甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【京都市】賀茂別雷神社(上賀茂神社) その3 庁屋など

今回も京都府京都市の賀茂別雷神社について。

 

その1では拝殿などの社殿について

その2では楼門などの中心的な社殿について述べました。

当記事では庁屋などの境内東側の社殿について述べます。

 

奈良神社

その1で述べた外幣殿から、「ならの小川」なる川をわたって境内東側の区画へ進むと、摂社末社が点在しています。

こちらは摂社の奈良神社本殿。東向きで、賀茂別雷神社の表参道に背を向けて鎮座しています。

一間社流造、檜皮葺。

造営年不明。文化財指定はとくにないようです。

 

向拝柱は面取り角柱。柱上は舟肘木で、木口が金具でカバーされています。

向拝の虹梁はありません。

 

母屋柱は円柱。柱間は、正面は板戸、側面は横板壁。

母屋の手前には角材の階段が5段。階段の下には浜床が張られています。

縁側はくれ縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

 

母屋柱の柱上も舟肘木で、妻飾りは豕扠首。

破風板には猪目懸魚が3つ下がっています。

 

背面。

こちらもとくに目立った意匠はなく、縁側の脇障子もありません。

 

庁屋(北神饌所)

奈良神社の手前には、庁屋(ちょうや)という長大な社殿があります。別名は北神饌所(きたしんせんしょ)。奈良神社の拝殿も兼ねた社殿ですが、南側が正面のようです。

桁行13間・梁間4間、入母屋、檜皮葺。

1628年(寛永五年)造営。「賀茂別雷神社 34棟」として国指定重要文化財

 

南面の軒下。

柱は円柱で、軸部は長押と貫で固定されています。柱上は舟肘木。

柱間は上下にはねる蔀戸。

縁側は切目縁で、欄干はありません。

 

西面の後方には、奈良神社の拝殿に相当する小さい入母屋屋根がつき、ここだけは柱間が吹き放ちです。

 

拝殿部分の虹梁。すぐ後ろには奈良神社本殿があるため、あまり引いた写真が撮れません。

虹梁は唐草の絵様が彫られ、中備えは大斗と実肘木を組んだものが2つ置かれています。

内部は格天井。軒裏は一重まばら垂木。

 

拝殿部分の柱は、面取り角柱。虹梁には拳鼻がついています。柱上の組物は大斗と実肘木。

 

背面(北面)。

北面向かって左の6間は腰長押がなく、壁板の位置も低くなっています。おそらく、この6間の内部は土間床になっていると思われます。

 

東面。

こちらは縁側や蔀がなく、柱間は板壁。また、背面側(写真右)の柱間の通りは庇のような空間になっています。

 

東面向かって右側の軒下。

入母屋の屋根に庇を付加したような構造で、軒先から縋破風が出ています。

 

倉庫

奈良神社の南側には倉庫が東面しています。

入母屋、檜皮葺。校倉造。

造営年不明。

 

床上は、正面側面ともに1間。

正面中央には板戸。台輪の上の組物は、大斗と実肘木。

壁面は三角柱の部材を重ねて造られたもので、校倉造に特有のぎざぎざした外観になっています。

 

右側面および背面。

両側面と背面は、とくに建具などはありません。

 

入母屋破風には木連格子。

破風板の拝みは梅鉢懸魚。

 

床下は円柱が立てられ、正面3間、側面2間です。

柱上には台輪が通り、その上にぎざぎざの壁板が乗っています。

 

井戸舎

庁屋の南東の、境内東端には井戸舎という社殿があります。

入母屋、檜皮葺。

上の写真は西面。案内板などもなく、どの面が正面なのかわかりません。

 

西面(写真右)および北面(左)

柱は角柱で、柱上は舟肘木。中備えはありません。

柱間は連子窓。

軒裏は一重まばら垂木。

 

東面。

入母屋破風には梅鉢懸魚と木連格子が見えます。

縁側はありません。

 

山森神社と梶田神社

境内を流れる「ならの小川」の東岸には、2棟の末社が西向きに鎮座しています。こちらは山森神社。

一間社流造、檜皮葺。見世棚造。

 

向拝柱は糸面取り角柱。舟肘木で桁を受けています。

正面には扉が3組。一間社とも三間社ともつかない様式で、判断や解釈に困る構造です。

縁側は、正面のみ設けられています。

 

母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しはありません。

 

背面。柱間は横板壁。

柱は木製の横木(土台)に立てられ、床下も円柱に成形されています。

 

こちらは山森神社の南側に西面する梶田神社。

一間社流造、檜皮葺。

 

こちらは縁側があり、くれ縁が4面にまわされ、跳高欄が立てられています。

 

母屋柱は円柱、柱上は舟肘木。

妻飾りは豕扠首で、破風には猪目懸魚が3つ下がっています。

 

賀茂山口神社

奈良神社の北側には庭園があり、その一画に末社の賀茂山口神社が鎮座しています。

 

こちらは賀茂山口神社の拝殿。南向き。

桁行2間・梁間1間、入母屋(妻入)、檜皮葺。

拝殿本殿ともに、造営年不明。

 

柱は角柱が使われ、柱上は舟肘木。中備えにも、束と舟肘木が入っています。

内部は格天井。

軒裏は一重まばら垂木。

 

左側面(西面)。

側面は中備えがなく、長押は低い位置に打たれています。

 

拝殿の後方には本殿。

一間社流造、檜皮葺。

 

向拝柱は面取り角柱。舟肘木の木口には、金色の飾り金具。

向拝の虹梁はありません。向拝の桁の位置から出た梁は、母屋柱の長押の上に取り付いています。

桁隠しには猪目懸魚。

 

向拝の軒下には階段が5段。階段を構成する角材の木口や、縁側の跳高欄にも飾り金具がついています。

 

母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

妻飾りは豕扠首。

この写真には写っていないですが、向拝の桁にも懸魚があり、破風板にはつごう4つの懸魚が下がっています。

 

背面にも、くれ縁がまわされています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

賀茂山口神社の裏手には、末社の岩本神社が西面しています。

一間社流造、檜皮葺。見世棚造。

 

縁側のない見世棚造で、懸魚も1つしかなく、非常に簡素な造り。

 

二葉姫稲荷神社

賀茂山口神社の裏手には、二葉姫稲荷神社の参道があります。

 

鳥居の連なる坂をのぼった先には、3棟の本殿が鎮座しています。

上の写真は、二葉姫稲荷神社と、不動明王。両社とも一間社流造、檜皮葺。

 

不動明王の左側には天之斑駒神社。

一間社流造、正面千鳥破風付、軒唐破風付、檜皮葺。

 

母屋正面には桟唐戸。側面の壁は、牡丹に唐獅子の彫刻。

縁の下は腰組で支えられています。

 

組物は尾垂木三手先。柱間にも詰組があります。妻飾りは二重虹梁。

私の経験則になりますが、関東甲信の江戸後期~明治時代の神社本殿でよく見かける作風の造りです。関西方面ではあまり見かけない作風だと思います。

 

以上、賀茂別雷神社でした。

(訪問日2023/02/23)