世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【山梨市】大井俣窪八幡神社 ~前編・室町時代の本殿を間近で鑑賞~

今回は山梨県のマイナー観光地ということで、大井俣窪八幡神社(おおいまた くぼはちまん-)について。単に“窪八幡宮”と呼ぶこともあるようです。

当記事では書きたいことがあまりにも多く、かなりの長文になってしまったので、境内の社殿を大まかに紹介する前編と、窪八幡神社の本殿を細かく解説する後編に分割してお送りします。

 

この神社は、山梨県に数ある神社の中でも必見の内容です。私に言わせれば、ここは甲信地方の神社では最高級の穴場です。社殿のすごさについては後で詳細に語りますが、こんな素晴らしい神社でありながらゴールデンウィーク初日の昼間にも関わらず閑散としていて、規格外の豪壮な社殿を心行くままに独り占めできる夢のような空間です。

大井俣窪八幡神社へのアクセスは、最寄りの東山梨駅から徒歩30分程度です。バスを利用する場合は山梨市駅がお勧めです。

駐車場は境内の東側に10台分程度あります。

 

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文化財だという鳥居があるのですが、そちらはスルーしてまずは門から。檜皮葺(ひわだぶき)の四脚門(よつあしもん、しきゃくもん)です。

察しの良い方なら、この門を見ただけで窪八幡神社が只者ではないことを瞬時に理解できるかと思います。檜皮は神社の屋根の素材として最高格のわけですが、近現代ではメンテナンス性と経済性の都合から銅葺に葺きかえられている場合がほとんどです。そんな檜皮をこのような門にまで使用しているということは、この先にある拝殿や本殿ももちろん檜皮葺であり、非常に篤く信仰を受けている神社であることが推測できます。

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柱が6本ありますが、これは四脚門です。メインの円柱が2本、補助の角柱が4本といった構成で、角柱が4本あるので四脚と呼ばれます。傾向としては神社よりも寺院に採用されることが多いです。

 

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手水舎。さすがにこちらは銅葺きでした。

 

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八幡宮というと神仏習合の傾向が強いですが、ここも例外ではなく、鐘楼(2階建ての鐘つき堂)があります。こちらは檜皮葺。

 

八幡神社境内には多数の社殿がありますが、恐ろしいことに重文の社殿が6棟もあります。全ての社殿を紹介しているときりがないので、以降は重文の社殿だけに絞って紹介・解説していきます。

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まずは摂社、若宮八幡神社(わかみやはちまん-)の拝殿から。間口四間の入母屋(平入)です。

棟が反っていて、左右の端が高くなっています。たぶんこれは、棟がまっすぐだと目の錯覚で左右が垂れた感じに見えてしまうので、こんな風にしているのでしょう。

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そして間口4間に対して出入口は1間なので、左右非対称の造りになっています。ですが向こうに見える若宮八幡神社本殿と出入口の中心が一致しています。前後と左が吹き放ちなのに、右だけ壁になっているのも奇妙です。

私の推測ですが、この拝殿のいちばん右の1間は、後付けで追加されたものかもしれません。

 

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こちらが若宮八幡神社の本殿。三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。当然ながら檜皮葺です。

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軒下。組物も虹梁も装飾がなくてシンプル。室町時代末期の本殿とのこと。なんとも嬉しいことに瑞垣の中に入れます! 室町時代の三間社をこんな間近で拝めるのは、甲信地方ではなかなかありません。

江戸時代にありがちな彫刻まみれの社殿とちがって、無駄な装飾がないぶん神社建築本来の造形美を楽しめます。

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裏側。床上は円柱だが床下は八角柱... という手抜きは室町時代辺りから出現するのですが、この社殿は横着せずにしっかりと床下まで円柱に成形されています。

 

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メインの本殿は最後のお楽しみに取っておくことにして、お次は末社、高良神社(こうら-)本殿。一間社春日造(いっけんしゃ かすがづくり)。

春日造は別に珍しい様式ではないですが、甲信地方にある神社のほとんどは一間社流造なので、流造以外の本殿を見るとつい嬉しくなってしまいます。母屋の屋根や向拝は反りのついた曲線的な造りで、社叢の緑に檜皮葺のカーブが美しく映えます。

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こちらはホワイトバランスを変えた写真。室町時代の建築なので、質素な外観です。

左奥に映っているのは武内大神です。

 

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武内大神(たけのうちおおかみ)本殿。一間社流造。文字通り、祭神は武内宿禰(たけのうちの すくね)です。こちらも末社

木階(きざはし:正面の階段のこと)は9段あり、この規模の社殿にしては段数が多いかも。

 

さて、ここで摂社末社の紹介がすんだので、やっと本社のほうを紹介できます。

写真は窪八幡神社の拝殿です。屋根は檜皮葺で平入の切妻。壁のようにそびえ立っており、あまりにも長大なため、一枚の写真には収まりません。

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間口はなんと十一間、奥行きは三間。あと少しで消失点に達しそうな長さです。こちらもやはり室町時代の様式なので、シンプルな造り。組物も舟肘木(ふなひじき)くらいしか使われていません。

続いて、いよいよ真打ちとなる本殿の紹介に行きたいところですが、文量が多くなってしまったので後編に続きます

後編は更に濃い解説をして行きたいので、当記事で疲れてしまったかたはブラウザを閉じることを推奨いたします...

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