今回は大阪府羽曳野市の野中寺(やちゅうじ)について。
野中寺は市北部の住宅地に鎮座する高野山真言宗の寺院です。山号は青龍山。
別名は中の太子。上の太子・叡福寺(太子町)、下の太子・大聖勝軍寺(八尾市)と並ぶ三太子(聖徳太子建立の3か寺)のひとつ。
創建は寺伝によると飛鳥時代で、聖徳太子の命を受けた蘇我馬子の開基とのこと。発掘調査によれば、飛鳥時代から奈良時代には法隆寺式配置の大伽藍が建立されていたようです。その後の沿革は不明で、南北朝時代の動乱ですべての伽藍を消失し、長らく廃寺の状態だった模様。
江戸初期に再興されますが火災で伽藍を焼失し、江戸中期に再建されています。明治期には律宗から高野山真言宗に改宗しました。
現在の境内伽藍は江戸中期以降に整備された比較的新しいものです。また、境内には創建当初のものと思われる堂宇の礎石が残され、伽藍跡として国の史跡となっています。
現地情報
所在地 | 〒583-0871大阪府羽曳野市野々上5-9-24(地図) |
アクセス | 藤井寺駅または古市駅から徒歩25分 藤井寺ICまたは美原ICから車で10分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
山門(仁王門)
野中寺の境内は南向き。入口は車通りの多い幹線道路に面しています。
山門は一間一戸、八脚門、切妻、本瓦葺。
柱はいずれも円柱。
軸部は貫で固定されていますが、木鼻は使われていません。
柱上の組物は平三斗。中備えはありません。
妻飾りは二重虹梁。
破風板の拝みには猪目懸魚。
背面。
中央の間口は広く取られ、中備えに間斗束が使われています。
背面の左右の柱間は、とくに像などは置かれていません。
塔跡と金堂跡
山門をくぐった先の参道左手(西側)には塔跡があります。
西暦650年頃ここに塔が建てられたようですが、南北朝時代に兵火で焼失したとのこと。
どのような形式だったか(三重塔か五重塔か、あるいは多宝塔か)はわかりませんが、礎石の配置から方三間(正面側面ともに3間)の構成だったと考えられます。
参道右手(東側)、塔跡の向かいには金堂跡。
南北(桁行?)5間・東西(梁間?)4間の構造で、西を向いた左右に長い堂だったと考えられます。
山門の先に塔と金堂が向かい合う配置は、法隆寺の伽藍配置とよく似ています。ただし法隆寺式伽藍配置は塔・金堂を両者とも南向きにする点で異なっており、塔と金堂を向かい合わせるという点では川原寺式伽藍配置(東に金堂、西に塔を置いて相対させるため野中寺とは東西が逆)に近いとのこと(羽曳野市の案内板より)。
本堂
参道の先には本堂が南向きに鎮座しています。
桁行5間・梁間3間、入母屋、本瓦葺。
正面中央の3間は、蔀と桟唐戸。
中央の柱間には短い長押が打たれ、扁額が掲げられています。扁額は「龍護殿」。
正面の左右の柱間は火灯窓になっています。
縁側がなく土間で、桟唐戸や火灯窓が使われていて、禅宗様建築を意識したらしい外観です。
柱は円柱。細めの材が使われています。
軸部は長押と貫で固定され、木鼻は使われていません。
柱上は実肘木が使われています。
軒裏は一重の繁垂木。扇ではなく、平行の垂木です。
破風板の拝みには鰭付きの三花懸魚。
妻壁には妻虹梁と板蟇股が使われています。
本堂の手前、参道右手には手水舎。
切妻、本瓦葺。
手水舎なのですがなぜかベンチが置かれ、休憩所として使われていました。
大師堂
本堂向かって右、境内東には大師堂。
桁行3間・梁間3間、宝形、向拝1間、本瓦葺。
向拝柱は几帳面取り。
虹梁は、柱から出た斗栱で下部を持ち送りされています。木鼻は若葉の意匠。
中備えは鰐口でよく見えませんが、蟇股。
柱上は出三斗。
向拝と母屋はまっすぐな梁でつながれています。
母屋柱は角柱。柱上は出三斗と平三斗。
地蔵堂と鐘楼
本堂向かって左、境内西には地蔵堂。
桁行3間・梁間3間、宝形、本瓦葺。
地蔵堂の左手前には鐘楼。
切妻、本瓦葺。
飛貫の中備えは束と実肘木。
妻虹梁に立てられた束の下部では、木鼻が横に飛び出ています。
鐘楼の手前には「ヒチンジョ池西古墳石棺」。
1946年に、当地から1kmほど離れたヒチンジョ池西古墳から発掘された石棺。古墳は西暦700年頃に造られたものと考えられています(羽曳野市の案内板より)。これは棺そのものではなく、棺を納めるための石室として古墳の中に造られたものらしいです。
野々上八幡神社
境内の西側には野々上八幡神社(ののうえ はちまん-)が並立しています。
創建は不明ですが、野中寺と同時期に創建されたと考えられています。江戸期には野中寺の鎮守社という扱いだったようですが、明治期の神仏分離で独立した神社となりました。一時は同市の大津神社に合祀されたようですが、戦後に現在地に再興されたとのこと。
拝殿は切妻、正面軒唐破風付、銅板葺。
本殿は塀に囲われていてほとんど見えないですが、拝殿から正面をのぞき込むことができます。さすがに細部意匠までは観察できません。
一間社流造、銅板葺。
祭神は八幡神。
以上、野中寺でした。
(訪問日2021/11/21)