今回は長野県下諏訪町の諏訪大社下社春宮(すわたいしゃ しもしゃ あきみや)について。
諏訪大社下社秋宮は下諏訪町の市街地に鎮座しています。信濃国一宮である諏訪大社の4社に列する一社で、同町に鎮座する下社春宮と対になる神社です。
創建や歴史については、当記事では割愛。諏訪大社下社 秋宮・春宮、諏訪大社上社本宮をご参照ください。
境内は4棟の社殿が国重文に指定され、とくに神楽殿は諏訪大社4社の中でも屈指の規模。社殿は立川流の名工・立川和四郎富棟による造営で、諏訪の立川流の名声を世に知らしめた傑作と言われます。
現地情報
所在地 | 〒393-0092長野県諏訪郡下諏訪町5828(地図) |
アクセス | 下諏訪駅から徒歩20分 岡谷ICから車で15分 |
駐車場 | 100台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 諏訪大社 |
所要時間 | 30分 |
備考 | 春宮へは徒歩10分程度 |
境内
参道と手水舎
秋宮の境内は南西向き。境内は斜面にあり、諏訪湖のほうを向いた結果この向きになったのでしょう。
国道142号線が大社通り交差点(国道20号線)から分岐していて、その先に境内入口があります。
境内の入口付近には土産屋や博物館が何件かあり、春宮とくらべると観光地化が進んでいます。境内南側には大きな駐車場もあります。
入口の鳥居は銅板でカバーされた明神鳥居。
鳥居の左手には手水舎。
切妻、正面背面軒唐破風付、銅板葺。
正面の軒下。
唐破風の兎毛通には、怪鳥の彫刻。
虹梁には波が浮き彫りされ、その上に台輪が通っています。
中備えの蟇股には鳩の彫刻がついています。
唐破風の小壁には大瓶束が立てられています。
柱は几帳面取り角柱。内に転びがついています。
虹梁の位置には木鼻がついています。
組物は出三斗。
側面。
こちらも中備えの蟇股に鳩の彫刻が入っています。
妻飾りは笈形付き大瓶束。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
背面にも唐破風がついています。
軒下の彫刻は正面側とほぼ同じでした。
鳥居をくぐって進むと、西向きだった参道が45度ほど左に折れ、境内は南西向きになります。
中央奥の木は「根入りの杉」。いわれのある木らしいですが詳細は割愛。
参道から左(南)にそれたところにしめ縄の鳥居があり、こちらにも手水があります。
案内板に「御神湯」とあるように、こちらの手水は温泉水が出て、湯気が上がっています。
神楽殿
境内の中心部に入ると、中央に神楽殿が鎮座しています。
梁間3間・桁行5間、十字型切妻、檜皮葺。
1835年(天保六年)造営。幣拝殿・左右片拝殿や春宮とあわせた7棟で、1件の国指定重要文化財となっています。
棟梁は立川和四郎富昌(2代目和四郎)。後述の幣拝殿と左右片拝殿を手がけた立川和四郎富棟の弟子であり実子で、諏訪大社上社本宮の社殿を造った工匠です。
正面は3間。
大虹梁には巨大なしめ縄(大注連縄)が吊るされています。
案内板によるとしめ縄は重量が1トンあり、御柱祭にともなって新調されるとのこと。訪問時は御柱祭の翌月だったため、真新しい状態でした。
柱はいずれも円柱。
軸部は長押と貫で固定され、柱上は台輪がまわされています。頭貫には拳鼻がついています。
柱上の組物は二手先。
妻飾りは二重虹梁。
大虹梁の上には3つの大瓶束が立てられ、大瓶束の上の出組で二重虹梁が持ち出しされています。
二重虹梁の上は笈形付き大瓶束。
破風板の拝みには雲状の懸魚。
向かって右の側面。写真右が正面、左が背面です。
この社殿は妻入ですが、後方に平入の切妻の破風が付き、前後方向(妻入)の棟と左右方向(平入)の棟が交差して十字になっています。案内板によると“三方切妻造”とのこと。
側面は5間あり、そのうち後方の2間が平入の部分の母屋です。
背面はこのようになっています。
文化庁の文化遺産オンラインには“T字型切妻”と書かれていました。しかし背面にも破風があり、この破風は正面の破風と棟がつながっているため、「十字型切妻」としたほうが適当かと思います。
右側面の軒下、妻入部分と平入部分の接続部。
後方(写真右)のほうから斜めに隅木が伸びて、接続部の軒裏の垂木の取り合いを処理しています。
後方の平入の部分の妻壁。
