甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

寺社建築用語集 は行

この記事では、当ブログに頻出する寺社建築用語について簡単に説明いたします。

 

行別: / / / た・な / / ま・や・ら・わ

 

拝殿はいでん

神社の社殿のひとつ。本殿の前に配置され、参拝のための場所として使われる。

本殿よりも大きい場合がほとんどで、そのせいか拝殿を本殿だと思いこんでいる人も少なからず居る。

 

廃仏毀釈はいぶつきしゃく

仏教寺院の施設を破壊したり、仏僧の地位や財産を剥奪したりする運動のこと。とくに断りがない場合、明治初期の廃仏毀釈を指す。

仏教の弾圧運動は伝来当初からあったが、近世になると国学や儒学の思想のもと、寺院の廃止や整理が行われた藩(水戸藩が代表的)もあった。幕末には尊王論が隆盛し、その反動として、幕府の支配体制の一部だった寺院への弾圧の機運が高まった。

1868年(慶応四年・明治元年)には「神仏判然令」と呼ばれる通達が出された。この通達に仏教を弾圧する意図はなかったようだが、多くの寺院や伽藍が廃止・破却されただけでなく、神社境内にある神宮寺や仏塔なども、仏教色の排除のため取り壊された。明治新政府への恭順を示すために寺院を破却した藩もあった。

明治の廃仏毀釈で破却された仏堂や仏塔は、もし現存していれば国宝・重文になっていたと思われるものも多い。

 

八幡造はちまんづくり

神社の建築様式のひとつ。平入で切妻の建物を前後に2つ連結させた構造をしている。

石清水八幡宮(京都市)や宇佐神宮(宇佐市)が著名で、この他の例は少ない。

 

花狭間はなざま

窓や扉にはめ込まれる、透かし彫りのこと。格子状の幾何学的なパターンが特徴。

おもに桟唐戸に使われ、禅宗様の意匠の一部と考えられる*1

 

破風はふ

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切妻や入母屋の屋根の端(妻という)の断面やその周辺のこと。また、断面部分に施された造形のことも指す。

破風には塗装や装飾具が施されたり、懸魚(げぎょ)が取り付けられたりすることがある。なお、寄棟や方形の屋根に破風は生じない。

設けられる場所や形状によって千鳥破風(ちどりはふ)、唐破風(からはふ)、縋破風(すがるはふ)といった呼称がある。

 

はり

柱間を繋ぐ水平方向の部材のうち、棟や軒と直行し、屋根などの荷重を柱に伝える部材のこと。基本的に建物の短手方向(短辺)になる。

なお、軒下に配置される水平材は虹梁(こうりょう)、妻虹梁、海老虹梁(えびこうりょう)などと呼んで区別される。

 

控柱ひかえばしら

親柱の前後に立てられる柱。塀などの後方に設けられる支柱のことも控柱と呼ばれる。四脚門や薬医門の場合、親柱を円柱、控柱を角柱として使い分けることがある。

 

ひさし

窓や扉の上に設けられる屋根状の構造物のこと。寺社建築の庇は、雨除けと装飾を目的としている。住宅建築の場合は、日除けの役割もある。

基本的に開口部の上にだけ設けられるが、特に寺院建築においては建物を一周するように庇を巡らすことがあり、これは裳階(もこし)と呼ばれる。

 

肘木ひじき

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屋根などの荷重を柱に伝える横長の部材。組物(くみもの)の構成要素のひとつ。斗(ます)と合わせて使われる。

舟肘木(ふなひじき)に限っては単体で使われることがある。

 

平入ひらいり

正面に立ったとき、大棟が左右に伸びている建物のことを平入と呼ぶ。対義語は妻入(つまいり)。

平(切妻屋根の軒側)から出入りするのが呼び名の由来。

参考:屋根の分類

 

檜皮葺ひわだぶき

筑摩神社本殿

ヒノキの樹皮を重ねて葺いた屋根や、その手法のこと。日本古来の伝統的な手法で、神社建築においては最も格調高い手法とされている。

・参考:屋根の分類

 

吹放ふきはな

柱だけで、壁や戸などの建具のない空間・柱間のこと。吹き放しとも。

向拝は吹き放ちの空間である。また、寺院本堂の外陣部分は三方が吹き放ちになっていることがある。

 

二手先ふたてさき

→持出 もちだし

 

二軒ふたのき

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二重の構造になっている垂木のこと。また、そういった垂木を有する軒裏のこと。

垂木が三重になっている場合は、三軒(みのき)と呼ばれる。二軒・三軒は基本的に寺社建築に見られるもので、住宅や城郭には採用されない。

二重の垂木のうち、棟から伸びるものを地垂木(じだるき)、その上に乗っているものを飛檐垂木(ひえんだるき)と呼ぶ。寺院建築においては、地垂木は円形断面、飛檐垂木は正方形断面とする「地円飛角」が正式だった。

 

仏塔ぶっとう

五重塔、三重塔、多宝塔(二重塔)といった多層の塔(塔婆)の総称。

この用語は塔状の寺院建築すべてを指し、石造の小規模なものも含む。一般には木造の五重塔などを指す。

神社に仏塔が現存することもあり、その多くは明治期の廃仏毀釈の危機を乗り越えて保存されたもの。

 

舟肘木ふなひじき

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肘木の一種。下側が丸くなった形状が舟のようなのでこの名がある。組物の中では最もシンプルかつ原始的な部材と言える。ただし、単体で使用されることがほとんどのため、厳密には組物とは呼べない。

奈良時代の日本で創始されたと考えられている。

 

扁額へんがく

高い場所に掲げられる額・看板のこと。

設置される場所は、鳥居の貫の上、楼門の上層、仏堂や社殿の軒下、室内の鴨居の上などがある。形式は、縦書き、右横書き(1字ずつ改行する縦書き)、左横書きなどさまざま。

寺号・社号、建物の名前、本尊や祭神の名前などが書かれる。ほか、教義を簡潔に示した文や、奉納者の祈願文が書かれる場合もある。

 

宝形ほうぎょう

「方形」とも書く。

屋根の形式のひとつ。平面が正方形の建物で寄棟を作ろうとすると、四角錐の屋根になる。大棟がないため寄棟と方形は別の様式として区別される。

・参考:屋根の分類

 

本地垂迹説ほんじすいじゃくせつ

神仏習合の思想のひとつ。神道の神々は、仏が姿を変えて現れた権現(ごんげん)だとする説。

平安中期頃に成立し、明治の神仏判然令で神社と寺院が分離されるまでつづいた。神の正体とされる仏は本地仏と呼ばれ、神社の境内に祀られたが、ほとんどは廃仏毀釈で破却された。

本地垂迹説は仏を主として神を従とする思想のため、鎌倉時代には逆に神を主として仏を従とする「反本地垂迹説」も現れた。

 

本殿ほんでん

神社の社殿のひとつ。拝殿の後方に配置され、神の鎮座する場所とされる。拝殿よりも小さく、拝殿の裏手に隠れて目立たないことがめずらしくない。

神社によっては山などの自然物を崇拝するため本殿がない場合がある。

 

本堂ほんどう

寺院の建物のひとつ。境内の中心部に配置され、本尊となる仏が安置される。

古くは「金堂」(こんどう)とも言った。寺院によっては観音堂や薬師堂といった名称の堂が事実上の本堂となっている例も少なくない。

*1:『古建築の細部意匠』p.218、近藤豊、1972年