甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【松本市】若宮八幡社(筑摩)

今回は長野県松本市筑摩(つかま)の若宮八幡社(わかみやはちまんしゃ)について。

 

若宮八幡社(筑摩)は松本市街の南部に鎮座しています。

松本市内に4棟ある重文指定された神社本殿の1つなのですが、小規模かつ簡素な造りをしているため、これが重要文化財だとはにわかに信じられない内容です。

 

現地情報

所在地 〒390-0821長野県松本市筑摩3-6-2(地図)
アクセス

松本駅から徒歩40分

松本ICから車で20分

駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 5分程度

 

境内

参道と拝殿

若宮八幡社の境内

若宮八幡社は小さな公園の一角にあり、境内もまた非常にコンパクト。

入口の鳥居は両部鳥居で、扁額は「若宮八幡社」。社殿は真南を向いているのに対し、なぜか鳥居だけが45度ねじれて南東を向いています

これについては、案内板(松本市教育委員会)によると“もともと松本城二の丸の北西隅に鎮座していた”とのことで、城内にあったときもこの配置だったからではないか、というのが私の予想。

 

若宮八幡社の拝殿

拝殿は銅板葺の切妻(平入)。向拝なし。

垂木もまばらで、特にこれといった意匠は見当たりません。

 

本殿

若宮八幡社本殿

拝殿の裏には柵に囲われた本殿が鎮座しています。

一間社流造、こけら葺。

国指定重要文化財です。

 

案内板いわく“室町時代の様式をよく残している”らしく、前述したようにもともと松本城内にあったものを1670年(寛文十年)にこの場所に移したようです。“城の鎮守の神社として、江戸時代以前のものは全国的に類例がなく、比較的小さく簡素であるものの希少な例といえる”とのこと。

要約すると、造営年代は室町末期といったところでしょうか。

 

若宮八幡社本殿の向拝

まずは正面の向拝から。

正面の庇を支える向拝柱は、面取りされた角柱。2本の向拝柱をつなぐ虹梁は、下部にわずかな線彫りが見られるだけ。両端の木鼻は、拳鼻ともなんとも言いがたいものになっています。

虹梁の上の中備えは本蟇股。内部の彫刻もなく、蟇股としてかなり古典的なものになっています。

虹梁の上では、蟇股と出三斗の組物によって丸桁が受けられ、二軒の繁垂木を支えています。

 

母屋の正面にかけられた扁額は「若宮神社」。正面の扉は桟唐戸。

 

若宮八幡社本殿の階段と浜床

木階と浜床。

木階は5段あり、断面が正方形になった角柱がつかわれた正式な造り。

この本殿の縁側は正面にしかないので、それにあわせたのか浜床も正面だけで、左右にはまわされていません。

 

若宮八幡社本殿の側面前方

向拝と母屋のあいだ。

右の向拝と左の母屋はあまり高さに差がないですが、両者をつなぐ海老虹梁は母屋の少し高い位置から出ており、垂木にふれるくらいにカーブして流麗な曲線で向拝へつながっています。向拝のほうでは、実肘木で海老虹梁を受けています

 

若宮八幡社本殿の妻壁

左側面の妻壁。

母屋の貫の木鼻は拳鼻で、その上方では出三斗で丸桁と虹梁を受けています。

丸桁には桁隠しがついておらず、木口が露出。虹梁にもこれといった意匠が見られません。

虹梁の上にはこれまたシンプルな大瓶束。結綿にも意匠がなく、束の上には斗と実肘木が乗っているだけ。

 

若宮八幡社本殿の背面

左後方から見た背面。こちら側は、意匠と言えるようなものは組物と拳鼻くらいしか見られません。

母屋の柱は角柱なので、もちろん床下も角柱に成形されています。

当然のことながら、壁板は水平方向に張られています。

 

以上、若宮八幡社(筑摩)でした。

(訪問日2020/01/11)