甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【犬山市】大縣神社

今回は愛知県犬山市の大縣神社(おおあがた-)について。

 

大縣神社(大県神社)は市南部の山際に鎮座する尾張国二宮です。

創建は不明。社伝によると第11代・垂仁天皇の時代に本宮山の山頂から現在地へ神社を遷座したらしく、これが当社のはじまりとのこと。史料では『続日本後記』(869年成立)の847年の記事に当社の神階についての記述があり、延喜式内社にも列しています。室町後期には織田氏の崇敬を受け、江戸前期には尾張徳川家によって現在の社殿が造営されました。

現在の社殿は江戸前期から戦後にかけてのもの。本殿などの主要な社殿は当地に特有の尾張造という建築様式で造られており、貴重な江戸前期の建築のため国の重要文化財に指定されています。ほか、広大な境内の一画にある梅園や、女陰を崇拝する独特な祭事でも知られます。

 

現地情報

所在地 〒484-0834愛知県犬山市宮山3(地図)
アクセス 楽田駅から徒歩25分
小牧東ICまたは小牧北ICから車で15分
駐車場 100台以上(無料)
営業時間 08:30-17:00
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 大縣神社公式サイト
所要時間 30分程度

 

境内

参道

大縣神社の境内は東向き。入口や参道は東西方向に伸びていますが、後述の社殿のほとんどは南向きに造られています。

向かって左の社号標は「式内大社 大縣神社」。

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額はありません。

 

参道右手(南側)には手水舎。

切妻、檜皮葺。

 

柱は大面取り角柱が使われ、柱上は舟肘木。古風な技法です。

虹梁の位置には木鼻がついています。

 

妻虹梁は無地のものが使われ、妻飾りは笈形付き大瓶束が使われています。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

手水舎の向かいには解除社が南面しています。

一間社流造、銅板葺。

 

向拝柱は糸面取り角柱で、柱上は連三斗。側面に木鼻があります。

母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。こちらも木鼻が使われています。

向拝、母屋ともに中備えはありません。

 

拝殿、祭文殿、本殿

入口の鳥居をくぐって数十メートルほど進むと、参道左手に社殿が南面しています。こちらは拝殿。

拝殿は、切妻(妻入)、檜皮葺。

尾張地域やその近辺でしばしば見られる*1、妻入り形式の拝殿です。

 

内部は手前が敷石の床、奥が板張りの高床となっています。

正面は3間あり、中央の1間通りは小組格天井が張られているのに対し、左右の各1間通りは天井がなく化粧屋根裏となっています。

 

正面向かって左の柱間。

柱はいずれも円柱が使われ、柱間は長押でつながれています。

 

正面中央の柱間。

こちらは柱上に組物があり、中備えに間斗束が入っています。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みには蕪懸魚を変形させたような懸魚が下がっています。

 

拝殿の後方には、祭文殿および回廊(写真手前の低い棟)と本殿(中央と奥の棟)がありますが、塀や瑞垣があるため間近で見ることはできません。

本殿の手前には祭文殿という社殿があり、祭文殿と回廊とで本殿を囲っています。このような社殿配置を尾張造(おわりづくり)といい、尾張地域周辺に特有の様式です*2

祭文殿は、一間一戸、四脚門、切妻、檜皮葺。東西回廊は各桁行5間・梁間2間、切妻、檜皮葺。

1661年頃の造営。

 

本殿の右側面(東面)。写真左が前方です。

前方は内陣、後方は外陣および大床という区画のようで、入母屋の屋根を前後に2棟並べて妻入りの棟で連結しています。いわゆる比翼入母屋造(ひよく いりもやづくり)と呼ばれるめずらしい建築様式です。

内陣部分は、桁行3間・梁間2間、入母屋。外陣及び大床の部分は、桁行3間・梁間2間、入母屋、背面1間通り取合部。総檜皮葺。

1661年(寛文元年)造営

先述の祭文殿および東西回廊とあわせて「大縣神社」2棟として、国の重要文化財に指定されています*3

 

境内社

拝殿や本殿の右奥、境内北東の区画には境内社が点在しています。

 

こちらは姫之宮。西向きです。

拝殿は、切妻(妻入)、正面庇3間、銅板葺。

 

姫之宮本殿は、一間社流造、銅板葺。

屋根には内削ぎの千木と、6本の鰹木が乗っています。

 

向拝柱は角柱で、柱上は連三斗。木鼻が連三斗を持ち送りしています。虹梁中備えは蟇股。

母屋柱は円柱で、柱上は出三斗。頭貫に木鼻がつき、頭貫の下の位置に海老虹梁が取り付いています。中備えはありません。

 

姫之宮の近くには大国恵比須神社が南面しています。

拝殿は、切妻、向拝1間、銅板葺。

 

大国恵比須神社本殿は、一間社流造、銅板葺。

 

大国恵比須神社の左隣には楽田神社。

石造神明鳥居の奥に、一間社流造、銅板葺の本殿が南面しています。

 

姫之宮の後方には、本宮社遥拝所へつづく鳥居が立っています。

鳥居の先には桜並木や宮池がありましたが、社殿などはなかったため割愛。

 

以上、大縣神社でした。

(訪問日2024/04/27)

*1:尾張大國魂神社拝殿(稲沢市)、津島神社拝殿(津島市)が代表例

*2:当社のほか、尾張大國魂神社、津島神社、知立神社(知立市)が代表的。なお、知立神社の所在地は旧三河国で、尾張地域ではない。

*3:祭文殿及び東西回廊 附:棟札1枚、本殿 附:透塀1棟、古図1枚、棟札13枚