甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【京都市】八坂神社 その1 南楼門、舞殿など

今回は京都府京都市の八坂神社(やさか-)について。

 

八坂神社は京都市街の東部に鎮座しています。通称は祇園社、祇園さん、八坂さん。

創建は不明。社伝によると2つの説があり、656年(斉明天皇二年)に高句麗からの使者によって創建されたとする説と、876年(貞観十八年)に僧侶・円如によって開かれた堂がはじまりとする説があります。

遅くとも平安前期には成立していたようで、当地の氏神として朝廷からも崇敬を受けました。ただし、当時は興福寺延暦寺の管理下にあったったため、『延喜式』には記載されていません(式外社)。1384年(至徳元年)には、足利義満によって延暦寺から分離され、独立の神社として現在に至っています。

安土桃山時代は、豊臣秀吉の寄進で多宝塔が建立されますが、江戸時代に焼失しています。1654年(承応三年)には、4代将軍・徳川家綱の寄進で現在の本殿が再建されました。明治時代は神仏習合が禁じられたため、境内の神宮寺が破却され、社号も現在の「八坂神社」に改められました。

 

現在の境内はおもに江戸前期に整備されたもので、本殿1棟が国宝、社殿28棟が重要文化財に指定されています*1。とくに本殿は神社本殿として最大級の規模を誇り、拝殿と本殿を大きな屋根で覆った「八坂造」(祇園造)というめずらしい様式で造られています。また、当社は全国に多数ある八坂神社の総本社とされます。

 

当記事では南楼門と舞殿の周辺の社殿について述べます。

本殿については「その2」を、

透塀、美御前社、悪王子神社などの境内東側の社殿については「その3」を、

十社、大国主社などの境内西側の社殿については「その4」を、

西楼門とその周辺の社殿については「その5」をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒605-0073京都府京都市東山区祇園町北側625(地図)
アクセス 祇園四条駅または東山駅から徒歩10分
京都東ICから車で20分
駐車場 なし(※周辺にコインパーキング多数あり)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト 八坂神社
所要時間 30分程度

 

境内

石鳥居と南楼門

八坂神社の境内は南向き。南側の入口は、住宅地の生活道路に面しています。

右の社号標は「官幣大社 八坂神社」。

 

石鳥居は、石造明神鳥居。扁額はありません。

1646年(正保三年)造営。「八坂神社」28棟1基として国指定重要文化財

 

鳥居の先には南楼門。

三間一戸、楼門、入母屋、銅板葺。

1879年(明治十二年)再建。「八坂神社」28棟1基として国重文

 

下層。

正面3間で、中央の1間の通路部分は少し広く取られています。

門の先には舞殿が見えます。

 

中央の柱間。

柱は円柱。組物は二手先が使われ、頭貫の上の中備えは間斗束。

 

向かって左の柱間。

こちらも間斗束が使われています。

頭貫に木鼻はありません。純粋な和様建築です。

 

内部の通路部分。

組物や間斗束で梁を受け、巻斗を介して格天井を受けています。

 

上層。こちらも正面3間。

下層に対して、上層は小ぶりに造られています。

欄干の影になって見づらいですが、中央の柱間は板戸、左右は連子窓。

 

上層も柱は円柱が使われていますが、こちらは長押が打たれています。

組物は尾垂木三手先。中備えは間斗束。

縁側は切目縁で、欄干は跳高欄。

軒裏は二軒繁垂木。

 

上層の右側面(東面)。

側面は2間。柱間は連子窓。

 

破風板には飾り金具が付き、三つ巴の紋がついています。拝みには猪目懸魚。

奥まっていて見づらいですが、妻飾りは豕扠首。扠首(束の左右の斜めの部材)の部分に巻斗が乗って桁を受けています。

 

背面。

各所の意匠は正面とほぼ同じです。

 

舞殿周辺

楼門の北西には南手水舎があります。

入母屋、桟瓦葺。

1887年(明治二十年)造営。南楼門と同様に国重文です。

 

破風板の拝みは、鰭付きの蕪懸魚。鰭は雲の彫刻。

破風の内側は木連格子。

破風ぎわの丸瓦には、三つ巴の紋があしらわれています。

 

楼門の先には舞殿。

桁行3間・梁間3間、入母屋、銅板葺。

1903年(明治三十六年)造営。こちらも国重文です。

 

右側面(東面)。

軒下には多数のちょうちんが吊るされ、組物などがほとんど観察できません。

柱は糸面取り角柱で、縁側の欄干は跳高欄。

 

破風板の拝みには猪目懸魚。

妻飾りは豕扠首。

 

手水舎の反対側、楼門北東には能舞台と斎館があります。こちらは能舞台で、北向きです。

入母屋(妻入)、桟瓦葺。

 

柱は面取り角柱で、柱上は舟肘木。

貫の上の中備えには、蟇股があります。

室内は手前が化粧屋根裏、奥が格天井。

 

能舞台向かって左手には斎館が西面しています。手前の玄関の唐破風が、建物の中央の軸上から右にずれた場所にあり、非対称のファサードです。

入母屋、正面千鳥破風付、桟瓦葺。玄関は向唐破風、銅板葺。

 

柱は几帳面取り角柱。柱上は舟肘木。

柱間の欄間には、細かな連子が張られています。

唐破風の兎毛通は猪目懸魚。

 

南楼門と舞殿の周辺の社殿については以上。

その2では本殿について述べます。

*1:2020/12/23付の指定