今回も長野県佐久市蓬田の八幡神社について。
当記事では拝殿、本殿、境内社について述べます。
拝殿
高良社のとなりには拝殿があります。拝殿は参道に対し90度横を向いており、西向き。
様式は入母屋(平入)、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。
こちらも派手な軒下になっています。
彫刻の作風が随神門と似ているので、同時代のものと思われます。おそらく江戸後期のもの。
しめ縄のかかった水引虹梁には、細かい唐草が彫られています。
虹梁中備えは竜の彫刻。その左右には、連三斗の木鼻がびっしりと並んでいます。
向拝柱は几帳面取り。
木鼻は正面が唐獅子、側面が象。
唐破風の軒下の小壁には雲の意匠の彫刻。破風板から下がる兎毛通は鳳凰。
棟の鬼板には菊の紋。
側面(南面)から見た図。
海老虹梁は竜の彫刻。手挟は菊(あるいは牡丹?)が彫られています。
母屋の欄間にも彫刻。題材は松に鷹。
頭貫木鼻は拳鼻。
組物は出組。中備えには蓑束。板支輪には波の彫刻。
反対側。こちらも松に鷹。
作者や流派は不明ですが、ぱっと見で題材がはっきり分かるので良い造形だと思います。
側面は彫刻がありません。この点でも随神門と似ています。
大棟鬼板は紋なし。入母屋破風の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
八幡神社本殿
拝殿の後方には本殿が鎮座しています。
桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝1間?、銅板葺。
案内板によると1783年(天明三年)の再建。
祭神は八幡神(誉田別命、神功皇后、玉依姫)。
向拝柱は几帳面取り。木鼻は正面が唐獅子、側面が象。
柱上の組物は出三斗をベースとしていて、3つの桁で軒裏を受けています。
海老虹梁は繰型と文様が彫られています。母屋側は頭貫の高さに、向拝側は組物の大斗の高さに取りついています。
手挟は菊の花の意匠。海老虹梁と接触しています。
母屋柱は円柱。
壁面には胴羽目彫刻があります。右は柏(あるいは朴?)と鶏、左は梅と山鵲。
脇障子にも彫刻があり、題材は松に鷹。
前述の拝殿の欄間彫刻とくらべると、やや立体感に欠ける造形。別の工匠の作でしょう。
頭貫木鼻は唐獅子。
柱上の組物は三手先で、竜の頭の木鼻がついています。
組物のあいだの中備えは波の意匠の彫刻。板支輪にも同様の彫刻が色違いで配されています。妻虹梁の下には軒支輪。
妻虹梁は二重になっています。大虹梁は菱形の文様が彫られ、その上に蟇股と平三斗が置かれています。二重虹梁は唐草と亀甲(六角形)の文様が彫られ、その上は笈形付き大瓶束。
縁側はくれ縁が3面にまわされています。縁の下は三手先の腰組。組物のあいだには蟇股。
腰羽目にも彫刻がありますが、退色していて題材がよくわかりません。象らしきものが彫られています。
背面。
胴羽目の彫刻は、いずれも鳳凰。
腰羽目は、長押の上は竹林七賢人、下は右手前から馬・竜・兎。
右側面(南面)。日が直射するせいか、劣化が著しいです。
胴羽目は左が松に鶴、右が竹に鶴。
脇障子は反対側と同様に鷹のようですが、樹種がよくわかりません。
こちらの腰羽目は唐獅子が題材のようです。
左の菊の彫刻は、この本殿の中では比較的ましな状態で彩色が残っています。
厳島社
つづいて境内社。その2で述べた高良社のほかにも、八幡神社には見ごたえある境内社が多いです。
こちらは拝殿の向かいにある厳島社。東向きに鎮座し、周囲は堀になっています。
様式は一間社流造、銅板葺。
向拝に唐獅子と象の木鼻があるだけでなく、胴羽目や脇障子に彫刻があります。
頭貫には拳鼻、その上は題材不明の中備え彫刻と、波の意匠の板支輪。
妻虹梁は出組で持ち出され、妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は波の意匠。
背面。こちらも胴羽目彫刻がありますが、題材がよくわからず。
諏訪大明神・八幡宮
八幡神社の拝殿・本殿のとなりには、境内社なのか別の神社なのか判然としない神社があります。
上の写真は拝殿。
向拝の扁額には「諏訪大明神」とありました。
拝殿の内部をのぞき込んだ図。
扁額には「諏方大明神 八幡宮」。こちらも社名や表記が扁額によってまちまちで安定しません。
紫の垂れ幕は右が諏訪梶、左が五三の桐。
奥には本殿の扉が2組見えます。扉には垂れ幕と同様の紋が描かれていました。
本殿は桁行2間・梁間1間、二間社流造、向拝1間、銅板葺。
造営年は不明。八幡神社本殿と作風が近く、同時期(江戸中期から後期)のものと思われます。
祭神は諏訪神(タケミナカタなど)と八幡神(誉田別命など)でしょう。
向拝柱はよく見えず。
母屋柱には唐獅子の木鼻がついています。
壁板には何か絵が描かれていた痕跡があります。
組物は二手先。妻虹梁の下には板支輪。
妻虹梁は唐草が彫られ、その上の妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形の意匠がちょっと風変わり。
脇障子の彫刻は、遠くてよく見えず題材不明。
背面。
正面と同様に、背面も柱間が2つ。
こちらは壁画の痕跡のようなものは見当たりません。
反対側(北面)。
壁面には竹と鶏らしき画の痕跡が見えます。
脇障子は紅葉と鹿。
以上、八幡神社(蓬田)でした。
(訪問日2019/09/14,2020/12/27)