甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【津島市】津島神社 その1 楼門と拝殿

今回は愛知県津島市の津島神社(つしま-)について。

 

津島神社は津島市の中心部に鎮座しています。

創建は不明。伝承によると欽明天皇元年(540年)の創建とのこと。平安時代後期には確立されていましたが、『延喜式』には記載されていません(式外社)。創建以来、八坂神社(京都市)とともに天王信仰の総本社として隆盛し、室町時代から桃山時代は織田氏と豊臣氏、江戸時代には徳川氏から篤く崇敬されました。幕末までは「天王社」と呼ばれる神仏習合の霊場でしたが、明治初期に仏教色が廃され、現在の社号と祭神(スサノオ)に改められました。

現在の境内は、広大な領域に多数の社殿が点在し、そのほとんどが文化財に指定されています。とくに楼門は桃山時代、本殿は江戸初期のもので、両者とも国の重要文化財です。県指定文化財の拝殿、祭文殿、回廊は、愛知県西部に特有の尾張造という社殿配置で造られています。

 

当記事ではアクセス情報および楼門と拝殿などについて述べます。

本殿と荒御魂社については「その2」

八柱社、弥五郎殿社、南門については「その3」

居森社については「その4」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒496-0851愛知県津島市神明町1(地図)
アクセス 津島駅から徒歩15分
弥富ICから車で15分
駐車場 50台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 津島神社 – 全国天王総本社
所要時間 40分程度

 

境内

楼門

津島駅方面から津島神社へ向かうと、境内東側に大鳥居が立っています。

右の社号標は「津島神社」。

 

鳥居と駐車場の先には石橋と楼門。東向きです。

 

楼門は、三間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。

1592年(天正二十年)造営国指定重要文化財

 

下層は正面3間で、中央の1間が通路となっています。

 

中央の柱間。

頭貫の位置には、しめ縄のかかった虹梁がわたされ、中備えは板蟇股。

飛貫の位置には木鼻がつき、斗栱を介して虹梁を持ち送りしています。

 

向かって左の柱間。

隅の柱は、頭貫には木鼻があります。頭貫の上の中備えは間斗束。

柱上の組物は出三斗。

 

内部の通路部分。こちらも虹梁中備えは蟇股です。

内部の主柱は天井まで伸び、柱から出た挿肘木で桁を受けています。

 

左側面(南面)。

側面は2間。壁や建具はありません。

頭貫中備えは、こちらも間斗束です。

 

上層正面。

正面は3間で、柱はいずれも円柱。欄干の影になって見づらいですが、柱間は中央に桟唐戸、左右に連子窓が設けられています。

 

柱の上には台輪が通っています。台輪の上の中備えは、中央が板蟇股、左右が間斗束。

柱上の組物は和様の尾垂木三手先。

 

左側面。

上層も側面2間で、中備えは間斗束。柱間は板壁が張られています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

奥の妻飾りは、懸魚の影になっていますが豕扠首が確認できます。

 

背面全体図。

各所の構造や意匠は、ほぼ前後対称です。

 

楼門周辺の社殿

楼門向かって左手前には、2棟の末社が北面しています。

写真左は橋守社、右は愛宕社。

様式は、2棟とも一間社流造、銅板葺。見世棚造。1760年(宝暦十年)造営とのこと*1

 

橋守社の左側面。

向拝柱は角柱、母屋柱は円柱が使われ、妻面は虹梁の上に束を立てています。破風板の拝みには梅鉢懸魚。

 

愛宕社は橋守社を縮小したような造りで、構造や意匠はほぼ同じです。

ただしこちらは母屋柱に角柱を使っています。

 

楼門向かって右手前、末社の向かいには手水舎。

切妻、銅板葺。

 

柱は面取り角柱。柱上は舟肘木。頭貫の中備えは板蟇股。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みに猪目懸魚が下がっています。

 

拝殿と回廊

楼門をくぐると境内の中心部の区画に入り、南向きの社殿が鎮座しています。

手前の妻入の社殿は拝殿で、その後方に回廊と祭文殿という社殿がつづき、回廊の内側に本殿が鎮座しています。

このような社殿配置は尾張造(おわりづくり)と呼ばれ、愛知県西部(尾張地域)に特有の建築様式です。尾張造の代表例には、当社のほか尾張大国霊神社(稲沢市)や大縣神社(犬山市)があります。

 

拝殿は、梁間3間・桁行6間、切妻(妻入)、檜皮葺。

1649年(慶安二年)再建。津島神社10棟*2として県指定有形文化財。

 

正面は3間あり、中央の柱間は広く取られています。この部分の柱は、円柱が使われています。

中央の柱間にはしめ縄のついた頭貫が通り、柱上は舟肘木。虹梁の上の妻飾りは豕扠首。

破風板は飾り金具がつき、拝みに懸魚が下がっています。

 

向かって右の柱間。隅の柱や側面の側柱は、面取り角柱です。

柱の上部には頭貫が通り、絵様のない虹梁がわたされています。

軒桁の外側(写真右方向)には、角ばった木鼻のような部材が出ています。

 

右側面(東面)。

側面は6間あり、前方の1間通りは石畳の土間、後方の5間は母屋で畳敷きとなっています。

母屋部分の壁面には、桟唐戸と連子窓が設けられています。

 

拝殿(写真右端)の後方には渡り廊下(右奥の銅板葺の棟)が伸び、廻廊につながっています。

回廊は、中央に中殿という一段高い棟が設けられ、その左右に正面4間の棟がつながって一体となった構造です。よって、正面(桁行)はつごう9間となります。

桁行9間・梁間2間、切妻、正面軒唐破風付。左右両端後方の棟は、梁間1間・桁行3間、切妻。総檜皮葺。

1825年(文政八年)再建。津島神社10棟として県指定有形文化財。

 

中央の高い棟は中殿と呼ぶようで、正面に軒唐破風がついています。

ほか、中殿部分は柱間に虹梁がわたされているのが確認できます。

 

向かって左手前の棟。

内部には床が張られ、柱間に欄干が設けられています。

 

左側面(西面)。

柱は円柱で、頭貫に木鼻がつき、柱上は大斗と肘木を組んだものが使われています。

妻虹梁の上には大瓶束。破風板の拝みには懸魚。

 

後方には側面3間の棟がつづいていて、こちらも回廊の一部です。

柱間は長押が打たれ、連子窓が設けられています。

組物や木鼻は前方の棟と同様。

 

頭貫の上に中備えはありません。

前方の棟との接続部は、高低差を調整するために貫や長押が曲がった形状になっています。

 

楼門と拝殿などについては以上。

その2では本殿と荒御魂社などについて述べます。

*1:境内案内板より

*2:文化財指定上の正式名称は「津島神社釣殿、祭文殿、廻廊、拝殿、藩塀、摂社弥五郎殿社本殿、摂社弥五郎殿社拝殿、居森社本殿、荒御魂社本殿、八柱社本殿」