今回は長野県のマイナー観光地ということで、松本市の八坂神社(やさか-)について。市内には同名の神社があるので、区別のために所在地の里山辺を付しておきます。
八坂神社(里山辺)は松本駅から東へ3kmほどの場所に鎮座しており、表題のとおり本殿は茅(かや)で葺かれています。神社の屋根は銅板葺と檜皮葺が大半を占めるのですが、この規模の本殿で茅葺きが使われているのは珍しいです。
現地情報
・所在地:
・アクセス:
松本駅から徒歩40分程度
松本ICから車で20分程度
・駐車場:なし
・営業時間:随時
・入場料:無料
・社務所:なし
・滞在時間:10分程度
境内
境内入口
八坂神社は松本市郊外の田園地帯にあります。
たいていの神社は正面口が道路に面しているものですが、この神社の正面は麦畑(個人所有のものです)になっており、舗装されていない畦道を歩いて境内に入ることになります。
鳥居は、笠木が瓦葺きになった両部鳥居。
扁額には「八坂神社」と書かれていました。
境内社など
鳥居をくぐって最初に行き当たるのが舞屋。
鳥居、舞屋(神楽殿)、拝殿、本殿が一直線に並ぶ配置は、わりとよく見かけます。
拝殿の左手にある境内社。全12柱の神が合祀されているとのこと。
案内板には祀られた神の名前が丁寧に書かれていましたが、ここで列挙しているときりがないので割愛いたします。
修羅(しゅら)
続いてこちらは拝殿の右手にあった社殿。石碑は七福神の大黒ですが、右の方にある二股の木材は「修羅」という石材運搬用の道具とのこと。
この木材と案内板の解説を見ただけではどうやって石を運ぶのか想像もつかず、「?」といった感想でしたが、帰宅後に検索してみると、これは橇(そり)の先端部分であるらしいことが分かりました。
修羅というのは木製の橇のことで、この上に石材を置いて丸太の“ころ”で運搬したようです。古墳時代には既に使用されており、重機が登場するまでは重量物の運搬に欠かせない手段だったとのこと。(ソースはwikipedia)
案内板によるとこの神社の関係者もこれが何なのかよく解っていなかったらしく、「大阪(おそらく藤井寺市のこと)の発掘調査によってはじめて修羅であることがわかった」と書かれていました。
拝殿と本殿
やや脱線しましたが、首題に移ります。こちらは拝殿。
瓦葺きの入母屋、正面千鳥破風。特に変わったところのない、標準的な造りです。
拝殿の後ろにまわり込むと、本殿が現れます。
本殿は茅葺きの三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。三間社だと、奥行きは2間が標準的ですが、この本殿は奥行き1間となっています。
1744年の造営で、現在の屋根は2003年の葺き替えとのこと。
背面。脇障子(縁側のついたて)のせいでちょっと紛らわしいですが、母屋の柱間は3つなので、これは三間社になります。
母屋の柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」という、神社建築ではおなじみと言える“手抜き”がなされています。
この本殿について、境内入口の案内板(里山辺地区景観整備委員会の設置)には“一間流れ造り(原文ママ)”とありましたが、拝殿の近くの案内板(松本市教育委員会の設置)には“三間社流造”とありました。ちょっと混乱しそうになりましたが、背面から判断するにこれは三間社で、市教育委員会の記述が正しいです。
あと、余計なことを書いておくと、里山辺地区の設置した案内板には祭神について「“島津”牛頭天王」と書いていますが、これは“津島”の誤記でしょう。
本殿の側面。装飾は少な目でシンプルですが、二手先に持ち出された梁と、茅葺きの分厚い屋根が重厚な趣を醸しています。
なお、神社本殿において、茅葺きは格の低い屋根とされるので避けられる傾向にあります。それでも茅葺きが採用されるのは、古来より長きにわたって茅葺きで作り続けてきた神社(仁科神明宮本殿や諏訪大社宝殿が代表的)か、神仏習合の傾向の強い神社かです。この八坂神社は牛頭天王が主祭神のようなので、後者でしょう。
本殿の前方(写真右のほう)、向拝部分は象と獅子の意匠の木鼻が目を引きますが、注目すべきはその真下の柱。神社の角柱の面取りは、時代が下るにつれて簡略化される傾向にあるのですが、この向拝の角柱は江戸中期にしては大きく面取りされています。
案内板によると、こういった柱を“大面取角柱(おおめんとり かくばしら)”と言うらしいです。
本殿の底部。階段の下にも床(浜床という)があり、土台は石積みになっています。
もしかしたらこの石積みは、先述の“修羅”で運ばれたのかも...?
境内と社殿の解説は以上になります。
実を言うと、他の神社を見たくて自転車移動している最中、偶然見かけて立ち寄っただけだったのですが、まさか茅葺きの三間社があるとは思ってもいなかったので非常に驚きました。この日は松本市内の神社をいくつか回りましたが、ここの本殿を見た瞬間がいちばん感動したかも。
こういった神社と、思いがけぬ素晴らしい出会いがあるので、輪行はやめられませんね...!
以上、八坂神社(里山辺)でした。
(訪問日2019/06/22)