甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【米原市】山津照神社

今回は滋賀県米原市の山津照神社(やまつてる-)について。

 

山津照神社は市東部の山際に鎮座しています。

創建は不明。『延喜式』に記載のある式内社で、平安時代には成立していたようです。社伝によると、後鳥羽上皇が当社を参拝したとのこと。その後の沿革は不明。

現在の境内や社殿は近現代のものと思われます。境内の一画には山津照神社古墳があり、神功皇后の一族である息長氏の墓と考えられ、県指定史跡となっています。

 

現地情報

所在地 〒521-0082滋賀県米原市能登瀬390(地図)
アクセス 醒ヶ井駅から徒歩40分
米原ICから車で3分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

参道

山津照神社の境内は南西向き。山際の集落の中に入口があります。

社号標は「山津照神社」。

 

一の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「山津照神社」。

 

善性寺

参道左手には神宮寺と思しき寺院、善性寺があります。

入口の門は、薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

本堂は、入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

本堂の向拝柱は几帳面取り。側面に獏、正面に唐獅子の木鼻。

 

鐘楼は、入母屋、桟瓦葺。

 

柱は円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

貫の上の欄間や、台輪の上の蟇股に彫刻が入っています。

 

若宮八幡宮

境内を進むと、参道左手に若宮八幡宮があります。

この社殿の周辺が古墳のようで、案内板*1によると横穴式石室があるとのこと。

 

若宮八幡宮は、一間社流造、檜皮葺。

向拝の虹梁は中央部が高くなっています。中備えはなく、虹梁の上の巻斗と実肘木で桁を受けています。

 

組物は出組、中備えは蟇股。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚。

 

手水舎と社務所

参道右手には社務所。

前方は、向唐破風。後方は切妻。総檜皮葺。

棟がT字型になっており、風変わりな構造です。

 

前方の向唐破風の部分。

頭貫には拳鼻。柱上には台輪が通っています。組物は大斗と、繰型のついた肘木を組んだもの。

唐破風の小壁には大瓶束。兎毛通に猪目懸魚が下がっています。

 

後方の切妻部分。

木鼻や組物は向唐破風の部分と同じ。

妻壁には大瓶束。破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

背面に破風はありません。

 

手水舎の先には社務所。

 

玄関部分の軒下には、鳳凰の彫刻や、雲状の笈形のついた大瓶束があります。

 

拝殿の手前には二の鳥居。

石造の明神鳥居、扁額は「山津照神社」。

 

拝殿

拝殿は、入母屋、銅板葺。

 

扁額は「山津照神社」。

柱は角柱で、柱上に台輪が通っています。頭貫には拳鼻。

組物は出組。桁下にはまばらな軒支輪が見えます。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

柱間の建具は蔀。

側面は3間ありますが、後方の1間は狭くなっています。

縁側は、正面と両側面の計3面に切目縁がまわされています。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

入母屋破風には木連格子が張られています。

 

拝殿の後方には、中門と本殿へつづく通路が伸びています。

通路の屋根は檜皮葺。

 

柱は几帳面取り角柱。柱上は大斗と舟肘木。

貫の上の中備えは蟇股。

 

中門

拝殿と通路の奥には、中門(中央右手前)と本殿(中央奥)があります。

中門の左右の透かし塀は檜皮葺。

 

中門は、一間一戸、向唐門、檜皮葺。

 

本殿側から見た背面。

柱は円柱。頭貫と台輪に禅宗様木鼻。

組物は大斗と肘木。

唐破風の小壁には大瓶束。

 

側面。

門扉は桟唐戸が使われています。

主柱の前後に控柱が立っており、柱の配置は四脚門に似ています。

 

本殿

本殿は、桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、正面檜皮葺、背面銅板葺。

造営年不明。

祭神は国之常立神(くにのとこたちのかみ)。

 

建築様式は三間社流造。

側面(梁間)3間のうち、前方の1間通りは床が1段低い前室になっています。このような形式の本殿は、滋賀県内に多く見られます。苗村神社西本殿(竜王町)や、園城寺新羅善神堂(大津市)が代表的。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。側面に拳鼻。

柱上の組物は連三斗。拳鼻が巻斗を介して持ち送りしています。

中備えには竜の彫刻。

 

向拝柱は、階段から若干離れた場所に立っています。

階段は7段。昇高欄や、縁側の欄干は擬宝珠付き。

 

前面には、3組の板戸が設けられています。

前室部分の柱は角柱で、柱上に台輪が通っています。頭貫には拳鼻。組物は出三斗。

 

後方の2間が、母屋の本体(神座)部分。

柱は円柱が使われ、向拝や前室よりも格上の造り。

 

縁側は切目縁が3面にまわされています。母屋の前室と本体部分とで床の高さがちがい、欄干はカーブさせてつなげることで高低差を処理しています。

縁の下は縁束で支えられています。母屋は亀腹の上に建てられています。

 

妻飾りは大瓶束。ハチの巣がついてしまっています。

破風板の拝みには三花懸魚。

 

写真ではわかりづらいですが、屋根の背面側は、檜皮ではなく銅板葺になっています。

母屋が立派な造りのだけに、屋根がこのような張りぼてじみた造りなのはちょっと残念。

 

本殿の左(西)には2棟の境内社。

上は春日社、下は北野社。

両社とも、一間社流造、檜皮葺。見世棚造。

 

以上、山津照神社でした。

(訪問日2022/06/25)

*1:滋賀県教育委員会による設置。