甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【静岡市】静岡浅間神社 ~前編~(神部神社・浅間神社)

今回は静岡県静岡市の静岡浅間神社(しずおかせんげん-)について。

 

静岡浅間神社は静岡市の中心部にある賎機山(しずはたやま)のふもとに鎮座しており、「静岡浅間神社」3つの神社と神社4つの境内社の総称です。

式内社として長い歴史があるだけでなく、徳川氏をはじめ武家からの崇敬も篤く、境内には重要文化財の社殿が計26棟も現存しています。

当記事では静岡浅間神社境内にある7社のうち、主要な神部神社・浅間神社(かんべ-・あさま-)の2社について解説していきます。

 

現地情報

所在地 〒420-0868静岡県静岡市葵区宮ヶ崎町102-1(地図)
アクセス 静岡駅にてしずてつジャストラインバス乗車、浅間神社バス停下車
静岡ICから車で15分、または新静岡ICから車で20分
駐車場 80台(無料)
営業時間 06:00-18:00
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 駿河国総社 静岡浅間神社
所要時間 1.5時間程度

 

神部神社・浅間神社 境内

入口の鳥居

入口の鳥居

神部神社・浅間神社の入口の鳥居は、車道の真ん中に堂々と立っています。

こんな場所に鳥居があると交通に混乱をきたしそうですが、左右に走る通り(麻機街道)はけっこうなスピードで車が流れており、手前の通り(長谷通り)も詰まっている様子はなかったので、特に交通に支障はないようです。

 

総門と楼門

社号標と楼門

鳥居の向こうには社号標と総門が建っています。社殿は東向き。

社号標は「神部神社 淺間神社」。

総門は銅瓦葺の切妻(平入)で、正面3間・側面2間、柱はいずれも円柱。装飾の類はほとんどなく、シンプルな外観です。

 

総門の後方には楼門(随神門)があるのですが、訪問時は修理工事中でした。

ちょっと残念に感じなくもないですが、工事が終わったらいずれ再訪したいと思います。

なお、総門・楼門ともに重要文化財です。

 

神厩舎

神厩舎と神馬の木造

境内に入り、楼門をくぐる前に右手に折れると神厩舎があります。こちらも重要文化財

内部には白い神馬(しんめ)の木像が安置されていますが、案内板によると「伝 左甚五郎作」とのこと。なお、左甚五郎は架空の人物です。

静岡浅間神社の彫刻の多くは「幕末の甚五郎」の二つ名で呼ばれた2代目・立川和四郎(たてかわ わしろう)らが手掛けているので、ここで言われている左甚五郎は立川和四郎のことではないか...というのが私の予想(想像)です。

 

案内板によると昔(年代不明)、浅間神社が火事になったとき木像の神馬が御穂神社まで逃げて行った、という伝説があるようです。

この故事は“あの有名な「ちゃっきり節」の歌詞にも出ています”とのこと。あいにく私はちゃっきり節(茶切節)を初めて知ったのですが、静岡では有名なのでしょうか...?

 

舞殿

舞殿の正面

工事中の楼門をくぐり重文の回廊に囲われた中庭のような空間に入ると、正面には舞殿、そして左右には手水舎が現れます。

舞殿は銅板葺の入母屋(妻入)で、正面および背面に軒唐破風(のき からはふ)付き。正面3間・側面2間、柱はいずれも角柱。

鬼板や破風板の飾り金具には、徳川家の紋・三葉葵があしらわれていました。

こちらも重要文化財です。

 

前述したとおり、静岡浅間神社の彫刻は信州諏訪の名工・立川和四郎父子とその一門によるものです。境内にある彫刻のほとんどは塗装されていますが、この舞殿の彫刻に限っては無塗装の白木

極彩色の彫刻がひしめく境内の中、いかにも立川流らしい白木の彫刻があり、やや浮いた感じに見えなくもないです。とはいえ、諏訪在住の私としては、立川流といったらやはり木目の味を生かした白木彫りだと思います。

 

舞殿の木鼻の彫刻

貫(ぬき)の上には波の意匠の彫刻が、木鼻には獏(バク)の彫刻が配置されています。

宮彫りにおいて獏と象は見分けが難しいですが、象は耳が大きく目が細いのが特徴であるのに対し、これは耳が小さく目が丸いので獏でまちがいないでしょう。

屋根裏の垂木は先端が金具で装飾されており、間隔はややまばらですが二重になっています。

 

舞殿の内部の装飾

舞殿の内部。向こうに見えるのは大拝殿。

ご覧のように内部にもびっしりと彫刻が配置されており、ひとつひとつ題材を紹介しているときりがないので、この辺で切り上げたいと思います。

 

手水舎

2つある手水舎

舞殿の正面の左右には、手水舎が建っています。

写真中央は参道南側の手水舎、左端にもう1つが見切れています。

手水舎は銅瓦葺の切妻で、柱はいずれも角柱。

ふつう、手水舎は参道の左か右に1つだけあるものですが、なぜかここでは2つあります。なぜ2つもあるのかは不明。

 

