世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【諏訪市】温泉寺 ~諏訪大社の御神体が安置される多宝塔~

今回は長野県のマイナー観光地ということで、諏訪市の温泉寺(おんせんじ)について。

 

仏塔というと五重塔や三重塔が有名ですが、二重塔に相当する“多宝塔”はちょっとマイナーな存在です。

二重しかない多宝塔は一見すると三重塔よりも格が落ちるように思えるかもしれないですが、多宝塔は2層目の母屋が円筒形になっているという特徴があり、実は五重塔や三重塔よりも複雑な構造をしていて、独特のおもしろさがあります。

そんな多宝塔が諏訪市にあるという情報を神長官守矢資料館で知り、見に行ってみることにしました。

 

現地情報

・所在地:

 〒392-0002
 長野県諏訪市湯の脇1丁目 21-1

・アクセス:

 上諏訪駅から徒歩15分程度

 諏訪ICから国道20号線で15分程度

・駐車場:10台分程度(無料)

・営業時間:随時

・入場料:無料

・社務所:あり

・滞在時間:20分程度

 

境内  

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上諏訪駅方面から温泉寺のほうへ坂を登って行くと、まずは地蔵がお出迎え。

 

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さらに進むと3つ並んだ切妻の建物が道の脇にあります。

建物も組物が使われていて立派ですが、中には多数の石仏が安置されています。

石仏は雨晒しの場所に置かれることが多いですが、先ほどの地蔵やこの石仏たちは屋根の下に置かれていて、とても大切にされているように見受けられます。

 

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温泉寺の境内遠景。駐車場は左手の石垣に沿って進んだ先にあります。

 

本堂

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本堂は妻入の入母屋。向拝は唐破風。

1階部分(?)の屋根の左右の端には庇がついており、その縋破風(すがるはふ)がなんとなく日吉造(ひよしづくり)っぽい雰囲気を醸しています。

 

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本堂から向かって左へ行くと鐘つき堂があります。諏訪の市街地だけでなく、湖や盆地が一望でき、良い眺めです。

 

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鐘つき堂の軒下。

放射状に伸びた垂木、梁の中間に置かれた組物、どちらも禅宗様建築の典型的な要素です。

 

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引き返して本堂の右手へ行くと、こちらには経蔵があります。向拝付きの方形屋根。

内部には立川和四郎(初代)が手がけた八角の輪経があるみたいですが、一般公開はされていません。

いちおう補足しておくと、輪蔵とは「回転させると中に納めてあるお経を全て読んだのと同じ御利益が得られる」とされる書庫のことです。

 

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経蔵の脇には六地蔵...と思いきや六体どころではありません。

 

多宝塔

見所の多い境内なのでここまで長くなりましたが、ここでようやく本題。

本堂の裏手、墓地のあるほうへ進むと、その先に今回の目当てだった多宝塔がありました。

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規模はあまり大きくなく、さほど古いようには見えませんが、2層目の母屋が円形になっており、これは確かに多宝塔です。

 

なお、案内板には“温泉寺鉄塔”とあるのですがこの多宝塔のことではなく、この中に納められている石塔のことを言っているみたいです。諏訪大社上社の御神体としてまつられていましたが、廃仏毀釈(神仏分離)の折りに上社から撤去され、紆余曲折あって昭和54年にここに納められたとのこと。

つまり、この多宝塔は御神体を安置するためのものなのでしょう。

鉄塔についてはwikipediaの「諏訪大社」の記事に写真が掲載されているので、そちらをご参照下さい。

 

中身の話はこの辺にして、建築の話に戻りましょう。

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1層目の軒下。

垂木が二重になっていますが、垂木の断面をよく見ると、地垂木(じだるき)は円形、飛檐垂木(ひえんだるき)は四角形です。

このような二軒の垂木を指して「地円飛角(じえんひかく)」といいます。こういった垂木は奈良時代・平安時代あたりに出現し、時代が下るにつれて廃れていっています。

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 ただし、この多宝塔は現代の建築なので、古い様式をただ再現しただけのものでしょう。

 

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2層目。

先述の通り、母屋や高欄が円形です。円形の母屋から突き出た肘木が、正方形の屋根へと繋がってゆく様子は、幾何学的な美しさがあります。

 

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最後に、見上げたアングルの図。

整然と平行に並んだ垂木が空に映えます。

 

諏訪に多宝塔があるという事実にも驚きましたが、まさか長野県内の建物で地円飛角の解説ができるとは思ってもいなかったので、この多宝塔には2度も驚かされました。私自身、諏訪に住んでそれなりの年数になるのですが、こんな素晴らしい名刹を見落としていたとは不覚です...

 

以上、温泉寺でした。

(訪問日2019/05/18)

 

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