今回は長野県塩尻市の南熊井諏訪社(みなみくまい すわしゃ)について。
南熊井諏訪社は塩尻市東部の集落に鎮座しています。
創建は不明。近辺に多数ある諏訪神社のひとつで、江戸期のものと思われる端正で適度な装飾が施された本殿を見ることができます。
現地情報
所在地 | 〒399-0711長野県塩尻市片丘10477(地図) |
アクセス | 塩尻駅から徒歩40分 塩尻ICから車で5分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
鳥居と拝殿
南熊井諏訪社の境内は西向き。ちょっとめずらしい方角を向いています。
鳥居は石造の明神鳥居。扁額はなく額束。背が低いため、通行の際は上体をかがめてくぐることになるでしょう。
柱にくくりつけられた真榊やしめ縄の紙垂が新しく、境内も小ぎれいなのでよく手入れされている様子。
拝殿は入母屋(平入)、正面千鳥破風付、向拝1間、桟瓦葺。
向に見える大きな切妻の屋根は、本殿の覆い屋です。
千鳥破風。
破風の内部には虹梁と、豕扠首の意匠を取り入れた大瓶束が見えます。
千鳥破風の鬼板には梶の葉の紋が見えました。また、奥の覆い屋の屋根の破風にも諏訪梶を簡略化した紋が描かれています。両者とも諏訪神を祀る神社で使われる紋です。
拝殿の向拝。
向拝柱は几帳面取りの角柱。柱上には出三斗。
しめ縄がかけられた虹梁の木鼻は象鼻、中備えはくり抜かれていない蟇股。こちらには諏訪神社を示すような紋などは見られません。
本殿
拝殿の後方には覆い屋と鉄柵に保護された本殿が鎮座しています。
本殿は一間社流造(いっけんしゃ ながれづくり)、こけら葺。
造営年は不明。作風からして江戸中期以降のものと思われます。
祭神は諏訪神社なのでタケミナカタと八坂刀女が祀られているのはまちがいないでしょう。事代主や大国主も合祀されているかもしれません。
向拝。向拝柱は几帳面取り角柱。
しめ縄がかけられた虹梁の両端には、白い象の木鼻。江戸後期の大隅流や立川流とくらべると造形は決して良いとはいえないので、おそらくそれより前の江戸中期当たりのものではないか、というのが私の予想。
虹梁の中備えには蟇股が置かれていますが、この角度でははらわた(内部の彫刻のこと)までは観察できず。
母屋の正面には角材の階段が5段。階段の下には浜床が張られています。
縁側は正面と左右の計3面に、切目縁がまわされています。欄干は跳高欄。床下は縁束で、束のあいだが板でふさがれています。
側面。
母屋(左)と向拝柱(右)をつなぐ海老虹梁は、大きく湾曲して軒裏すれすれを通って向拝の桁の高さに降りています。
母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固定され、頭貫には象鼻。中備えには蟇股が置かれていて、蟇股には諏訪梶の紋が浮き彫りされています。
柱上の組物は出組。一手先に持出された妻虹梁の下には軒支輪。
妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。
大瓶束の両脇の笈形は妻壁に彫られているだけで、独立した部材ではない様子。そして笈形の内側がくり抜かれています。小屋組の空洞が見える妻飾りとは、なかなか風変わり。
縁側の終端には脇障子が立てられています。
脇障子には笹と桐(?)らしき図が彫られていますが、ほとんど線彫りといっていい造形。ここの技法もやや古風に感じます。
背面。軒下の意匠は側面と同様。こちらも蟇股に諏訪梶があります。
なお、写っていないですが母屋柱の床下は八角柱になっていて、円柱の成形を手抜きしていました。
拝み(中央)には葉のような装飾のついた蕪懸魚。
桁隠しには牡丹と思しき花が彫刻されています。こちらは立体的でとても良い造形。
屋根の大棟の上には千木と鰹木が乗せられています。
千木は先端が水平な「内削ぎ」。長方形の風穴が開けられ、風穴が先端にかかって二股にわれています。鰹木の本数は確認しきれず。
内削ぎは女千木と呼ばれることもありますが、諏訪神社の主祭神は男神のタケミナカタです。千木と祭神の性別はかならずしも一致しない、という好例です。
以上、南熊井諏訪社でした。
(訪問日2020/09/28)