手水舎の装飾

2つある手水舎はどちらも非常に手の込んだ造りをしており、これだけでも非常に見ごたえがあります。

写真上部、大瓶束(たいへいづか)の左右には波に泳ぐ鯉、その下の蟇股(かえるまた)は水に水仙。どちらも水にまつわる題材で、手水舎の彫刻としてぴったりです。

 

手水舎の鉢

手水は非常によく手入れが行き届いており、水も透きとおっています。

思いのほか写真映えしたので、当ブログではたいていスルーする手水鉢の写真も掲載しておきます。

 

ちなみに、2つの手水舎は重要文化財ではないです。重文でない社殿を探すほうが難しいという魔境じみた境内の中、これは逆に貴重かもしれません。

 

大拝殿

浅間造の大拝殿

舞殿の後方には、この境内の中枢をなす大拝殿が鎮座しています。

大拝殿の屋根は銅瓦葺で、浅間造(せんげんづくり)と呼ばれる重層の建築様式となっています。

1階部分は切妻(平入)で正面と背面に千鳥破風(ちどりはふ)。向拝は正面に2つ。正面7間・側面4間。

2階部分は入母屋で、正面3間・側面2間。

柱はいずれも円柱。

 

1804年(文化元年)から60年の歳月をかけて立川流の一門によって造営されたもので、重要文化財に指定されています。

高さは25メートルあり、出雲大社本殿よりも大きいため、神社建築として日本最大級といって過言ではありません。

案内板(静岡浅間神社の設置)によると“巨額の費用と多年の星霜 最高の技術を駆使して造営されたもので 豪壮華麗の美極まり 「東海の日光」と称されております”とのこと。

 

大拝殿の1階部分

1階部分。正面の階段が2つあり、それを覆う庇(向拝)も2つあります。

神部神社・浅間神社の2社が社殿を共有しており、写真右が神部神社、左が浅間神社

1階正面は柱間が7つあり、両端から2番目の柱間は赤い桟唐戸(さんからど)が取り付けられています。他の柱間はガラス窓と跳ね上げ式の蔀(しとみ)になっています。

 

大拝殿の軒下

浅間神社(左側)の軒下。

屋根から庇がつき出ていますが、それを支える柱(向拝柱)がありません。

神社建築が好きな人なら、この庇は見ていて違和感しか感じないと思います...

 

極彩色の塗装で判りづらくなっていますが、組物は平三斗(ひらみつど)というベーシックなタイプのもの。幕末期の建築なので二手先・三手先に持出ししそうですが、意外にも持出しは1回だけ(一手先)。

後述しますが2階の梁は三手先に持出しされていたので、おそらく持出しの回数で格のちがいを表現するために1階は一手先にしたのでしょう。

 

大拝殿の妻壁

1階側面の妻壁(左側)。

平三斗の組物で持ち出された梁の上には3本の束が立てられ、その上にまた梁と束が配置される複雑な構造になっています。

そして複雑な構造の合間には、やはり抜かりなく彫刻が敷き詰められています。

 

大拝殿の2階

2階部分。

縁側の床下は二手先の赤い組物で支えられています。

2階の梁と桁は、三手先の組物で持出しされています。

上に行くほど組物が複雑になっていっており、我々の立っている下界がいちばん格下であることが組物で明示されています。

 

大拝殿の側面

左側面から見た図。写真右が正面側です。

浅間造というきわめて珍しい建築様式ですが、浅間造は特に定義のようなものはありません

この大拝殿は「1階が切妻、2階が入母屋」ですが、同じく浅間造である浅間大社(富士宮市)の本殿は「1階が寄棟、2階が流造」(ながれづくり:切妻の派生)です。

屋根の様式がぜんぜん違っているうえ、そもそも拝殿と本殿を同列に語ること自体おかしいので、定義のしようがありません。

 

本殿

「東海の日光」の名にふさわしい壮麗な大拝殿があるので「ここに神がいるんだ!」と思われる方も少なくないはずです。

しかし、それは正解ではありません。

 

神の居るとされる場所は拝殿ではなく、その裏手にある本殿です。

本殿と拝殿のちがいについては下記リンクをご参照ください。

【寺社の基礎知識】それ、本殿じゃないですよ! 神社の拝殿と本殿のちがいを解説

浅間神社の本殿

写真は本殿と唐門で、大拝殿の左端のほうから辛うじて覗き込めました。

唐門は2つあるようですが、やはり神部神社・浅間神社で1つの本殿を共有しています。

神部神社・浅間神社本殿も重要文化財に指定されているのですが、残念ながらこちらは一般の参拝者が本殿の前まで行くことはできません

とはいえ、この神社は大拝殿がメインといって差し支えない内容なので、本殿はちらりと見えただけでも満足です。

 

神部神社・浅間神社については以上。

後編では静岡浅間神社の境内にある他の神社5つをまわっていきます。

【静岡市】静岡浅間神社 ~後編~(少彦名神社・玉鉾神社・大歳御祖神社・八千戈神社・麓山神社)

(後編につづく)