甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【佐久市】八幡神社(蓬田) その3(拝殿、本殿、境内社)

今回も長野県佐久市蓬田の八幡神社について。

 

その2では瑞垣門と高良社本殿について述べました。

当記事では拝殿、本殿、境内社について述べます。

 

拝殿

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高良社のとなりには拝殿があります。拝殿は参道に対し90度横を向いており、西向き。

様式は入母屋(平入)、向拝1間・軒唐破風付、銅板葺。

 

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こちらも派手な軒下になっています。

彫刻の作風が随神門と似ているので、同時代のものと思われます。おそらく江戸後期のもの。

 

しめ縄のかかった水引虹梁には、細かい唐草が彫られています。

虹梁中備えは竜の彫刻。その左右には、連三斗の木鼻がびっしりと並んでいます。

 

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向拝柱は几帳面取り。

木鼻は正面が唐獅子、側面が象。

 

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唐破風の軒下の小壁には雲の意匠の彫刻。破風板から下がる兎毛通は鳳凰。

棟の鬼板には菊の紋。

 

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側面(南面)から見た図。

海老虹梁は竜の彫刻。手挟は菊(あるいは牡丹?)が彫られています。

 

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母屋の欄間にも彫刻。題材は松に鷹。

頭貫木鼻は拳鼻。

組物は出組。中備えには蓑束。板支輪には波の彫刻。

 

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反対側。こちらも松に鷹。

作者や流派は不明ですが、ぱっと見で題材がはっきり分かるので良い造形だと思います。

 

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側面は彫刻がありません。この点でも随神門と似ています。

大棟鬼板は紋なし。入母屋破風の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

八幡神社本殿

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拝殿の後方には本殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝1間?、銅板葺。

案内板によると1783年(天明三年)の再建

祭神は八幡神(誉田別命、神功皇后、玉依姫)。

 

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向拝柱は几帳面取り。木鼻は正面が唐獅子、側面が象。

柱上の組物は出三斗をベースとしていて、3つの桁で軒裏を受けています。

海老虹梁は繰型と文様が彫られています。母屋側は頭貫の高さに、向拝側は組物の大斗の高さに取りついています。

手挟は菊の花の意匠。海老虹梁と接触しています。

 

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母屋柱は円柱。

壁面には胴羽目彫刻があります。右は柏(あるいは朴?)と鶏、左は梅と山鵲。

脇障子にも彫刻があり、題材は松に鷹。

前述の拝殿の欄間彫刻とくらべると、やや立体感に欠ける造形。別の工匠の作でしょう。

 

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頭貫木鼻は唐獅子。

柱上の組物は三手先で、竜の頭の木鼻がついています。

組物のあいだの中備えは波の意匠の彫刻。板支輪にも同様の彫刻が色違いで配されています。妻虹梁の下には軒支輪。

妻虹梁は二重になっています。大虹梁は菱形の文様が彫られ、その上に蟇股と平三斗が置かれています。二重虹梁は唐草と亀甲(六角形)の文様が彫られ、その上は笈形付き大瓶束。

 

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縁側はくれ縁が3面にまわされています。縁の下は三手先の腰組。組物のあいだには蟇股。

腰羽目にも彫刻がありますが、退色していて題材がよくわかりません。象らしきものが彫られています。

 

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背面。

胴羽目の彫刻は、いずれも鳳凰。

腰羽目は、長押の上は竹林七賢人、下は右手前から馬・竜・兎。

 

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右側面(南面)。日が直射するせいか、劣化が著しいです。

胴羽目は左が松に鶴、右が竹に鶴。

脇障子は反対側と同様に鷹のようですが、樹種がよくわかりません。

 

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こちらの腰羽目は唐獅子が題材のようです。

左の菊の彫刻は、この本殿の中では比較的ましな状態で彩色が残っています。

 

厳島社

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つづいて境内社。その2で述べた高良社のほかにも、八幡神社には見ごたえある境内社が多いです。

こちらは拝殿の向かいにある厳島社。東向きに鎮座し、周囲は堀になっています。

 

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様式は一間社流造、銅板葺。

向拝に唐獅子と象の木鼻があるだけでなく、胴羽目や脇障子に彫刻があります。

 

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頭貫には拳鼻、その上は題材不明の中備え彫刻と、波の意匠の板支輪。

妻虹梁は出組で持ち出され、妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は波の意匠。

 

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背面。こちらも胴羽目彫刻がありますが、題材がよくわからず。

 

諏訪大明神・八幡宮

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八幡神社の拝殿・本殿のとなりには、境内社なのか別の神社なのか判然としない神社があります。

上の写真は拝殿。

向拝の扁額には「諏訪大明神」とありました。

 

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拝殿の内部をのぞき込んだ図。

扁額には「諏方大明神 八幡宮」。こちらも社名や表記が扁額によってまちまちで安定しません。

紫の垂れ幕は右が諏訪梶、左が五三の桐。

奥には本殿の扉が2組見えます。扉には垂れ幕と同様の紋が描かれていました。

 

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本殿は桁行2間・梁間1間、二間社流造、向拝1間、銅板葺。

造営年は不明。八幡神社本殿と作風が近く、同時期(江戸中期から後期)のものと思われます。

祭神は諏訪神(タケミナカタなど)と八幡神(誉田別命など)でしょう。

 

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向拝柱はよく見えず。

母屋柱には唐獅子の木鼻がついています。

 

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壁板には何か絵が描かれていた痕跡があります。

組物は二手先。妻虹梁の下には板支輪。

妻虹梁は唐草が彫られ、その上の妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形の意匠がちょっと風変わり。

脇障子の彫刻は、遠くてよく見えず題材不明。

 

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背面。

正面と同様に、背面も柱間が2つ。

こちらは壁画の痕跡のようなものは見当たりません。

 

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反対側(北面)。

壁面には竹と鶏らしき画の痕跡が見えます。

脇障子は紅葉と鹿。

 

以上、八幡神社(蓬田)でした。

(訪問日2019/09/14,2020/12/27)