甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【塩尻市】北熊井諏訪社

今回は長野県塩尻市の北熊井諏訪社(きたくまい すわしゃ)について。

 

北熊井諏訪社は塩尻市東部の集落に鎮座しています。

創建は不明。市内に多数ある諏訪社のひとつ。社殿については大隅流の名工・柴宮長左衛門によって造営された本殿が長野県宝に指定されていて、本殿では素木の精緻な彫刻を多数見ることができます。

 

現地情報

所在地 〒399-0711長野県塩尻市片丘11162(地図)
アクセス 広丘駅から徒歩50分
塩尻ICから車で10分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と神楽殿

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北熊井諏訪社の境内は西向き。

境内の場所や裏口は遠目にもわかりやすいのですが、正面の入口は狭い路地に面した場所にあって少々わかりにくいです。

鳥居は木造の両部鳥居。本柱だけでなく前後の稚児柱も内に傾斜がついています。扁額は「諏訪社」。貫にかけられたしめ縄が印象的。

 

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参道を進んだ先には神楽殿。奥に見えるのは拝殿。

鳥居、神楽殿、拝殿本殿が一直線に並んだ社殿配置は松本盆地の近辺でよく見かけます。

神楽殿は入母屋(平入)、桟瓦葺。

 

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神楽殿の内部は天井がなく、小屋組の梁や化粧屋根裏、それから途中で途切れている化粧垂木を観察できます。

 

拝殿

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拝殿は入母屋(平入)、入母屋(妻入)の向拝1間、桟瓦葺。奥に見える切妻の屋根は本殿の覆い屋。

 

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拝殿向拝。

向拝柱は几帳面取りの角柱。向拝柱をつなぐ虹梁(こうりょう)には、唐草が彫られています。

虹梁の両端の木鼻は象。中備えの蟇股(かえるまた)には諏訪梶の紋が彫られています。

向拝の内部には格天井が張られ、入母屋の軒の化粧垂木を納めています。

 

本殿

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拝殿の後方には覆い屋と鉄柵に保護された本殿が鎮座しています。

本殿は一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)、正面千鳥破風付、向拝1間・軒唐破風付、こけら葺。

造営年は1782年(天明2年)で、棟梁は諏訪の大隅流の名工である柴宮長左衛門矩重(しばみや ちょうざえもん のりしげ)諏訪大社下社春宮(下諏訪町、1779年)を造営した人物です。

祭神はタケミナカタ、八坂刀女、事代主。

 

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正面の軒先は2本の向拝柱で支えられています。向拝柱は几帳面取りの角柱で、面には紋様が彫られています。

向拝柱につけられた木鼻の彫刻は、正面が唐獅子、側面は象。ここは大隅流や立川流の定番の題材なので、手慣れた感じのする良好な造形。

ほか、水引虹梁の中備えや、その上方の桁の上にも彫刻が配置されているのですが、拝殿のうしろに設けられた幣殿のせいで真正面からは撮影できず。案内板によると中備えは竜らしいです。

 

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向拝柱と母屋(写真右)は湾曲した海老虹梁でつながれており、海老虹梁には波に泳ぐ鯉が彫られています。これは「鯉の滝降り」。余談ですが、江戸後期になってくると、大隅流や立川流ではここに竜を彫る作例が出現します。

海老虹梁の上では、向拝柱の組物に支持された手挟(たばさみ)が軒裏を受けています。手挟は菊の花と葉が写実的に彫られており、ここも非常に良い造形。

 

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反対側の左側面(北面)。

こちらの海老虹梁は「鯉の滝登り」。案内板(長野県・塩尻市教育委員会)いわく、この部分の彫刻は柴宮長左衛門の作品のうちでも屈指の傑作とのこと。

 

向拝の軒裏を見てみると、向拝柱より内に手挟がもうひとつ設けられています。ふつう、手挟は1つの向拝柱に対して1個しか使わないものです。なお、内側の手挟は雲が彫刻されています。

向拝1間、すなわち2本の向拝柱に手挟が4つも使われているのを見たのは初めてだったので、とても驚きました。しかも4つすべての手挟に彫刻があり、ほかに見劣りしない造形である点もすばらしいです。

 

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母屋の正面は両開きの桟唐戸(さんからど)。その左右にも彫刻がありますが角度のせいで見づらいです。題材は蘇鉄と兎。

扉の上の彫刻は題材不明。

 

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正面には角材の階段が5段。

階段の下には浜床が張られています。浜床には欄干が立てられていますが、これはおそらく後補のもので、本殿の一部ではないでしょう。

縁側は切目縁(きれめえん)が4面にまわされています。欄干は跳高欄、縁の下は腰組で支えられています。

 

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縁の下にも多数の彫刻が配置されています。

腰組の下部に設けられた持ち送りには、唐獅子と竜の彫刻。

縁の下の中備えは、長押の上には雲状の意匠の蟇股、長押の下の彫刻はおそらく梅ですが一部破損してしまっています。

 

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壁面には彫刻がなく、無垢の壁板が横方向に張られています。

縁側の終端をふさぐ脇障子にも精緻な彫刻が施されていた様子ですが、下半分が欠けてしまっているうえ、脇障子の上の鉾木も欠損していて白い鉄骨で補修されています。

 

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この本殿の最大の見どころといえる妻壁。

頭貫には唐獅子の木鼻。母屋上部の中備えには、柴宮長左衛門がよく題材にしている「波に亀」の彫刻。反対側面は亀ではなく、よく解らない題材が彫られていました。

柱上の組物は二手先。構造そのものはさほど複雑というわけではないのですが、竜や鳳凰の頭が彫られた木鼻がいくつも取り付けられており、良く言えば派手でにぎやか、悪く言えばグロテスクなキメラといった趣。

組物で持出しされた妻虹梁は二重になっています。下の虹梁の下部には軒支輪、中備えには雲と唐獅子の彫刻。二重虹梁の上では笈形付き大瓶束が棟を受けていて、笈形(おいがた)は植物の葉のような意匠。

 

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破風板にも多数の装飾がついています。

拝みにはポピュラーな蕪懸魚(かぶらげぎょ)。二重虹梁と向拝には雲の意匠の桁隠しがついており、つごう片側6つもの懸魚が下がっているという豪華さ。

 

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背面。妻壁がないぶん地味に見えますが、こちらにも抜かりなく彫刻が配置されています。

中備えの彫刻は笹の葉と唐獅子らしきものが見えますが、詳細不明。

 

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背面床下。

持ち送りの彫刻はやはり唐獅子ですが、斜めに突き出る持ち送りは鳳凰や亀などバラエティに富んでいます。

 

境内社

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最後に、拝殿と本殿の左側にあった境内社。

銅板葺の一間社流造、正面千鳥破風。

さすがに北熊井諏訪社本殿とくらべると見劣りしますが、虹梁や木鼻の意匠が小さいながらも手の込んだ造りでした。

 

以上、北熊井諏訪社でした。

(訪問日2020/09/28)

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