる様式。
向拝。
柱は角柱。角面取りされ、上端に飾り金具がついています。
柱上は舟肘木。こちらも金具がついています。
2つの向拝柱をつなぐ虹梁がないという点は、様式こそちがいますが西本宮本殿・東本宮本殿と共通しています。
向拝側面の縋破風と桁隠し。
こちらも金具がついて華やかな印象。
桁隠しは金色の猪目懸魚。
前方には1段低い前室が設けられています。前室の柱は角柱。
母屋柱は円柱で、柱間は横板壁が張られています。
縁側は脇障子が立てられていますが、背面にもまわされているようです。
破風。
破風板には派手な菊の紋があしらわれた金具がついています。
拝みと桁隠しには、猪目懸魚が下がっています。
屋根の破風ぎわの箕甲は、檜皮の柔軟性を活かし、柔らかく重厚な曲面に成形されています。
東本宮拝殿
樹下神社拝殿・本殿の北側には東本宮拝殿があります。写真左上に見切れているのは樹下神社本殿。
東本宮の拝殿・本殿へ進むには、樹下神社の拝殿・本殿のあいだを横切って進むことになります。
東本宮拝殿は桁行3間・梁間3間、入母屋(妻入)、檜皮葺。
墨書銘より1596年(文禄五年)再建。国指定重要文化財。
柱は角柱。すべての柱間が吹き放ちで、西本宮拝殿と非常によく似た造り。
東本宮本殿
拝殿の奥には本殿が鎮座しています。
桁行5間・梁間3間、日吉造、向拝1間、檜皮葺。
1595年(文禄四年)再建。国宝。
祭神はオオヤマツミ。
様式は西本宮本殿と同じ日吉造で、後述する細部が異なるのみ。
日吉造についてはその1の西本宮本殿の項で既出のため割愛。
正面向拝。
角柱の向拝柱を2本立てて、舟肘木を介して軒桁を受けています。
2つの向拝柱をつなぐ水引虹梁がない点は西本宮と同様。
柱の上端や舟肘木の木口は金具で装飾されています。
向拝の軒下には角材の階段が7段。
昇高欄は、浜床の上に擬宝珠付きの親柱が2組、つごう4本立てられています。
母屋柱は円柱。
柱上は、隅の柱にのみ舟肘木が使われています。
頭貫木鼻や中備えなどの装飾はありません。
向かって左の側面(西面)。
側面は3間で、前方の1間には扉が設けられています。この扉は、母屋の外陣(神座でない空間)に出入りするためのものでしょう。
屋根の妻。
破風板は黒地で、飾り金具がついています。拝みには猪目懸魚。大棟鬼板には菊の紋。
破風内部の妻飾りは、豕扠首。
東本殿の最大の特徴が背面。
縁側がまわっていますが、神座のある中央の3間は縁側が高くなっています。ここは西本宮と明確に異なる箇所。
日吉造に特有のM字型の軒先については、西本宮と同様です。
壁面は横板壁。左右の低くなった外陣の通りには、窓が設けられています。
欄干は跳高欄。縁束は円柱が使われています。
中央の高い縁側は、三方を欄干に囲われています。
縋破風と軒裏の納まり。
軒裏は二軒繁垂木。垂木の先端は、屋根の折れ曲がりに追従して繊細な曲線を描いています。
側面の垂木と背面の垂木の境界には、破風板のような板材が使われています。
境内社
東本宮本殿の左側(西)には新物忌神社(しんものいみ-)。
桁行1間・梁間2間、一間社流造、こけら葺。
造営年不明。安土桃山か江戸初期以降と見ていいでしょう。
檜皮葺の社殿がほとんどを占める中、この社殿はこけら葺となっています。
東本宮の左奥(北西)には大物忌神社(おおものいみ-)。
桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、檜皮葺。
年代不明。こちらも安土桃山以降と思われます。市指定文化財。
様式や各所の造りは前述の樹下神社本殿とほぼ同じ。
滋賀県内でしばしば見かける、母屋に前室のある流造。
以上、日吉大社でした。
(訪問日2021/08/10)