組物は二手先。大虹梁の下の支輪板には浮彫りの彫刻があります。
大虹梁の上には出組があり、二重虹梁を持ち出しています。
二重虹梁の上は笈形付き大瓶束。
背面の軒下。
台輪の上の中備えは蟇股。
縁側は切目縁が4面にまわされています。
欄干は擬宝珠付き。
縁の下は縁束と組物で支えられています。
母屋柱は円柱ですが、その床下は八角柱に成形されています。
神楽殿の手前には狛犬。
青銅製の狛犬としては日本最大らしいです。
台座の銘文によると1960年再建、造形は諏訪郡原村出身の彫刻家・清水多嘉示氏。再建前の狛犬は戦時中に供出されたようです。
幣拝殿
神楽殿の裏には幣拝殿(写真中央)および左右片拝殿(右と左)。
中央の幣拝殿は楼門のような二重の造り。そして左右には横長の片拝殿が回廊のように伸びています。この社殿配置は諏訪造(すわづくり)という当地特有の建築様式。
当社と対になる下社春宮も、同様の諏訪造です。
中央の幣拝殿は、桁行1間・梁間2間、楼門形式、切妻、正面軒唐破風付、檜皮葺。
1781年(安永十年)造営。前述の神楽殿と同様、国指定重要文化財です。
棟梁は当地の宮大工で立川流の名跡、立川和四郎富棟(たてかわ わしろう とみむね、1744-1807)。いわゆる初代和四郎。善光寺大勧進の門や静岡浅間神社の彫刻を手がけた工匠で、この社殿は彼の代表作といえます。
秋宮を造った立川流の立川和四郎と、春宮を造った大隅流の柴宮長左衛門は、技を競い合いながらそれぞれ社殿を造り上げたようです。
なお、こちらの秋宮は諏訪高島藩の命を受けて造られたため予算に余裕があったようで、規模の大きさでは秋宮に軍配があがります。彫刻の出来栄えについては甲乙つけがたいと思いますが、一般的には秋宮のほうが評価が高いです。
下層。
柱は円柱。
正面は吹き放ちで、左右は前方だけが吹き放ちです。
柱の正面には唐獅子、側面には象の木鼻。その上は波の籠彫。
春宮のこの部分にもよく似た彫刻があります。
(左:秋宮、右:春宮)
秋宮と春宮の比較。
両社の造形を見較べてみるのもおもしろいかと思います。
虹梁中備えの彫刻は、牡丹に戯れる唐獅子。
側面は2間。
長押の上には欄間彫刻。
上層の縁側の床下には持ち送りがあり、波が篭彫りされています。
欄間彫刻は、松に鷹。
内部には奥へつづく間口があり、すだれの前に鏡が置かれています。
間口の両脇の欄間にも彫刻が入っています。題材は松に鶴。
上層。
屋根は曲線的な切妻で、正面に軒唐破風がついています。
上層も柱は円柱。
縁側はくれ縁、欄干は跳高欄。
頭貫木鼻は波の意匠。
柱上には台輪が通っています。
組物は二手先。
上層の中備えは竜の彫刻。遠目でも非常に良い造形に見えます。
唐破風の小壁には鳳凰の彫刻。平面的な造形で、すぐ下にある竜と比較すると見劣りの感が否めません。
妻壁は二重虹梁になっています。
大虹梁の上には竜の彫刻、二重虹梁の上は笈形付き大瓶束。
破風板の拝みには鰭付きの懸魚。鰭は植物の葉の意匠。
龍の彫刻はかなり凝った造形に見えますが、となりに片拝殿があるため観察しづらいのが惜しいです。
左右片拝殿
幣拝殿の左右には、片拝殿が鎮座しています。
こちらは向かって右(神座から見て左)にある片拝殿(左)。写真右端に見えるのは一の御柱。
片拝殿(左)は、桁行5間・梁間2間、切妻、檜皮葺。
造営年および棟梁は前述の弊拝殿と同様。反対側の片拝殿(右)や、幣拝殿とともに国指定重要文化財。
前面は吹き放ちで、縁側が設けられています。欄干は跳高欄。
柱は円柱。
軸部は長押と貫で固定されています。頭貫木鼻はありません。
柱上は出三斗。中備えもありません。
前述の幣拝殿から一転して、彫刻のない質素な造り。
向かって右側面。
側面は2間。
妻飾りは板蟇股。破風板の拝みには猪目懸魚。
こちらは向かって左にある片拝殿(右)。
片拝殿(左)と同様の構造です。
宝殿
幣拝殿の後方には、2棟の宝殿が鎮座しています。
上の写真は、向かって右にある片拝殿(左)の脇から後方へまわり込んで見た図。
諏訪大社には本殿がなく、宝殿が本殿に相当します。この宝殿は2022年5月の御柱祭で造替されたもの。
様式は切妻、茅葺。大棟には5本の鰹木と、外削ぎの千木。
祭神はタケミナカタ、八坂刀女、事代主の3柱。
諏訪大社下社秋宮の主要な社殿については以上。
(訪問日2022/06/04)