甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【近江八幡市】新宮大社

今回は滋賀県近江八幡市の新宮大社(しんぐう たいしゃ)について。

 

新宮大社は安土城の西側の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると1131年(天承元年)の創建で、当地を領する豊浦冠者行実という人物が熊野本宮大社から勧請し、同年に伊勢神宮内宮を勧請・合祀して新宮大社と号したらしいです。史料上では1403年(応永十四年)に同地区の正禅寺に経典を奉納した記録があり、遅くとも室町前期には確立されていたようです。桃山時代、江戸時代も存続し、江戸中期から後期にかけて現在の社殿が造営されています。

現在の社殿は、拝殿と本殿の2棟が市の文化財となっています。とくに拝殿は大規模な茅葺の建物で、神社建築としてはめずらしい土間床となっています。また、当社の所蔵する絹本著色十六善神像は県指定文化財です。

 

現地情報

所在地 〒521-1311滋賀県近江八幡市安土町下豊浦3321(地図)
アクセス 安土駅から徒歩20分
八日市ICから車で25分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

新宮大社の境内は南向き。入口は境内西側の生活道路に面した場所にあります。

入口の鳥居は石造明神鳥居で、西向きに立っています。扁額は「新宮大社」。

 

参道を進むと左手に南向きの社殿があらわれます。こちらは拝殿。

桁行3間・梁間3間、入母屋、茅葺。

江戸後期の造営(推定)*1。市指定有形文化財。

 

屋根は葦(ヨシ)で葺かれ、内部に床はなく土間となっています。柱間に壁や建具はほぼなく、開放的な造り。

 

柱はいずれも角柱が使われています。

柱間にわたされた梁や桁は湾曲した材がところどころに使われています。内部に天井はなく、小屋組や化粧屋根裏が見えます。寺社建築というよりは、住宅建築のような素朴な趣です。

 

入母屋破風には、黒い格子が斜め方向に張られています。垂直・水平ではなく斜めに格子を張るのはめずらしいと思います。

大棟は棟覆板がかぶせられています。

 

拝殿左側(西側)には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

聖社

拝殿後方には大小2棟の本殿が並立しています。

まずは向かって左にある聖社から紹介。

 

聖社は、一間社流造、檜皮葺。

造営年不明。私の予想になりますが、後述の本殿(大宮)よりも新式の造りをしているため、江戸後期以降のものかと思います。

祭神はニニギ。

 

向拝は1間。

向拝の軒下にしめ縄をかけるため、肘木のような形状をした棒材が軒下につるされています。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象の頭の彫刻。

柱上の組物は出三斗。

 

虹梁中備えは蟇股。唐獅子の彫刻が入っています。

 

向拝と母屋とのあいだには海老虹梁がわたされています。向拝側は組物の上から出て、大きく湾曲して軒裏をかすめ、母屋の頭貫の位置に取り付いています。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と貫で固定され、柱間は横板壁です。

柱上の組物は舟肘木。頭貫木鼻や中備えはなく、簡素です。

妻飾りもなく、縦板が張られているだけとなっています。

破風板の拝みと桁隠しには、蕪懸魚が下がっています。

 

縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立てています。欄干は親柱の頂部を角錐状に尖らせたものが使われています。

母屋の前方には角材の階段が5段設けられ、その下には浜床が張られています。

 

本殿(大宮)

2つある本殿のうち、向かって右の大きいものが当社の本殿で、「大宮」と呼ばれているようです。祭神はイザナミ。

本殿は、桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、銅板葺。

1712年(正徳二年)造営*2。当初は桧皮葺でしたが、1999年の改修で銅板葺となりました。

「新宮神社大宮社」として市指定有形文化財。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象鼻がついています。

柱上の組物は連三斗。実肘木はなく、桁を直接受けています。

 

虹梁中備えは蟇股。繰り抜かれていない板状のもので、神紋らしき図形が彫られています。

 

前室(外陣)の正面。扁額は「大宮社」。

前室の柱は面取り角柱。頭貫の位置には禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗と連三斗。

 

左側面(西面)。

側面は3間で、前方(写真右)の1間通りは外陣に相当する前室、後方の2間通りが内陣に相当する母屋となっています。このような「前室付き流造」の本殿は滋賀県内で多く見られ*3、同市の活津彦根神社本殿沙沙貴神社本殿も同様の間取りとなっています。

 

前室の柱と母屋柱のあいだには海老虹梁がわたされています。

海老虹梁の下には板が張られ、建具の鴨居との隙間をふさいでいます。

 

母屋の後方。

母屋柱(写真左)は円柱で、軸部は長押と頭貫で固定されています。

頭貫の位置に禅宗様木鼻がつき、柱上には連三斗と平三斗が使われています。

 

組物の上には妻虹梁がわたされ、妻飾りは豕扠首となっています。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

背面は3間で、柱間は横板壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

頭貫の上に中備えの意匠はありませんでした。

 

本殿向かって右には早玉神社が南面しています。祭神は速玉之男。

一間社流造、桟瓦葺。

 

その他の境内社

拝殿向かって右手前、境内南東の区画には境内社が点在しています。

上の写真は若宮で、南向き。祭神はアマテラス。

一間社流造、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面には象鼻、柱上は出三斗。

中備えは蟇股。内側には雲状の彫刻が入っています。

 

母屋柱は円柱で、低い位置に長押が打たれています。

柱上の組物は舟肘木、妻飾りは豕扠首、破風板の拝みには蕪懸魚。ほか、目立った装飾がなく簡素な造りです。

 

若宮の南側には、津島神社と太神宮の2社が東西に向かい合って鎮座しています。

両者とも、一間社流造、銅板葺。

 

以上、新宮大社でした。

(訪問日2024/02/17)

*1:近江八幡市教育委員会の案内板より

*2:棟札より

*3:園城寺新羅善神堂や苗村神社西本殿が代表例